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三者三様に追いかけて

 

 それを最初に言ったのはアビスさん。

 リヴァイアさんの告白を全員揃って見届けた直後のことでした。


「パーティ、しよう」


 歓喜で浮かれていたのでしょうか。

 それとも単に興味があったのでしょうか。

 彼女は目を輝かせながら私に訴えます。


 当然私は混乱しました。

 なぜ私にだけそれを言うのかと。

 マキナさん達には言わないのかと。

 すぐに私はその疑問を投げかけます。

 すると彼女は当然のように、


「ラナ、うちの大黒柱」


 と言いました。


 ……どこでそんな言葉を覚えたのでしょう。

 確かにこの家を管理しているのは私です。

 しかし、元は彼の家。

 私もまた居候のようなものなのです。

 まあ今はその家主が行方不明なのですが。


 ですが私も納得は行きました。

 アビスさんのことですから、管理者である私に先に許可を取りたかったのでしょう。

 だとしたら、わたしの返事は簡単です。


「いいですね、パーティ」

「——!!」


 断る理由がありません。

 リヴァイアさんとお父さんの新しい始まり、親友であり娘である私としても是非祝福したいです。

 でしたら早速皆さんにも……。

 と、呼びかけようとした時でした。


(待ったラナ!)


 脳に直接響くリッカちゃんの大きな声。

 その声に、頭の中をじかに鉄棒で殴られたような衝撃を覚えます。

 すぐさま私は彼女を見ました。

 というより、ちょっと睨みました。

 念話する時はテンション抑えてといつも言っているのに……。


(何ですかリッカちゃん!)

(アンタ等の話、聞かせてもらった!)


 まあそうだと思いました。

 だから私の発言を止めたのでしょう。

 なので早く内容を。

 アビスさんがキョトンとしてますので。


「ラナ、どうしたの?」

「な、何でもないですよ!」


 私は咄嗟に言葉を繕います。

 しかし流石に怪しすぎました。

 アビスさんの表情から困惑が拭えません。

 他の人達も少しずつ盛り上がりが薄れ、こちらの雰囲気を感じ取られてしまいそうです。


 リッカちゃんの意図は不明です。

 でも、早く内容を教えてほしいです。

 祝福の直後に台風の目になるのはなかなか恥ずかしすぎますから!


 そう考えていると、リッカちゃんは腕を組んで私に話しかけてきました。

 当然脳に直接語りかける念話で。


(ただのパーティじゃつまらないでしょ?)

(サプライズって事ですか? でも時間が)

(そうじゃないんだなーそれが)


 今日のリッカちゃんは勿体振りますね。

 こういう時は基本妙案をいう彼女。

 楽しみです。とても楽しみではあります。


 でも、流石に勿体ぶりすぎです。

 私からすればこれ以上は冗長なだけ。

 というか、どんどん私が台風の目になってしまう確率が増えていくだけです。

 無言で迎える台風の目は恐ろしすぎる。

 その前に何とかパーティ談義に決着を。


 願いながらリッカちゃんを見つめます。

 すると彼女はニヤリと笑い、三度念話を送ってきます。


(アタシにいい考えがある)


 まだ勿体ぶりますか。


 * * * * * * * * * *


 そんな念話合戦から約2時間。

 なんとか台風の目が訪れる前に会議を終え、私達はパーティの買い物として中心街へ訪れました。


 留守番はシーシャさんとダヌアさん、そしてアビスさん。お三方には家で出来るぶんの準備をしてもらいます。

 そしてこちらに来ている残り6名はといえば。

 たった今、リッカちゃんの策を遂行中です。


 そうこうしているうちに、私達のいる道の反対側からリヴァイアさんの声が響きます。


「ラナー! アビスー! どこ行ったー!?」


 私達を呼ぶ彼女の声。

 その隣には同じく別れたお父さんの姿。

 作戦はリッカちゃんの思い通りです。

 勿体ぶって教えられた甲斐がありました。

 私達は少し遠目で彼等を観察します。


「本当にバレないのですか?」

「この距離ならフツー気づくっしょ、それでバレてないんだからよゆーよゆー」


 観察しつつ心配を嘯くマキナさん。

 それをリッカちゃんは軽くなだめます。

 潜伏も当然抜かりはありません。

 何せリッカちゃんの幻術の影響下です。

 例えば目の前にいようとリヴァイアさん達は私達の存在に気がつくことはないでしょう。


「くっ! 嵌められた……っ!!」


 膝をつき地面を叩くリヴァイアさん。

 どうやら状況を理解したようです。


 リッカちゃんの考えた作戦。

 それは、無事結ばれたお2人に早速水入らずのデートをさせるというものでした。


 その為に2人を連れ出し中心街へ。

 パーティの買い物を称し一度別行動。

 その後私達だけここへ再集合。

 機を図ってわざとはぐれたのです。

 そして追い討ちのリッカちゃんの幻術です。

 お父さんとリヴァイアさんは完璧に2人きりです。


 しかし流石は歴戦のお2人。

 1分と経たず作戦はバレてしまいました。

 それに対し怒りをあらわすリヴァイアさん。

 ですが、お父さんは彼女と対照的でした。

 口元を綻ばせ、彼は呟きます。


「フッ、俺達も甘いな」

「舐められてたまるか! 見つけ出して説教してやる!!」


 目を血走らせるリヴァイアさんと状況を受け入れたお父さん。

 対照的な反応が少し微笑ましいです。

 お父さんはその余裕で彼女を窘めます。


「今は策に乗ってやろうじゃないか」

「り、龍皇…………」


 肩を叩き、軽く抱き寄せるお父さん。

 対して体を震わせるリヴァイアさん。

 彼等はそのまま、中心街の最も賑やかな通りへと歩いていきます。

 ここからでは既に背後しか見えません。

 しかしリヴァイアさんの耳は、遠くからでもしっかりわかるほどに真っ赤に染まっていました。


 悠久を武人として生きた彼女に実った恋。

 それがあのような乙女らしい仕草に現れるのでしょうか?

 年下の私すらドキドキしてしまいます。

 リッカさんもどうやら同じようです。

 唇を噛み、少し興奮気味に彼等を見送ります。


 しかし、マキナさんは違うようでした。

 去りゆく背中を見つめつつも、その症状はどこか疲れたように暗いまま。

 姿が見えなくなると、溜息混じりに呟きました。


「……ああいう年の取り方をしたいです」


 中々に重みのあるマキナさんの言葉。

 私達は一度声を詰まらせます。


 マキナさんは今年で27歳。

 人間の世界では"結婚適齢期"という恋愛事におけるかなり重要な時期だそうです。

 その期限は30歳まで。

 マキナさんやダヌアさんは、なぜかその年齢を恐れているようでした。

 ……正直あまりわかりません。


 それにお2人が心配する事も無いと思います。

 ちっちゃくなって蘇ったダヌアさんはともかく、マキナさんは大人びた雰囲気のある美人さん。

 本気を出せば相手には困らないはずです。


 気落ちして項垂れるマキナさん。

 そんな彼女に私は応援の声をかけます。


「年齢なら私のほうが——」

「ストップラナ! アタシ等のソレは励ましになんないから!!」


 鬼気迫る表情で止めに入ったリッカちゃん。

 その切羽詰まった表情に私は驚きます。

 どうやら私は禁句を言いかけていたようです。

 そう考えると、止めてくれて感謝です。

 私も気をつけないと……。


 しかし、どう声をかけたものでしょう。

 恋愛知識で言えばお2人に比べて明らかに1歩遅れている私。お2人に恋心を気付かされた私です。

 どう声をかければいいのか、迷います。


 何より、彼女の気持ちは理解できるのです。

 彼女が他の誰かを選ばない理由。

 それは間違いなく——。


「……付き合ったんでしょ、アイツと」


 ——そう、彼がいるからです。

 私達は友人であり恋のライバル。

 だからこそ気持ちは読み取れます。

 転じて、だからこそ心配なのです。

 生き急ぐように彼を待つ彼女の姿が。


 私は彼女達に救われた身でもあります。

 だから声をかけてあげたいのです。

 でも私はまだまだ知識不足。

 ここは、リッカちゃんに任せます。


 彼女ならきっとマキナさんを理解できる。

 私はそう信頼していました。


「アタシ等からすれば、一回は先行ダッシュでアンタに負けてるんだから。色々教えて欲しいくらいだし」


 ちょっと強い口調で説くリッカちゃん。

 しかし彼女の言葉は事実です。

 私達は1度、手も足も出ずに負けたのです。

 マキナさんの最強最速の1手によって。


 今は2人に特別な繋がりなどありません。

 ですが1度はそれを繋げたのです。

 それだけで、私達より格段に有利です。

 実際に恋人だった時期があるのですから。

 その知識と実績こそが彼女の武器なのです。

 ライバルとしては確実に最強格。

 ですが、彼女に対する私とリッカちゃんの気持ちは確実に同じです。

 リッカちゃんはそれを堂々と宣言します。


「アタシも負けないんだから」

「……フフッ、どうでしょうね」


 するとマキナさんは不敵に笑いました。

 よかった、いつものマキナさんです。

 最近はかなり神妙な表情になることが多くなりましたから心配ですが、立ち直れるなら安心です。

 何より、クールな彼女は私も大好きです。


「こういうのは元の鞘に戻るのが定石、つまりアリさんは再びボクの元に戻るはずです」

「ハッ、果たしてソレはどうかな?」

「その例えなら相棒は私、つまり元の鞘も私です!」


 ……こんな感じでちょっとブラックな事を言う彼女も。

 当然私達はそれに真っ向から対抗します。

 応援しながら競い合う、それが私達です。


「しかし忘れてはいけませんよ、ボク達にはまだライバルがいるのですから」

「アビスさんとシーシャさんですか?」


 マキナさんの言葉に私は返します。

 彼女達も油断ならないライバルです。

 まだ公言はしていませんが、シーシャさんはまず確実に彼に好意を抱いているはず。

 策略家の彼女も強敵になるでしょう。


 アビスさんが敵に回った時も怖いです。

 何故なら彼女には前科があります。

 私達に黙って彼の旅立ちをバックアップしたというかなり大きめの前科が。

 彼女の無表情はそこが危険です。

 どんな策略があるかもわかりません。


 ですがどうやら違うようです。

 それはお二方の表情でわかります。

 余裕の笑みを浮かべるマキナさん。

 やれやれと首を振るリッカちゃん。

 しかし私にはピンと来ません。


 するとリッカちゃんは、親切にもそのヒントを私に提示してくれました。


「未知数なのがいるでしょ?」


 未知数、それがヒントでした。

 私達にとって情報に乏しい相手。

 対抗する策も見つかっていない相手。

 そんな人物がいたでしょうか?

 いるとしたら、それは例えば——。


 考えながら歩いていた、その時です。

 急な衝撃が私の前方から伝わりました。


「きゃっ!」

「わわっ」


 2人揃って尻餅をついた私達。

 どうやら向こうから歩いて来た人と正面衝突してしまったようです。

 やはり歩きながらの考え事は危険です。

 反省しながら、私は顔を上げました。


「痛た……大丈夫ですか?」

「大丈夫、怪我もないみたい」


 衝突した相手を見ると、その方の言うとおり体に怪我のようなものは見えません。

 すらっとした白い服の女性。

 その手には召喚陣の素が刻まれています。

 顔もよく見れば少し見覚えがあります。


 その顔を見たマキナさん達は絶句していました。

 やがて私も少しずつ彼女を思い出しました。

 そして同時に、リッカちゃんの言っていた存在に心当たりがつきました。


 私達にとって未知数な存在。

 出会って間もなく、それでいて知らず知らずのうちに彼と旅に出たもう1人のライバル。

 彼女はまさしくそのライバルでした。


 こみ上げた驚き任せに、私は彼女の名前を叫んでしまいました。


「シズマさん!!?!?」


 シズマ・シン。

 彼と旅を共にした、その人に間違いありませんでした。


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