変わった日常
最近、変な夢を見ます。
気づくといつもその夢を見ています。
夢の風景は、いつも違う場所です。
ある時は、私達の住む家の中。
ある時は、シーシャさんの邸宅。
ある時は、収穫祭前に歌を練習した草原。
私とアリク様が出会った場所も見ました。
今はないはずの白い地下空間も見ました。
風景の選択肢に際限はありません。
ただ一つ、変わらないことがあります。
それは————。
* * * * * * * * * *
「——ナ、聞いているのラナ?」
「ん……はっ!?」
結婚式から数日後。
私はシーシャさんとお出かけ中です。
初めて入った"喫茶店"に興奮です!
でも、昨日の疲れが抜けていませんでした。
少しぼーっとする時間が多いです。
今日は大陸中央に遊びに来ています。
リッカさんがアイドル活動の拠点にしている街で、ここ半年では何度か訪れました。
おしゃれな服が沢山並んだお店。
どこに行っても人がいる賑やかさ。
この街は、何度来ても飽きません。
同じくらい慣れ等のも大変かもですが。
だから、今日は街でおしゃれの勉強です。
そしてさすがシーシャさん。
おしゃれなら彼女に教われば正解です!
こんな喫茶店も知っているのですから!
なのに、私としたことが……。
「ごめんなさい……」
「気にしないわ、最近のあなた変だもの」
「変……ですか?」
「自覚はないかもしれないけど」
そう言ったシーシャさんは、少し微笑んでティーカップに口をつけました。
確かに変と言われる自覚はありません。
指摘されて初めて気がつきました。
でも、思い返すと心当たりはあります。
自分でも少し落ち着いたような感情。
交友関係の変化と共に変わった心持ち。
考え事とぼーっとする事が増えて。
それに、あの夢。
あとは寝起きが良くなった事ですね。
昔に比べて変わったところは多いです。
でも、変というのは少し気になります。
夢と惚けが変と言われる理由でしょうか。
しかし何故かと聞かれるとわかりません。
自分も気づかぬうちに変わっていました。
……っとと、いけません。
そういえばシーシャさんの話の途中です。
いつの間にか話題が変わっていました。
彼女の話も少し深刻です。
しっかり話を聞かないと!
「シーシャさん、大陸中央に住むって」
「あら、聞いてたのね」
再び切り出すと、彼女は少し驚きました。
意外と聞いてるんですよ?
シーシャさんの顔も真剣でしたし。
それで考え事をしたらいつの間にか……。
既に理由はいくつか聞きました。
それに今の彼女の立場も知っています。
でも、彼女の行動は少し不憫です。
自分から起こした行動らしいですが。
なのにシーシャさんは今も澄まし顔です。
全ての覚悟が決まったかのように。
「私も子供よ? 勉強しないとね」
「でも!!」
「それに……お父様の迷惑になるから」
最初の言葉が建前。
次に出た言葉が、本音……いえ、シーシャさんが立場上とった選択肢の理由です。
シーシャさんのお父様の目覚め。
それは、あの戦いから2ヶ月後の事でした。
まだ世界の混乱が拭えない頃。
彼女の計画が始まってすぐの頃です。
お父様に代わって領主を務めてきた彼女。
私達は彼女に幾度となく救われました。
しかし、その裏で失態もあったようです。
失態の清算は彼女には不可能でした。
決定打になったのが、暗殺未遂でした。
それを今、領主様は清算しています。
自分のいなかった時間を取り戻すように。
ただその過程で余るものがありました。
それが……シーシャさんとその部下達。
メリッサさんとマキナさん。
そして、私達です。
メリッサさんは給仕に雇用されました。
しかし、養子関係は解消されたようです。
そしてマキナさんは、解雇されました。
魔術の研究に力を貸す暇はないと。
冷徹ですが、納得のいく判断です。
でも、マキナさんには蓄えがありました。
おかげで今は便利屋さんをしています。
私達のほうも何とかできています。
アリク様はマキナさんと便利屋さんを。
私とアビスちゃんで家の守り。
それに、今はリッカさんも働いています。
彼女のサポートも私達の仕事です。
しかしそれで良かったとは思えません。
シーシャさんは1人になりました。
部下の人達も離散。
お父様との関係も上手くいかないようです。
だから、1人で暮らす決意をしたようです。
……納得いきません。
私は、少し影のある彼女に告げました。
「私、毎日遊びに行きます!」
「話は聞いてた? 私は勉強を——」
「だったら一緒に勉強したあと遊びます!」
「……ハァ、貴女って子は」
私の言葉に呆れるシーシャさん。
でも、私は納得がいかないのです。
これまでの彼女な否定されるようで。
シーシャさんだけ除け者にされたようで。
しつこいと思われるかもしれません。
子供のような理屈なのは承知です。
それでも彼女が許してくださるなら。
私は、彼女といつまでも友達でありたい。
そう思って私は叫んだのです。
……正直、私は卑怯です。
こう頼めば帰ってくる答えはわかります。
シーシャさんは……そういう人ですから。
「引っ越したら、いつでも来て頂戴ね」
予想通りの返事が返ってきました。
その顔は、呆れたような笑みのまま。
それに私も笑顔で返しました。
周囲の視線なんて気にしません。
ご迷惑をかけたことは、謝ります。
そのまま私達は食事に戻りました。
美味しいお茶と共に流れる時間。
シーシャさんに教えてもらうおしゃれ。
とても充実した時を過ごしました。
ふと、再び話題を変えます。
それは私の夢の話です。
私が最近変な理由の一つでもあります。
先程話題が途切れたのもこれです。
私も気になっているところがあります。
相談すれば、解決するかもしれません。
早速それを口にしようとしました。
その時です。
「すみませーん、オーダーをー」
私達のいる席から少し離れた1人席。
そこにいるお客さんが注文を呼びました。
これならよくありがちな光景です。
そのお客さんがリッカちゃんでなければ。
「リッカちゃんだ……」
「ウソ、あのリッカちゃん!?」
私もシーシャさんもその先を見ました。
周りのお客さんも同じく見ています。
当然、店員さんもです。
そこには当然のように彼女がいました。
眼鏡や帽子などの変装も一切せず。
普段着ているようなかっこいい服装で。
メニューを持って、手を挙げています。
ただ流石に変化に気づいたようでした。
挙げた手が、少しずつ下がります。
しかし、流石にもう遅いです。
「サイン! サインしてください!!」
「ずっと前から貴女のファンでした!」
「あ……ふ、ふひ、握手を……」
「汚い手でリッカちゃんに触るな!」
一瞬にしてお客さんも店員さんも、リッカちゃんを中心とする人だかりに変わってしまいました。
こうなってしまうともう地獄です。
秩序なんてあったものではありません。
確かに彼女は今をときめくアイドル。
知らない人はいない存在です。
でも、この状況は流石にまずいです。
一部の冷静な店員さんは止めていますが。
彼女も予想はできなかったのでしょうか。
それが少し気になるところです。
だけど見捨てるわけには行きませんよね。
私とシーシャさんは席を立ちました。
人だかりに入り彼女の元へ向かいます。
「貴女も災難ね、リッカ」
「シーシャ!? それにラナまで!」
「奇遇ですね! 逃げましょう!」
彼女の手を取り、人の群れから脱出。
シーシャさんがお会計を済ませました。
その間ほんの数秒です。
でも、混乱は収まりません。
彼女がいる限り収まらないでしょう。
私達は、3人でお店を飛び出しました。
「あ、アタシも流行りのお店とか回って遊びたかっただけなのに〜!」
* * * * * * * * * *
「お帰りなさい、ラナさん」
「あ、マキナさん!!」
予定より少し早めの帰宅。
帰ると、家にはマキナさんがいました。
大陸中央から家までは一飛びで帰れます。
歩きだと数週間かかりますが。
これは私達だけの強みですね。
私の正体を知っている人も多くなったので街の近くまで飛んでも大丈夫になったのは嬉しいです。
当然、帰宅はシーシャさん達も一緒です。
「お嬢様まで、どうされたのですか?」
「遊ぶつもりがちょっと巻き込まれて、ね」
「……ゴメン、2人とも」
私達は喫茶店で起こった事を話しました。
するとマキナさんは苦笑いを浮かべます。
当然の反応ですね。
リッカちゃんも気をつけないと……。
「…………えっと」
「どうされましたか?」
……忘れていました。
リッカちゃんとマキナさんの関係を。
リッカちゃんの好きな人はアリク様です。
あの反応を見れば私も気づきます。
ただ、その思いは叶いませんでした。
意外な伏兵、マキナさんによって。
勝負の前に決着がついていたのです。
でも、まだ関係は公表されていません。
公然の秘密として箱の中にあります。
しかしリッカさんは泣きました。
そして、アイドルの道に進みました。
マキナさんとの面会も久々です。
結婚式では話していなかったので。
こうなると……辛いですね。
マキナさんはリッカちゃんの気持ちに気付いていないようでした。
解決にはリッカちゃんの勇気が必要です。
お2人の関係を聞き出す勇気が。
そして、自らの気持ちを明かす勇気が。
ある意味今がチャンスです。
私は心の中で強く応援しました。
……しかし、中々間が合いません。
「小娘ー、義体の使い心地だがー」
「はーい、今行きまーす。ごめんなさいリッカさん、ちょっと行ってきますね」
畑のほうから声が聞こえました。
リヴァイアさんの声です。
マキナさんの来訪には理由があります。
それは、リヴァイアさんの義体作りです。
未だにアビスさんと体を共有する彼女。
流石にその生活には支障があります。
そこで、ゴーレムの力の出番です。
ゴーレムを利用した彼女の新たな体作り。
最近はそのためによく来訪されます。
以前のようなお手伝いにも来てくれます。
家から畑の方向へ向かうマキナさん。
リッカさんはほっと胸を撫で下ろします。
やはり、まだ勇気は湧かないようです。
本当のお2人の関係はどうなのか。
そして、自分の関係をどう伝えるのか。
しかし安心ばかりしたいられません。
私達の後ろで、玄関がノックされました。
帰ってくるならこの時間のはずです。
「ただい……ずいぶん賑やかだな」
「お帰りなさい! アリク様!!」
帰宅と同時にアリク様が呟きました。
確かに今日は人数も多いです。
シーシャさんもいますし。
アリク様の出かけていた理由。
それはサレイさん達のお手伝いです。
結婚式からはまだ日が経っていません。
でも、お2人は旅を再開するそうです。
流石勇者なだけあります。
それに今や、お2人は英雄ですから。
どうやら各国の依頼も多いようです。
アリク様もお疲れのはずです。
しかし、意外にも元気はある様子。
賑やかな家の様子も気にしていません。
そして、視線はリッカさんに向かいます。
「リッカも帰ってたのか」
「よ、よっす」
「おかえり、ご飯は食べていくか?」
「……うん!」
少しぎこちない口調のリッカさん。
でもその顔は少し嬉しそうです。
さすが、恋する乙女……。
私も恋をしたら、こうなるのでしょうか。
荷物を置いてキッチンに立つアリク様。
その荷物は見覚えのない大きな物でした。
これは……一体なんでしょう?
「リッカ、今日はお前の案に答えよう」
「マジで!? なら……オムレツ!」
「よし、了解だ」
……今は気にしなくていいですね。
今日はせっかく賑やかな日です。
なら、みんなで楽しく過ごしましょう。
今日も世界は平和です!
次回は3/20〜22(水、木、金)あたりを目標に投稿予定です。お楽しみに!
書籍版も発売中です!
下のランキングタグからご購入できますので、ぜひおてにとってみてください!!





