"究極"の一撃!!
リッカの作戦が俺達に伝えられる。
運と憶測の要素が強い不確定な策だ。
それでも賭けになる価値はある。
下準備は別段必要としなかった。
必要なのは全員の連携。
あとは全てがうまくいくのを祈るだけ。
考える時間など、なかった。
「来るぞ!」
「わかってるって!」
俺の声にリッカが反応する。
瞬間、俺の肉体は複数に分身する。
リッカが作り出した無数の幻影。
起点として始めるのは撹乱であった。
4体のモンスターの特徴を持つ分身。
そこに他との差異は一切ない。
今は全員、リッカの面影が強くある。
これまでリッカの術は有効だった。
果たしてそれが今でも通用するのか。
動向次第ではこれからが大きく変わる。
巨体を捻り周囲を見回すブライ。
奴の動きには今までと違うものが見えた。
すぐに襲いかかってきてもおかしくない。
なのに、そうしようとしない。
——ガァァアアアア!!——
威嚇の咆哮が再び地を割っていく。
そしてブライは、再び攻撃を開始した。
……俺達ではない。分身に向かって。
この行動にリッカは小さく喜ぶ。
「ラナ! リヴァイアサン!!」
偽物の俺達を攻撃して回るブライ。
本物の場所にはまだ見向きもしていない。
すかさずリッカはラナ達に呼びかける。
ここからは彼女達の出番だ。
耐久力も速度も本物と遜色ない分身。
全てがブライと攻防を繰り広げる。
ただやはり、ダメージは与えられない。
加えてこちらにもデメリットはある。
これだけ複雑な力を行使しているのだ。
当然、リッカへの負担も大きい。
彼女には分身の操作を一任する事となる。
それが今回の策の起点となるのだから。
『本当に上手くいくんだろうな!?』
『わかりません! でも!!』
一つめの奇跡は叶った。
しかしまだ一歩目を踏み出した程度。
ここからが本当の挑戦だ。
その為に、ラナとリヴァイアサンが動く。
『私が合わせます!』
「了解だっ! 付いて来い、ラナ!!」
主導権がリヴァイアサンへと変わる。
同時に分身もその面影が彼女へ寄った。
攻撃の要となるのはやはり彼女達。
それでもぶっつけ本番である。
段取りもたった今決まったばかりだ。
触手を伸ばすリヴァイアサン。
すると分身も同じく触手を伸ばした。
四方八方から高速で伸びる触手の波。
これにはブライも反応しきれない。
——ガァァアアアアオオォォォ!!——
黒い巨体へ絡みつく超大量の触手。
今までの数では奴を止める事はできない。
だからこそ、分身の特性を利用した。
これで動きを止められる。
……そう思ったが、甘かった。
奴の巨体はその程度では止められない。
蜘蛛の糸を人間がたやすく切るかのように、ブライは触手を引きちぎっていく。
停止どころか、足止めすらできない。
尚も暴れ続けるブライ。
まだ俺達を見つけられてはいない。
だが、二つめの策は踏みにじられた。
「くっ……! すまない、失敗だ!」
『大丈夫! まだ何とかなる!!』
リヴァイアサンをリッカが慰める。
リッカの負担も相当なもののはずだ。
それでもまだ、チャンスに賭けている。
そんな彼女にリヴァイアサンも奮起した。
太い触手をブライに絡める。
しかしすぐに千切られる。
それでもめげず、分身と共に取り囲む。
繰り返されるその応酬。
ジリ貧になろうと、諦めない。
『こうなったら……!!』
全てを見ていたラナが声を張る。
そして彼女も、ついに行動を起こした。
だが、これは……。
「ラナ!? な、何を!!?」
『予定は前倒しです!』
「しかし……!!」
『合わせます! 合わせてみせます!!』
リヴァイアサンの言っている通りだ。
順序としてそれはまだ早すぎる。
ブライの足止めを終えた後の行動。
作戦の最終段階で行うはずのものだ。
ラナとリヴァイアサンの意識を同時に出し、両者の能力を融合させて同時に使用する。
リッカの打ち出した机上の空論。
その最終段階にあたる無茶苦茶な解。
もはやそこに理論はない。
あるのは技術と、根性だけだ。
触手が暗黒龍の鱗に覆われていく。
同時に、肉体に対する負荷が高くなる。
それでも彼女達は触手を足に絡めた。
逆転の一手を導くために。
——ガァッ!! ガアアアッッ!!!——
ブライの暴走が留められる。
暴れる猛獣が鎖によって繋がれる。
そこに分身の触手も次々と絡んでゆく。
切断されていた触手も、今度は切れない。
暗黒龍の鱗で補強された触手。
その分身を作るリッカの負担も相当だ。
俺達も、動くしかない。
『——ん!!』
アビスと俺の使命は、力の安定化だ。
一つの肉体にS級二つの馬鹿力。
しかもそのパワーはS級内でも上位だ。
とても普通の肉体では耐えられない。
だが、その力は制御できる。
俺が龍皇の力を使いこなせたように。
アビスとリヴァイアサンのように。
暴走した力を安定化させる。
これはほぼ感覚でしかできない作業だ。
それでも俺達は、感覚を覚えている。
だから俺達が支えるしかないのだ。
彼女達が最大限に暴れられるように。
リッカの負担を、俺が軽減する。
ラナとリヴァイアサンの力のある繋がりを、アビスが更に補強する。
あとは彼女達についていけるか、だ。
「「喰らえぇっ!!」」
綱引きのように分身が一箇所に集まる。
そして拘束したブライを地面に叩きつけた。
散々奴にやられた攻撃方法だ。
重さと衝撃が直に威力へと変わる。
ダメージも、これまでとは違う。
——ガ、ゴァッ!!?——
今までとは違う声を上げる怪物。
やはりダメージは入ったか。
手順はずれたが動きは止められた。
ならばチャンスはここしかない。
ダメージで奴が動けない、今しかない。
『……やるよ、みんな!!』
リッカの鼓舞に、全員が息を合わせた。
ラナのありったけを使った火球。
リヴァイアサンの破壊光線。
超威力の攻撃を、一つに束ねる。
無茶苦茶な方法だが、もう慣れた。
何なら既に上手くいっている。
分身までもが同じく準備を整える。
後はこれを放つだけでもいい。
だがここでは終わらない。
一撃で終わらせるには、もう一歩。
『分身、解除!! アビス、アリク!!!』
『——任せ、て————!!!』
掛け声と共に分身が一斉に消えていく。
攻撃準備はできていたのに勿体ない。
そう思うが実情は違う。
分身が紡いでいた合体攻撃の威力。
それが全て、俺たちの元へ集まっていた。
一気に莫大な力が流れ込んでくる。
今にも俺達の身体が破裂しかねない。
だが、それをアビスと共に制御する。
全てをたった一撃の攻撃へ集める。
力の収束は龍皇から教わった。
同じ原理で、莫大な力も束ねられる。
乱雑な力の暴走を、収束させた一撃へ。
奴の体も貫き、焼き尽くす超威力へ。
炎と破壊光線は完全に一体となる。
真っ白な光を放つ紫炎。
これが俺達の、全力全開だ、
『収束完了だ! いつでもぶっ放せ!!』
「はいっ!!」
「任せろっ!!」
莫大な力の圧に、支える腕が震えていた。
外す訳にはいかない全力の一撃。
両手で支えブライに狙いを定める。
その時、ブライが触手を千切って立つ。
分身が消えて拘束も減ったのだ。
ダメージの混乱からも回復している。
奴の目は、すぐに俺達を捕捉した。
——ガアアァァァアアアァァア!!!——
奴の口に高濃度の魔力が収束する。
薄い橙色の光を放つ巨大な魔力の塊。
当たればタダでは済まなそうだ。
そうか……相殺狙いか。
逃げることはできない。
避けることも不可能。
ならば、全員の気持ちは同じだ。
その勝負、受けて立つ。
「「行っけぇえええええぇぇええ!!!」」
紫炎から放たれた一筋の光線。
それがブライの光球と衝突する。
衝突し合う二つの光。
その衝撃波は、もはや例えようもない。
大地が抉れ、天井が崩れてゆく。
指先の皮膚が焼け焦げたように捲れる。
だが、衝突の結果は直後に現れた。
ブライの光球を、光線が貫く。
しかし光球も俺達に向かってくる。
紫の光に貫かれたブライ。
それは怪物と化した肉体を、塵に変えた。
やがて俺達も光の中へと飲み込まれる。
直後、俺達は同時に意識を失った。