VS『武装召喚』!(中)
戦いは、どちらが先手と言わず始まった。
召喚で蓄えた無数の武装を握るサレイ。
そこに俺は虚影武装で挑む。
見事な剣捌きで俺の武装は破壊される。
逆にサレイの武器に刃毀れは無い。
悪戯に消費される俺の魔力。
戦況は、サレイの圧倒的有利で進行する。
「流石だな、サレイ!」
サレイは返事などしない。
感情に返事をする余裕もないのだろう。
俺を倒すべき相手と定めた証拠だ。
「『武装召喚・弓矢』!」
「『虚影武装・楯』!」
同時に発動した魔術。
彼が召喚したのは、かつて俺を助けた弓。
今はあの特殊な矢も存在しない。
それでも彼の射撃能力は変わらない。
ほぼ同時に放たれた5本の矢。
その矢の軌道を捉え、2本を回避する。
残る3本は避けきれない。
そう判断し楯を構える。
見事な誘導で俺を射抜かんとする矢。
残された矢を辛うじて防ぎ、楯は壊れた。
しかし一連の攻撃は囮に過ぎない。
「はあああぁぁぁぁっっ!!」
「ぐっ……『虚影武装——」
「二度も使わせるかッ!」
矢に気を取られ、サレイを見失っていた。
お陰でサレイの攻撃をまともに食らう。
腹に思い切りめり込んだ鉄塊。
内臓がかき回されるような感覚。
息が詰まり、思考が停止する。
ハンマーを振り切られ、吹き飛ぶ俺の体。
嘔吐感を堪え、なんとか意識を保つ。
「はぁ、はぁ……げ、げほっ!」
「まだだ! 本気はこんなもんじゃ無い!」
召喚された無数の武器を背に叫ぶ。
彼は開戦時、既に武器を召喚していた。
恐らく召喚のラグを減らす為に。
理に適った戦法、許した俺の不覚だ。
ハンマーも予め召喚されていたのだろう。
技量も手数もサレイが上た。
今の俺が彼に優っているものは2つ。
純粋な魔力量と、全壊剣。
この剣はリーヴァに託されたものだ。
サレイに向けるのは心苦しい。
だが余裕を持てる立場では無い。
息を飲み全壊剣を改めて握る。
「『武装召喚:シールド』!」
サレイに向かって走る。
同時に左手へ展開した彼の盾。
右手にはハンマーが握られたまま。
完全な攻撃可能距離へ突入する。
サレイからの牽制はない。
俺は全壊剣を斜め上へと振り上げる。
下からの予測が難しい剣戟。
これを彼は簡単に避けてみせた。
そのまま胸を切るように振り下ろす。
この一撃も回避される。
だが、一瞬だけ隙が生まれた。
今だ。
剣戟を止め、真横から薙ぎ払う。
回避が間に合わず、盾を使ったサレイ。
しかしこの剣は全壊剣。
盾などで防げる代物ではない。
「ぐ、ぎっ!!」
砕かれた白銀の盾。
彼はハンマーを落とし、腕を抑えた。
全壊剣の特性を彼が忘れたとは思えない。
だが彼は完全に怯んでいた。
立て続けに全壊剣を振り下ろす。
全力の一撃。
俺が殺そうとしても彼は殺せないだろう。
それを信じた、殺意を込めた本気。
俺の一方的な期待に彼は答える。
俺の攻撃が止まる。
何か、妙なものに食い止めらる。
やはり俺の予想通りになった。
「『武装召喚・ソードブレイカー』!」
鉤爪のような穴が片側に並ぶ剣。
聞き慣れない名の武器に阻まれる。
普通の剣なら梃子で破壊できる。
だからこの名前なのだろう。
しかし強度は全壊剣が上だ。
だが……サレイは笑っていた。
直後、ぐわんと謎の剣を回すサレイ。
つられて俺の腕が動きに持っていかれる。
全壊剣に食いついた鉤爪。
これでは剣の強度など関係ない。
「な、っ!?」
「————ッ!!!」
全てはこれが目的だった。
全壊剣が剣という形を保つ故の戦術。
俺の知らない、彼の経験則。
まんまと彼の策に嵌ったのだ。
妙な格好で無防備になる俺。
サレイの蹴りが頭に炸裂する。
強烈な目眩と意識の混濁。
だがそれをなんとか堪える。
彼も、きっとまともではいられない。
「……やっぱ一筋縄じゃいかないか」
俺から跳び退き、軽い口調で呟く。
その顔は普段の彼に近い。
顔中に汗を浮かべているのを除けば。
俺を蹴った足から何かを引き抜く。
数枚の大きな剃刀のような刃。
蹴られる直前に俺が仕掛けた刃だ。
全て、彼の蹴りの勢いで食い込んだ。
流石のサレイも回復を余儀なくされる。
おかげで心に余裕ができたのだろう。
そんな彼から、俺に話しかける。
「先輩はどこまで聞いたんだ?」
「リーヴァの話か」
「そう、アイツの過去の話」
「魔王との戦闘と決着、その少し未来だ」
「なるほど……そうか」
神妙な面持ちでリーヴァの話題を出す。
彼女はサレイの大切な存在だ。
過去の一部始終を知る人物は少ない。
彼女への思いが伝わる会話。
俺はてっきりそう思っていた。
その認識は、間違っていた。
「ならこれは知らないワケだ!」
一気に闘気を帯びるサレイ。
その身に、莫大な魔力が渦巻く。
恐らく魔力量はサレイのありったけ。
ほぼ全ての力を解放した。
武装召喚は魔力効率が良い。
普通の召喚術に比べたら差は歴然だ。
にも関わらずこの魔力量。
そして描かれていく巨大な召喚陣。
普段の武装召喚とは何もかもが違う。
広がっていく召喚陣を前に、気づく。
「極大召喚陣、だと!?」
「『破壊の槍よ、我が手に顕現せよ!』」
普段と異なる詠唱呪文。
それに応じ、魔法陣から雷鳴が響く。
放たれる眩い光が収束していく。
やがて光は一振りの槍へと形を変えた。
「壊槍——トリシューラ!!」
「壊、槍……まさか!」
「その通りだ!!!」
灰色に輝く槍を手に取るサレイ。
恐らくこれが、彼の全力。
それを初めて俺は目にする。
名前も姿も知らなかった長槍。
だが、その力を俺は予想できてしまう。
恐らくこれはサレイとリーヴァの秘密。
俺の知らない本当の最終兵器。
彼はそれを振りかざす。
そして、一瞬で俺との距離を縮めた。
「終わりだ、アリク!!!」
「いや、まだだ!」
迫る壊槍の刃先を全壊剣で受け止める。
たった一瞬の時間稼ぎ。
「『合成されし幻獣よ、暴れ狂え』!」
その一瞬が、求めていた瞬間だ。
展開した召喚陣から現れるキマイラ。
あり得ない出現に怯むサレイ。
だがキマイラは御構い無しに彼を撥ねる。
槍で勢いを殺し、サレイは着地する。
大したダメージにはなっていない。
だが情報面でのダメージは大きいだろう。
彼は俺が召喚を使えないと知っている。
この空間異常には気づいている筈だ。
実際に俺はついさっきまで無力だった。
召喚術を取り戻したのは"たった今"。
それを確信させたのは、紛れもなく。
「悪いサレイ、お前を利用させてもらった」
俺は散々召喚術を空間に適応させた。
しかし一つ、埋まらないピースがある。
おかげで今まで時間がかかった。
サレイの武装召喚を解読するまで。
やっと召喚術が使えるわけだ。
もうかなりダメージは受けたが。
「これで俺も、やっと本調子だ」