因縁の決着!!!
「『開け! 総ての召喚陣!!』」
叫びと共に、背後に大量の陣が浮かぶ。
通常も極大召喚も纏めて同時に展開する。
召喚する対象は……全てのモンスター。
俺が絆を結んだ全ての仲間達だ。
しかしこれは俺でも十分な無茶だ。
魔力の消費量がバカにならない。
昔の俺だったら確実に枯渇していた。
だが、今ならマトモに扱える。
その自信が、今ならある。
次々と顔を出すモンスター達。
それに合わせ、俺の負担も大きくなる。
だが、それでも……!!
『来いやァァアアアアア!!!!』
コイツを倒すには、使うしかない!!!
「行くぞ、みんな!!」
「はいっ!!」
「——ん!」
『任せて!』
「ええ、行きましょう!」
『付き合ってやろう!』
「フッ……ああ!!」
今いる全員の声が重なる。
召喚完了までは少しタイムラグがある。
その時間も今は惜しい。
こんな戦い、すぐに終わらせてやる。
もう——付き合っていられるか!
全壊剣の防衛と攻撃は紙一重だ。
ヤツは確実にこれを狙ってくるだろう。
『ゴーレム女ァ! テメェからだァ!!』
「そう来ると思いましたよ!!!」
だから、俺達も手段は選ばない。
マキナも覚悟はできていた。
一番最初に狙われるであろう事も。
それに立ち向かうための対策も。
その為に禁忌を犯すことまで。
「多少の危険は——」
数本の小瓶を放り投げたマキナ。
それ等は地面で割れ、中身が渦を巻く。
土と水の渦がマキナを取り囲み、その身を覆い隠してどんどん巨大化していく。
ゴーレムを身に纏ってはいけない。
それは彼女が教えてくれた事だ。
身に纏えばどうなるかも知っている。
それでも、彼女の選択は正しかった。
俺がその事実を保障しよう。
巨大なゴーレムの鎧。
その中に、自分ごと全壊剣を隠した。
大きさは俺の見た最大級と変わらない。
たった今、それが1人の敵に振るわれる。
隕石の落下にも等しいゴーレムのパンチ。
ブライは、その下敷きになった。
「——承知の上です!!」
白い地平線に大きくヒビが入る。
遠くのアンデッド達も吹き飛ばす一撃。
俺達もその衝撃を必死に耐える。
その腕をブライは……受け止めていた。
あの圧倒的質量を受け止めるとは。
未だ化け物じみた強さを誇るブライ。
彼はゴーレムの腕を破壊し、侵攻する。
ゴーレムを破壊し尽くすつもりだ。
しかし、そう簡単にはいかない。
腕の破壊中にその侵攻は止まった。
同時にマキナは自らゴーレムを崩す。
そにいたのは、2つの影。
『残念だったな、勇者様!』
『オニ共、テメェ——!!』
『こき使って下さったお礼です!』
金銀姉妹がラリアットで彼を食い止める。
彼女達はあの時召喚解除されなかった。
ギリギリで持ちこたえ助太刀に来たのだ。
しかし彼女達の限界は近い。
ウシオニの制御をした直後だ。
この一撃が、最後だろう。
そのまま勢いでブライを弾き飛ばす。
姉妹の連携が光るダブルラリアットだ。
広い質量攻撃ではない、点の衝撃。
ブライはその攻撃を受け止められず、そのまま地面へと叩きつけられた。
しかし彼女達はやらかしてくれた。
ブライが落ちて来たのは丁度俺の前。
俺は防御体制が取れていない。
次に襲いかかる相手は俺だろう。
本当にやらかしてくれたな……。
まあ金銀姉妹らしいが。
『ガァッ!!』
『させねぇよっ!!!』
牙を剥き、襲いかかってくるブライ。
そこに丸々と太った影が立ちはだかる。
手に持つのは巨大なフライパン。
それで思いきり、ブライを殴り飛ばした。
戦いで呼び出したのはいつぶりだろう。
全て召喚するのはタイムラグがある。
その中で一番最初に駆けつけた者。
俺とは腐れ縁の古参モンスター。
ある意味、彼が来てくれて嬉しかった。
『よっ、頑張ってるな』
「……ウィル」
『悪いなー俺が一番乗りで』
ウィルがオーク特有の豚鼻をこする。
よく見れば服装はエプロンのままだ。
恐らく料理中だったのだろう。
なのに来てくれたのか。
お陰でチャンスを逃さずに済んだ。
だが彼はすぐにその場を走り去る。
向かうのは殴り飛ばしたブライの元。
本気だったのか、随分遠くへ飛んでいる。
そして当のブライも様子がおかしい。
『な、何だァ!?』
体にまとわりついた無数のツタ。
それを無理矢理取り払おうとしている。
しかしいくら取ってもなくならない。
むしろツタはどんどん増えていく。
『罠ですねー』
『引っかかりましたなー』
それを見て笑う2つの小さな影。
ホブゴブリンのイタズラだ。
そういえば彼等とブライは認識がある。
ブライは散々彼等をバカにしていた。
まさか自らが罠にはまると思うまい。
慌てたブライが動きを止めている。
今がチャンスだ。
マキナとアビスにアイコンタクトする。
と、同時に背後から地響きが鳴る。
振り向く必要はない。
召喚した援軍達が、次々に現れたのだ。
『行くぞお前等ぁ!!!!』
S級スライムが先陣を切り突撃する。
そこにウィルも合流した。
キマイラやスケルトンも混ざっている。
陸上界モンスターの大軍勢だ。
それらが一斉にブライへ襲いかかる。
俺達もどさくさに紛れ突撃した。
この混乱の中では捉えるのも困難だ。
隙をついて、一気に封印する。
『させるかよォ!!』
が、ブライはそう甘くない。
もうコイツの馬鹿力は見飽きていた。
モンスターの軍勢ごと俺達を吹き飛ばす。
更に、そこへ魔術で追撃を仕掛ける。
俺はそこまでの動きが読めていた。
そして、モンスター達の動きも見える。
軍勢に混ざらなかった数体のモンスター。
彼等が一体どこにいたのか。
その答えは、ブライを見ればわかる。
追撃の魔術を構えた彼の体。
しかし、それ以上は動かない。
『ぐ、っ…………!!』
『私たちがいましてよ!』
『ちぞ、ぐれっしゃ!』
カナスタにイビルアイだ。
彼女達は単独で動いていたのだ。
魔力を吸収できるアルラウネ。
他者の動きを鈍くするイビルアイ。
両者の働きは噛み合っていた。
流石のブライも動きが鈍重だ。
それでも動ける事自体が驚きだが。
しぶとく全壊剣を奪おうと動くブライ。
次のターゲットは近場のアビスだ。
だが俺は明言できる。
彼女は俺達以上に回収は難しいと。
強さもほぼ龍皇と互角だ。
それに……。
地上モンスターの次は、空中がいる。
直後、ブライは突風で空に舞い上がる。
『が、クソがァッ!!』
人間を吹き飛ばすほどの暴風。
ガルーダやグリフォン、カラスの風だ。
そこにイフリートの炎が渦を巻く。
これは先程のような攻撃にはならない。
だが、足止めとしては十分だ。
風を起こすのはガルーダ達だけではない。
暗黒龍にも、立派な翼があるのだ。
「はああぁぁぁぁああああっ!!」
ラナがブライと一騎打ちを仕掛ける。
それは彼女自身の頼みだった。
最後の相手は自分がする。
その間に隙をついて封印してほしい。
熱い決意が彼女の中で揺らめく。
温厚な彼女が戦いを決意した、その強さ。
こうなった彼女は、誰も止められない。
『暗黒龍の分際でェェエエ!!』
すかさず反撃に出るブライ。
しかしその攻撃は全く当たらない。
ラナは全ての攻撃を華麗に避けていく。
まるで、そう。
未来でも見ているかのように。
「暗黒龍は、私の誇りです!」
『あァ!??』
「私の誇りをバカにするのは、許さない!」
『知るかァ!!!!』
実直で曲がることのない信念。
ブライが幾ら土をかけても汚れない。
屈託のない、暗黒龍としての誇り。
彼女は決してそれを忘れていなかった。
空中で両者の拳が交差する。
ブライにはもう全壊剣はない。
あの怪物の姿にも変身できない。
いくら力で押しても、ラナには勝てない。
しかし彼はそれに気づけないのだ。
あまりにも大きい"強さ"の溝に。
『ラナ…………』
その光景に、龍皇が声を漏らす。
パワーの上では互角で間違いない。
だが、表情は明らかにらなの優勢だ。
全ての攻撃を余裕で捌ききっている。
ブライは攻撃を加えようと必死だ。
彼の興味はラナに固定された。
彼女の志願した通りだ。
ここで決めにいくしかない。
俺とアビスはラナの元へ跳び上がる。
マキナは地上で剣を構える。
ブライが俺達へ興味を逸らす。
だがそれをラナが許さない。
攻撃を重ね、彼の集中を削ぐ。
そこに最初に仕掛けたのは、アビスだ。
「横だっ!」
リヴァイアサンの声でそう叫ぶ。
自分の居場所を自分で語っている。
明らかに妙な状況である。
しかりブライはそこまで気が届かない。
当然のように振り向いてしまう。
そこには、誰もいない。
一連の動きで背中がガラ空きになる。
アビスの狙いはそこだった。
容赦なく、彼女は剣を突き入れる。
『ゴアァッ!!?』
「————はずれ!!」
『そっちは幻聴だよーだ!!』
そう、リヴァイアサンの声で喋ったのは決して彼女ではない。
俺の中のリーヴァが作った幻聴だ。
まんまと罠に引っかかってくれたな。
それが、お前の敗因だ。
翼を広げてラナの隣に並ぶ。
まだ全壊剣は抜かない。
先にマキナのアスカロンが優先だ。
一度打ち上げられた彼を地上に戻す。
その為にも、俺たちで一気に……!
「押し切るぞ!」
「……はい!」
ムラサメが突き抜けたブライに仕掛ける。
地面に向かって押し戻す為のラッシュ。
俺とラナが、交互に攻撃を加える。
殴り、切り裂き、燃やし尽くす。
火炎弾と強靭な肉体の餌食だ。
企みに気づいたブライも反撃を加える。
しかしもう全てが遅い。
彼の背にした地面。
そこにいるマキナが、剣を振り上げた。
『ギャアアアアアアアアア!!!!』
二本の剣が突き立てられたブライ。
その傷は癒えず、死ぬ事もない。
俺は最後の一本を抜刀する。
そして、俺は容赦なく心臓を貫いた。
「アリさん!!」
「——はや、く!」
『やっちゃえアリク!』
「もう、逃げ場はありません!!」
全ての準備は整った。
尚も抵抗するブライをラナが捕まえる。
俺の掌から放たれる赤い閃光。
その光を見て、ブライは激しく怯える。
『俺は! 俺はァァァアア!!』
完璧だと思い込んでいたのだろう。
もう自分自身に、弱点はないと。
しかしそれは違ったのだ。
全員の最適を願った決死の行動。
過去から繋がる歴史の奔流。
自らの紡いでしまった因果。
そして、大きすぎた慢心。
その全てが折角の強さを弱体化させた。
ブライでなければ俺は負けていた。
戦い自体は一進一退の攻防だったが。
俺も、人を辞める羽目になったが。
それでもこれだけは言える。
俺たちの勝ちだとは言わない。
だが……。
「お前の負けだ、ブライ!!!」
『反転召喚陣——ブライ』。
心の中で小さくそう唱えた。
手向けの言葉を紡ぐように。
死ねないことを後悔するがいい。
あの世に行かず、永遠に悔やみ続けろ。
『魔王を、超えるんだァァアアアア!!!』
眩く輝く赤い光の中。
ブライの最期の叫びがこだました。





