孤島の支配者 〜S級海魔・リヴァイアサン登場〜
俺は逃げていた。
小脇にシーシャを抱え、森を走る。
背後と上空には巨大なモンスター達。
ケツァルカトル。
古代龍型のモンスターだ。
危険度は低いが、肉食で大食らしい。
問題があるとすれば、このモンスターはすでに絶滅しているはずだという事。しかも何百年も前に。
それを肉眼で見れた事は感激だ。
だが、彼らのご飯になるつもりはない。
少しだけ時間を遡る。
* * * * * * * * * *
「これは召喚陣かしら?」
「いや、文字が全部反転している」
「反転していると何かあるの?」
「シーシャが言っていたように、モンスターを鎮める力がある。膨大な魔力は必要だけど」
単純計算で召喚の倍は魔力を要する。
しかも使用すれば長時間魔力を削られる。
単身使用するのは不可能な技術である。
魔力の宿る宝石で維持するのが基本だ。
だが、それが見当たらない。
普通なら近くに置いてあるはずだが。
……まさか、勇者様が盗んだ?
「無い! 地図に描かれてる宝石が!」
「やっぱり勇者様か……!!」
「でも、あの宝石は巨大なのよ!」
「腐っても勇者パーティ。怪力がいます」
「……マズイわね」
シーシャ曰く、地図を作ったのはやはり海賊だったようだ。しかし宝石の巨大さにより持ち出せず、地図だけが残っていた。
その地図を勇者様は入手したのだろう。
持ち出したのは恐らく戦士あたりか。
とんでもないことをしやがって。
もう俺とパーティの問題では収まらない。
「何か対処する方法は無いかしら?」
「俺が魔力を注ぎ続ければ……」
「それではアリクが出られないでしょう」
「でも、この規模の宝石はもう」
値段の問題ではない。
恐らく採掘すらできないはずだ。
つまり、この世に代替品は存在しない。
「……何かしら、この音」
「音じゃない、これは……地響きだ」
どうやら長居はできないようだ。
足元で、まるで数百近いモンスターが暴れているような地響きを感じる。
「逃げるぞシーシャ」
「あ、ちょっと!!」
シーシャを抱えて神殿を飛び出す。
直後、神殿の天井が音を立てて吹き飛ぶ。
間も無くして、俺たちの後を追うように大量のケツァルカトルが溢れ出してきた。
* * * * * * * * * *
「何とかなさい! 最強なのでしょう!」
「数が多い。いっぺんに倒したらついでに島も吹き飛ぶぞ」
「そ、それはダメよ!!」
「なら今は海岸まで逃げるぞ」
海岸まで行けばマキナもラナもいる。
ひらけた海岸なら力を抑え応戦もできる。
だから、今は戦う時ではない。
しかし追っ手もかなり速い。
正直ガルーダより速い。
このままでは、確実に彼らのご飯確定だ?
さて、何を召喚する……?
「『深淵の星屑よ、顕現せよ!!』」
考えるより先に、何故か詠唱が紡がれた。
体が勝手に極大召喚陣を展開する。
この詠唱は、彼女の詠唱呪文だ。
本当に彼女.に任せていいんだな、一つも能力を知らないのに。
俺の本能に問いかける。
当然、返答はない。
俺は、無意識に召喚した。
『————!』
「何!? この巨大なヒトデは!!」
「さっきちょうど新しく仲間になった」
ヒトデが俺達を高速飛行で追尾してくる。
かなり機敏で、二人なら乗れそうだ。
彼女なら、あるいは……!
「乗っても構わないか?」
『————!!』
「言葉がわかるの!?」
「さあ? でも今は頼るしかない」
空飛ぶヒトデにシーシャごと飛び乗る。
その瞬間、ヒトデは息も止まってしまうようなスピードへと加速した。速い、ラナの本気にすら近い速さだ。
ケツァルカトルと一気を放していく。
そして——。
『アリク様!? それにお嬢さん!』
「お嬢様、ご無事ですか!?」
「何か爆発したからびっくりしましたよ!」
『オマエ、何の無茶した!?』
森を飛び抜ける。
砂浜ではやはり彼女達が待っていた。
心配は嬉しいが、それどころではない。
彼女達も何かを察し、臨戦態勢に入る。
さあ、応戦の時間だ。
——キィィィアア!!——
しかし、その時だった。
耳をつんざくような鳴き声と共に、俺たちの背後から謎の光線が飛来する。その光線は、翼竜たちを一撃で消し去った。
それと同時に、とてつもない爆風が襲う。
「うわぁっ!!」
「ラナ!」
謎の衝撃波がラナを吹き飛ばした。
まるで彼女を最初から狙ったかのように。
犯人を認識するため、俺は振り向く。
そして、仰天した。
クジラのような頭。
無数に生えたタコの触手。
フナムシとウミヘビを合わせたような体。
そして、果ての見えない巨大な体躯。
リヴァイアサンが、現れた。





