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繋がった因果

 

「どうして、ここに……?」


 状況の飲み込めないまま俺は尋ねる。

 目の前にいるのは、地上の主戦力。

 アンデッドを迎え撃っている筈の仲間達。

 ここに居る訳がない二つの影だった。


「助太刀といったではありませんか」


 困惑する俺に、マキナが微笑む。

 それは確かに俺も聞いた理由ではある。

 俺が尋ねたのは、そういう意味じゃない。

 何故マキナ達がここに来られたかだ。


 地上にはアンデッドが侵攻しているはず。

 その量は地上の人々を優に超えている。

 いくら無視しても戦闘は免れそうにない。

 しかも出入り口は天井の一つだけ。

 余計に戦闘を回避できると思えない。


 それに、何故龍皇は暗黒龍の姿を保てる?

 ラナ達は人間の姿を固定されている。

 ガルーダやキマイラはモンスターの姿だったが、何故龍皇にこの制限が適用されない?


 理解に困る疑問が頭に渦巻いてゆく。

 だが、そればかり気にしてはいられない。


『ウオォォォオオオオオ!!』

『ぬ……っ!? 離れろ、小娘!!』


 何かを察した龍皇が咆哮する。

 彼の足の下にはブライがいるはず。

 その足が、少しずつ浮いてきている。

 そこから溢れる力任せの叫び。

 何が起きているか、大体想像がついた。


 対する龍皇とマキナの行動は冷静だった。

 無理矢理力比べをする事はしない。

 人間態へ変身し、俺の横まで下がる。

 消耗を一切感じない動きだ。


『なンでテメェ等が降りて来られたァ!』

「貴様を倒すからに決まっておろう」

『アンデッド共はどォした!?』


 立ち上がったブライが問いかける。

 俺の持つ疑問とほぼ同じものだ。

 その問いに今度は龍皇が答えた。

 結局疑問を解決はできないが。


 俺とブライの謎が重なるのは当然だろう。

 俺達は意地と信念で死闘を続けていた。

 それが突然水をかけられた感覚。

 目が覚めるように呆気にとられた俺達。

 珍しく俺とブライの感情は近かった。


 だがそんな事は知らんとばかりだ。

 ある意味誰より現実を見ていた両者。

 彼等は呆れ気味に、ブライへ解を出す。


「呪術を使ったのが運のツキですね」


 簡潔にまとめたマキナの回答。

 それはある意味、彼女の人となり通りだ。


 アンデッドは呪術から生み出される存在。

 恐らく彼女達も例外では無いだろう。

 ブライが呪術を使えるのも認知済みだ。

 そしてマキナは呪術を調べていた。

 それはもう、理解の届かぬほど熱心に。


 呪術を使ったのが運のツキ、か。

 頭の中でマキナのセリフを反芻する。

 既に奴の運は尽きていたのかもしれない。

 何故なら彼女は、真にネムを倒した者。


 最高クラスの呪術キラーなのだから。


「ボクは研究者ですから」


 抜かりはないとでも言いたげだ。


 地上のアンデッドはゴーレムが対処中。

 そのゴーレム達は全て、呪術関連を一方的に崩壊させる効果が付与されていると語る。

 加えて他の戦士も奮闘している。

 地上にいる分の全滅は時間の問題らしい。


 淡々と事実でブライを追い詰める。

 もはや脅威は彼だけである。

 そしてその彼も、揺らいでいる。

 彼の退路はもうどこにもない。


『纏めてブチ殺してやらァァアアアア!!』

「フン……アリクはそこで見ていろ」


 攻撃を仕掛けたブライが龍皇と衝突する。

 周囲に鳴り響く破裂音。

 それだけで両者の力量が理解できる。


 今のブライは、龍皇と大差ない。

 俺はそんな怪物と死合っていたのか。

 そう思うと尚更彼を野放しにできない。

 計画が潰えようと執念深い彼は諦めない。

 決着をつけるなら、今しかないのだ。


 死闘の力比べは龍皇が優っている。

 だが恐らく、彼はブライに勝てない。

 攻略の方法が手元にないのだ。

 それは俺も、マキナも同じだった。


「……アリさんはこの子達を頼みます」


 真剣な眼差しで俺を見つめるマキナ。

 その姿はまるでヒーローのようだ。

 困難な敵に立ち向かおうとする勇気の塊。

 だからこそ、少しだけ不安になった。


「奴は不死だ、わかっているのか?」

「…………確かにボク達に彼は倒せません」


 自虐気味に俯いて笑う。

 自らの非力さを噛みしめるように。

 俺は言える。マキナはそんなに弱くない。

 今回は敵が規格外なだけなのだ、と。


 しかしそんな事は彼女も承知の上だ。

 それでも戦う理由がある。

 もう一度俺を見つめた目が、そう語った。


「でもアリさんなら倒せる」

「…………………………」

「そう信じています」


 彼女は俺に背を向ける。

 見つめる先は龍皇と戦うブライ。

 戦いは龍皇とマキナに託した。

 俺は、彼の攻略を託された。


「迷った時は、過去に立ち返ってみてください」


 研究者としてのアドバイス。

 それだけ告げて、マキナは走り出す。

 背後に生成される二体のゴーレム達。

 その姿は彼女そっくりに作られていた。


 ブライと龍皇の戦局は変わらない。

 相変わらず龍皇優勢だが、決め手はない。

 必殺の一撃も不死には効果が無かった。


 そこへマキナが飛び込み、殴り込む。

 手には砂で作られた大槌を握っている。


『雑魚が……手ェ出すんじゃ無ェ!!』

「お断りします!!」


 事実上4対1で戦闘を繰り広げるマキナ達。

 流石にマキナ本人の動きは龍皇やブライからすれば劣っているように見えた。

 しかし、そこはゴーレムマスター。

 二体のゴーレムと連携してカバーする。


 マキナと龍皇の戦いは丁寧だ。

 まるで俺にその戦いを説明するよう。

 見るだけでブライの動きが暴かれていく。


 戦闘の癖も、疲労も、精神的磨耗も。

 彼の生態が手に取るように読み解ける。


 しかしこれは武器にはならない。

 一人の男の解剖など他の情報で事足りる。

 冷静に考えろ、答えはこの戦闘の中にある。

 俺は必死に意識を集中させていた。

 何一つとして、見落とさないように。


「せめて痛みを知るが良い……!!」

「喰らいなさい! その身で!!」


 龍皇の連撃に耐え切れずダウンするブライ。

 不死とわかっていても、彼は冷酷だった。

 それが彼の台詞から伝わってくる。


 マキナも龍皇の攻撃に合わせていた。

 と言っても、ギリギリついていく程度で。

 人間でそれができるなら十分だ。

 ゴーレムとの連携は、確実に効いている。


 龍皇とマキナが同時に攻撃を放つ。

 爆炎を宿した龍皇の拳。

 巨大な砂のハンマーによる殴り抜け。

 その両方に、左右から挟まれたブライ。

 これを回避するのは不可能だ。


 だが、打ち崩すことはできる。


『こンの、ゴミ共がぁぁああああああ!!』


 咆哮と共にブライから巨大な腕が伸びる。

 ある意味信頼に近い懸念であった。

 両方の攻撃を左右3対の拳が相殺する。

 その破壊力は俺がよく知っている。

 人の受け止められるような攻撃ではない。


 あの拳は、S級の物理攻撃に匹敵する。

 マキナでは耐え切れず、吹き飛ばされる。


 しかもブライはそこで終わらない。

 彼は瞬時に龍皇へのみ追撃を加えた。

 地面から巨大な手を生やし拘束する力で、龍皇のみを捕らえたのだ。

 彼の狙いは……マキナだ。


『あの暗黒龍は強ェからなァ……』

「くっ……!!」

『後悔して死にやがれ』


 肉体の変化を止め、歩み寄るブライ。

 対するマキナは消耗している。

 今の一撃で、相当ダメージを負ったか。

 ブライからすれば格好の餌食だろう。


 腕を怪物と同じ黒色の獣毛で纏う。

 あの状態は普段より更に攻撃力が増す。

 間違いなくマキナを仕留めるつもりだ。


 ……しかし、俺の脳裏に何かがよぎる。

 何か、特別な違和感のようなものが。


「小娘!! このっ……グオオォァァ!!』


 暗黒龍へ変身し拘束を解く龍皇。

 あの速さでは、ギリギリ間に合わない。

 マキナを救うには俺も龍皇も距離が遠い。


 だが、その行動が俺に閃きを齎した。



 ……似ている。

 龍皇の過去とブライの現在。

 肉体の一部を自由に変化させられる。

 そして怒りでモンスターと化した。

 あの行動は正しく過去の龍皇だ。


 ブライは魔王を超えようとしていた。

 魔王は言わば「魔獣になれなかった人」。

 対してブライは「魔獣であり、人」。

 ブライのほうがモンスターに近い。


 手元にはブライの情報がある。

 それに白濁の宝石もある。

 そして俺は、召喚術師——。

 なんなんだ……この巡り合わせは。


「信じてます……アリクさん(・・・・・)!!!」


 マキナが俺を呼ぶ。

 ブライの攻撃が迫っている。

 躊躇や思考の暇はない。


 咄嗟に俺は、閃きへと従った。



『——!!? 何だ、こいつァ……!?』



 マキナの眼前で止まるブライの拳。

 直撃寸前のそれは、ピタリと静止する。

 彼の体を止めるものは何もない。

 しかし、彼は拳を前に動かせない。

 体が言うことを聞かないらしい。


『……テメェだな、アリク!!』

「正解だ。そして俺も正しかったようだ」


 俺の元に降りた天啓にも似た閃き。

 それは、過去に立ち返ることで確信した。


 この数ヶ月で経験した事象の一つ。

 ブライ達が一番最初に起こした事件。

 俺と最後に仲間になった存在。

 全てがヒントになってくれた。


 まるで"それ"を使えと言わんばかりだ。

 今や誰も使っていない忘れ去られた術。


 これが、俺の攻略法だ。


「『反転召喚陣——ブライ』!!」


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