暗黒龍対リヴァイアサン 無人島の大決戦!
危険度S級海魔・リヴァイアサン。
その名前は伊達ではなかった。
紫色の破壊光線が島を焼く。
恐らく、神殿を破壊するためだろう。
俺たちの連携は早かった。
まずマキナが防壁を作り、島を守る。
金銀姉妹がシーシャを守り、リヴァイアサンに吹き飛ばされたラナを探す。
そして、俺は。
「『幻想の大翼よ、天上を駆けよ』」
ただ一人、リヴァイアサンに応戦する。
ガルーダでは耐久力が低すぎる。
多少速度が遅くても、グリフォンを選ぶ。
……が、俺の考えが甘かった。
——キィィィィアア!!——
奴の攻撃は、光線だけではなかった。
触手の一撃を、グリフォンと俺はまともに食らってしまった。一定量のダメージを負ったグリフォンは、召喚が解除され消滅する。
そして俺は、空中へと投げ出された。
参った、衝撃で頭が回らない。
海に落ちても、俺は無事だろう。
だが、次に攻撃されるのはマキナ達だ。
何とか、召喚しなければ——。
——グォォォォォ!!——
咆哮と共に、俺の体は打ち付けられる。
海面ではない。もっと硬い。
それでいて……馴染みがある。
「……ラナ!」
『吹き飛ばされたおかげで、誰にも見られずに変身解除する隙ができました!』
「それは良かった。でもあんま喋るなよ?」
『そ、そうでした! グォォォォォ!!』
人間時の小さな背中と同じとは思えない。
頼りになる背中だ。
改めてリヴァイアサンと対峙する。
まあ、対峙しているのはラナなのだが。
ここからはサポートの時間だ。
俺自身も慣れた動きで、頭によじ登った。
体格はあちらが圧倒的に大きい。
が……どう出る?
——キィィィィアア!!——
先に動いたのはリヴァイアサンだ。
無数の破壊光線を、触手と口から放つ。
だが、暗黒龍は無傷。
羽一枚すらダメージを受けていない。
「ラナ、突っ込め」
あちらの攻撃は脅威じゃない。
それがわかれば攻めるのみ。
上からねじ伏せる。
敵もこちらの思考がわかったようだ。
近距離では分が悪いと、触手で牽制する。
——ああもう!
「『鬱陶しい!!!』」
ラナが口から赤黒の火焔を放つ。
それにより、あたりの触手は一瞬にして消し炭と化した。
——グォォォォォ!!——
咆哮と共に、一気に距離を詰める。
ここまで来ればもう肉弾戦だ。
噛みつけ。
切り裂け。
捻り切れ。
『く……っそ!!』
「どうした?」
『これじゃ時間がかかりすぎます!』
「大丈夫だ、倒せるなら」
『でも、そろそろ周りの被害が!!』
そうか、確かにそれはマズい。
攻撃の余波だけで辛い災害クラスだ。
「全力でもダメか?」
『全力出したら、たぶん島ごと……』
「わかった、なら弱点を探そう」
相手の弱点を探すため、手を構える。
カラスは力不足、ガルーダも耐久が弱い。
何を召喚すべきか……。
『————』
横から誰かに手を取られる。
無数に生えた小さな触手。
ザラザラとした表面。
ヒトデだ。
そういえば、召喚解除してなかった。
「ヒトデ? お前、何で」
『その子、勝手にくっついてきちゃって!』
攻撃を続けながらラナが話す。
なるほど、どうりで見なかったわけだ。
「何かできるのか、ヒトデ?」
『————!』
俺たちの間に言葉はない。
だが、彼女が何かを訴えかけてくる。
それだけはよくわかった。
その訴えに応じ、俺は彼女の体に乗る。
やはり、少しザラザラしている。
いつまでもヒトデと呼ぶのも憚られるな。
なら、今のうちに名前をつけよう。
"深淵の星屑"
彼女の詠唱呪文。
ここから考えるなら、名前は……。
「今日からお前の名前はアビスだ」
『————』
「どうだ?」
『————!!』
おそらく頭にあたる場所をぶんぶん振る。
喜んで、くれているのか?
そのままの勢いでヒトデ……アビスはラナの肉体を離れ、あの超高速で飛行する。やっぱり速い。
「避けろ」
『————!』
指示を出さずとも、アビスは攻撃を避ける。
やはり知能もかなり高い。
触手と破壊光線の応酬。
これすらも簡単にかいくぐる。
速さと小ささが、見事にマッチしている。
リヴァイアサンの額に着陸する。
果たして、彼女に何ができるのか。
『………………』
「……アビス?」
全身をリヴァイアサンに貼り付けるアビス。
彼女の沈黙と同時に、足元も静かになる。
——キィィ……——
小さな声と共に、完全に動作が停止した。
虫の知らせが走る。リヴァイアサンに手を当て情報を読んだ。
……書き換わっている。
少しずつだが確実に。
リヴァイアサンのデータが、アビスの肉体に書き換わっていく。
「アビス、お前の力ってまさか」
『————』
「……わかった、それがお前の望みなら」
おかしいと思った。
高速移動じゃ、極大召喚は使わない。
彼女には本来の能力があった。
触れた相手を乗っ取る。
こんな怪物相手に臆さないわけだ。
何とも海のモンスターらしい能力。
……だからこそ、彼女の決断が惜しい。
「ラナ、今なら倒せる」
『でも、アリク様が!』
「おれはいい。なんとかなる」
『……わかりました!』
言葉を介さずともわかった、彼女の決意。
自分諸共の破壊だった。
今でこそリヴァイアサンは動かない。
だが、全てを取り込んでいる訳でもない。
いつ暴れてもおかしくない。
だから、今のうちに。
言葉のない強い信念だった。
「お前、何であんなとこにいた?」
『————?』
「何言ってるか、わからないな」
『————……』
言葉が通じれば確実に話し相手になる。
だが、通じない。
強い意志は感じ取れる。
なのに、他愛ないやり取りはできない。
このもどかしさが、俺たち人間とモンスターの溝なのかもしれない。
……なんて、モンスター好きの戯言だ。
「お前みたいな戦力、手放したくないなぁ」
『————』
惜しむように呟く。
すると、アビスは俺の体を突き飛ばした。
何をされたかと一瞬混乱する。
だが、よく見てみると理解できた。
いつの真にか、ラナの爆炎がリヴァイアサンに着弾していたのだ。
俺は手を伸ばした。
だが、彼女にその意志はないようだ。
「アビス!!」
『————!!!』
ラナの爆炎に、リヴァイアサンごとアビスの身体は飲み込まれていった。





