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VS『武装召喚』!(下)

 

 威嚇の咆哮を上げるキマイラ。

 彼を落ち着かせるため、顎を撫でる。

 周囲のアンデッドへの警戒もある。

 だが一番はやはりサレイだろう。

 彼等には少々因縁がある。


「キマイラか……!」

「ああ、懐かしいだろ?」

「散々ボロボロにされたからな!」


 修行時代の懐かしい思い出。

 喧嘩の時、決まって召喚したモンスター。

 それが修行前に契約したキマイラ。

 かつての最高戦力だった。


 おかげでサレイとキマイラは仲が悪い。

 俺はそれを見越して召喚したのだ。

 危険度S以外でサレイと戦うために。

 彼の闘争心を煽るために。

 そんな俺の策は、予定通りに成功する。


 壊槍を手に突撃するサレイ。

 目で捉えるのがやっとの速度で迫り来る。

 これではキマイラでも捕らえられない。


 ならば動きを止めるしかない。

 思案と同時に召喚陣を展開する。


「『浮遊する邪眼よ、観測せよ』!」


 単眼の観測者、イビルアイ。

 彼等の視点は使役者にも送られてくる。

 ブライの初襲撃以来の召喚だ。


 しかし彼等の能力は観察だけではない。

 1体1体に、微弱な拘束能力がある。

 複数体が同時に観測すれば効果は絶大だ。

 恐らくリッカにも引けを取らないはず。

 この能力に、サレイも動きを止める。


「ぐ、く、そっ!」

「行け、キマイラ!」


 サレイの動きを完全に縛った。

 この機を逃さず、キマイラをけしかける。

 動けなければサレイの脅威も低い。

 こちらの攻撃も有効になるはず。


 だが、彼はその予想すら打ち破る。

 俺の中にある確信がそれを告げていた。


 そもそも声が出せる時点でおかしかった。

 術中に嵌れば完全に動作不能になる。

 にも関わらず、彼は喋っていた。

 それどころか指先が微かに震えている。

 そんな、馬鹿な。


「こ、のおおおぉぉぉぉっ!!!」


 もう何度目になるかわからない叫び。

 彼はそれだけで状況を一転させる。

 縛りを振り解いたサレイが槍を振るう。

 その一撃でイビルアイは吹き飛んだ。

 こちらにまでその衝撃が伝わる。


 残るキマイラをも槍で穿つ。

 たった一瞬で全ての召喚は解除された。

 並みの召喚術相手は慣れたものか。

 残るは俺一人だ。


「『翡翠の翼よ、その身を翻せ』!」

「逃がすか!!」


 ガルーダを召喚し、空中へ逃げる。

 制空を取ればこちらのものだ。


 しかし彼の超人ぶりは底が見えない。

 助走なしで跳躍し、俺達は迫る。

 サレイに翼は必要ないのか?

 俺の考えはそれほど甘くないはずだ。

 彼が俺の予想を遥かに上回ってくるのだ。


 だが、まだ負けてはいけない。

 例えサレイが超人だろうと食い下がる。

 それが俺の兄弟子としての意地だ。

 それに、彼が困難に囚われたなら尚更だ。


「『仕事だ、可愛らしきスライム』!」

「スライムなんて、今更!」

「1万匹、来い!」

「な、うわっ!?」


 村を救った倍のスライムで立ち向かう。

 途端に山のように積み上がるスライム達。

 周囲のアンデッドも飲み込んでいく。

 これでも時間稼ぎにしかならないだろう。

 それも俺は承知の上だ。


「力を借りるぞ、ガルーダ!!」


 ガルーダと意思疎通し、魔王の力を使う。

 俺とガルーダが光と共に融合していく。

 視界が鋭く鮮明に変化して見える。

 背中にはこれまでとまた違う翼の感覚。

 軽く、非常に動かしやすい。


 機動力と超感覚。

 これでどこまで食い下がれるか。

 今はそんな事などわからない。

 だから俺は、スライムの山に突っ込む。


「はあああぁぁっっ!!」

「サレイ!!!!」


 スライムの山が竜巻のように吹き飛ぶ。

 中心で槍を構えるサレイ。

 その場所を目がけ、俺は急降下した。


 肉体を極限まで鋭くした急降下。

 トップスピードの勢いを、全壊剣に乗せる。

 対するサレイも壊槍を振りかざす。

 筋肉の流動が今の俺にははっきり見える。

 やはり常人離れした肉体だ。


 そして、俺たちは衝突する。

 耳を劈く強烈な炸裂音。

 周囲のスライムは次々に召喚解除される。

 アンデッドも多く巻き込んでいく。


「負けられないんだ! アイツの為にも!」

「俺にも奴を倒す責務がある!!」

「くっそおおおぉぉぉぉっっっ!!!」


 バチバチと音を上げる全壊剣。

 威力は互角、空中で衝撃が静止している。

 向き合うサレイの表情は修羅そのもの。

 正義と守りたいものの間で揺れ動く。

 それでも彼の決意は気迫として伝わる。


 このままでは埒が開かない。

 だが決着は確実に迫っている。

 仕掛けかた次第で、勝敗が決まる。

 ヒリヒリと伝わる予感が俺達を動かす。


「『武装召喚……」


 サレイが仕掛けた。

 新たな武装を用意するつもりか。

 ならばこちらはそれを封じる。


「『呪縛払う石像よ、出土せよ』!」


 カース・トーテムを乱立させる。

 俺以外の魔術を弱体、無効にする魔像。

 サレイの術ではこれを突破できない。

 俺達の積んだ経験でそれを知っていた。


 これでサレイの目論見は潰した。

 計画が狂えば、サレイも混乱する。

 更なる召喚術で決着をーー


「——嘘だよ、先輩!!」


 小さく呟かれたサレイの言葉。

 その言葉には、十分な覚悟があった。

 俺の策を読んでいたのか?

 武装召喚すら、その布石なのか?


 背中から細い棒のようなものを取り出す。

 戦闘中に彼が放っていた矢だ。

 俺の気づかぬうちに拾っていたらしい。


 槍を持つ手が片手になり、俺が押し勝つ。

 だがそうすると、彼の懐に近づく。

 左手に持たれた一本の矢。

 その射程内に入ってしまうのだ。

 俺は既に勢いを殺せない。


「ッ!!!」

「ぎぃっっ!!」


 右肩を貫く鋭い激痛。

 全壊剣から伝わる鈍い感覚。

 剣は軌道を外れ、彼の右肩を抉っていた。

 奇しくも同じ場所に重傷を負う俺達。


 サレイが俺を前蹴りで蹴飛ばす。

 引き抜かれる矢と全壊剣。

 後頭部にまで痛みが伝わってくる。

 しかし痛みの度合いはサレイも同じはず。

 いや、彼のほうが重傷かもしれない。


 倒れた俺をスライムが支え運ぶ。

 自然と距離を置いた俺達。

 サレイは傷を回復させている。

 全壊剣の傷は普通より治癒が遅い。


 傷はほぼ半開きで塞がれた。

 見事な痛み分け、という事か。

 そんな俺の前に残ったスライムが集まる。


 俺を守るための肉壁か。

 ……俺も懐かれたものだ。


「……大丈夫だ、ありがとう」


 そんなスライム達を地上へ移動召喚する。

 地上ではS級スライムが戦っているはず。

 彼の応援を、スライム達に任せた。


 ……さて。

 残ったのは俺とサレイのみ。

 決着が近づき、アンデッドの壁が狭まる。


 最早言葉は不要だった。


「     」

「       」


 ガルーダの翼を強く羽ばたかせる。

 サレイが地面を蹴る。

 恐ろしい速さで接近する俺達。


 左手の矢をサレイが投げた。

 俺はそれを回避する。

 だがその回避すらサレイの読みの上。

 矢はガルーダの翼に突き刺さった。


 俺の中から召喚解除されるガルーダ。

 肉体から彼女の力が消えていく。


 しかし既に十分な勢いはついている。


 それに、俺の作戦は完了した。


「!!!!!!!!!!!!!!!」

「!!!!!!!!!!!!!!!!」


 サレイの本気を引き出す事。

 サレイを利用し、召喚術を取り戻す事。

 そしてある程度の時間を稼ぐ事。

 それが俺の目的だった。


 サレイとの勝敗など関係ない。

 リーヴァ救出のために。

 ブライを確実に打倒するために。





 壊槍が俺の腹の横を裂く。

 俺の剣は、サレイに届いていない。


「………ぁ、………………」

「俺の勝ちだ、先輩」


 俺の目論見通りだ、サレイ。


次回投稿は1/31(木)予定!

22〜23時ごろの投稿になります!

お楽しみに!


書籍版の予約も開始しました!

以下のURLから、ツギクルブックス様のサイトにて予約が可能です!


https://books.tugikuru.jp/#summoner_kicked_out


活動報告に詳細情報を掲載いたしましたので、そちらからもよろしくお願いいたします!!

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