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壊れた罠への墜落

 

 翼を持たず、落ち続ける穴の中。

 果たしてどこまで暗闇は続いているのか。

 それすら俺たちにはわかっていない。

 頼りはシズマの出したヒントのみ。

 俺達はもう、後戻りできない場所にいる。


「ひいぃっっ!」

「しっかり掴まってれば大丈夫だから!」

「そうは言ってもさあ!!」


 情けない悲鳴を上げているのはリッカだ。

 それをシズマがなんとか宥めていた。

 しがみつかれたままだが、大丈夫らしい。

 うまく姿勢制御をやってのける。


 俺とラナも何とか空中で姿勢を整える。

 リヴァイアサンは肉体を変形させている。

 落下速度は皆ほぼ一緒だ。

 おかげで一応安心はできる。

 後は落下地点、落下後をどうするか。


 ……という訳にもいかないようだ。

 ここは相手の本拠地への入り口。

 侵入者対策を奴が怠るなんてありえない。


「アリク様、何か変です!」

「どうしたラナ」

「下から何か……!! アンデッドです!」


 異変に気付いたラナが下を指を差す。

 直後、異変の正体は俺の真横を過ぎ去る。

 イゴウだ。俺の目が姿を捉えた。

 異常な光景に、ほんの一瞬思考が鈍る。


 勢いよくイゴウが下から飛んできたのだ。

 それだけでも反応に困る異常事態。

 しかし次の瞬間、更なる異常が訪れる。


「上からも来ているぞ!」


 リヴァイアサンの叫びがこだまする。

 身を翻すと、俺は状況を理解した。

 俺達を追い落下する無数のアンデッド。

 さっきのイゴウだけではない。

 イゴウと『剣士』がまとめて落ちてくる。


 同時に下からの攻撃も収まらない。

 最初は1体だけだった飛んできたイゴウ。

 だがその数は徐々に増えてきている。

 もはや見過ごす訳にはいかなくなった。


「リヴァイアサンは下を頼む。ラナ、上のアンデッドは俺達がやるぞ」

「了解だ!」

「はいっ!!」


 指示を出し、俺も全壊剣を構える。

 下はアビス達に任せられる数だ。

 逆に上から降ってくる量は膨大すぎる。

 ラナの火炎に頼るのが最適解だろう。


 急降下してくるアンデッド達。

 瞬間、目の前は爆炎で明るくなる。

 ラナが人間態で繰り出せる最大の火力だ。

 巨大な炎が、大穴の上部を埋め尽くす。

 さながら火炎が蓋をするかのようだ。


 それでも追撃は避けきれない。

 "運良く"攻撃を逃れた『剣士』達がいる。

 数はまだそれなりに多い。

 彼等を倒すのが俺の役目だ。


 炎を逃れた『剣士』達を全壊剣で斬る。

 なるべく一度に、まとめて斬り裂く。

 彼女達の運が発揮されないように。


「最後の罠にしちゃヤバくない!?」

「いや、これはまだ序の口よ」

「ま、まだ何かあんの!?」

「逆に終わると思う方が楽観的だって」

「どんだけ保険かけてんのさ!」


 戦っていないリッカ達が話している。

 言い分はシズマが正しい。

 ブライの仕掛けがこの程度とは思えない。

 確実に、まだ何かがあるはずだ。


 いくら焼いても斬っても減らない追っ手。

 真下からも現れるアンデッド達。

 彼女達の相手をするだけでギリギリだ。

 だがそれで終わってはいけない。

 訪れる次の罠に、俺は神経を尖らす。


「下が明るい……来るよ、アリク!」

「リッカは任せたぞシズマ!」


 真下から真っ白な光が注ぎ込む。

 それを俺は、背中で受け止めていた。

 大穴を抜けて広がる第二の空間。

 そこは最初の空間と同じく、真っ白だ。


 天井には特に何も無い。

 真っ白な無地の壁が広がるだけ。

 そこにぽっかりと開いた黒い大穴。

 俺達とアンデッドがそこから降り注ぐ。

 しかし、危険は上だけではない。


 下から飛んできたアンデッド。

 つまりこの空間にも奴らはいるのだ。

 身を翻し、それを確かめる。


 眼下に広がる着地点。

 その光景に、俺は戦慄した。


 確かにアンデッドがそこにはいた。

 問題はその数、最早地面が見えない。

 上の空間とは比べ物にならない数がいる。

 そいつ等が……俺達に手を伸ばす。


「備えろ、マスター!」

「くっ……!!」


 頭上からのアンデッド。

 地面にひしめき合う敵勢力。

 圧倒的な数の暴力だ。

 さすがの俺達も対抗する手段がない。


 奇跡が起こる事を願うしかない。

 この状況を打開する方法を。

 アンデッドの海へ堕ちるまで。


「ちょ、ま、ぎゃあぁぁっ!!」


 これまで以上に情けないリッカの声。

 アンデッド達の中に埋もれていく俺達。

 だが、彼女の声は消えなかった。


 周囲に広がっていくリッカの"力"。

 それに飲まれ、動きを止めるアンデッド。


 ————奇跡は、あっけなく起きた。


「リッカさん、ナイスです!」

「何かわからないけど、は、早くしてっ!」


 リッカから放たれた謎の力。

 それは空間を歪める程の力だった。

 落ちて来るアンデッド達も静止している。

 こうなれば最早、動かぬ的だ。


 リッカがまだ力を秘めているとは。

 しかもこんな強力な力を。

 当の本人は怯え、動いてすらいないが。


 脅威でなくなったアンデッドを蹴散らす。

 ラナは炎で、リヴァイアサンは光線で。

 俺は全壊剣と虚影武装の併用だ。

 あっという間に能力内の敵は倒しきる。


 残るは能力外のアンデッド達。

 そして……ブライだ。


「どこにいる——ブライ!」


 リッカの作った安全圏を飛び出し、叫ぶ。

 そこにラナ達も続き、侵攻を始めた。

 そもそもリッカは力を咄嗟に使った。

 恐らく自らの思考外での使用だ。

 安全圏はじきに消える。


 奇跡に頼るのはピンチの時だけでいい。

 それは当のリッカが一番知っている。

 恐怖を抑え何とか理性を取り戻す。

 サポートとして、彼女は要の存在だ。


 正しい方向はわからない。

 だが俺達はアンデッドの海を割る。

 その時だった。


『ア——、来たか。残りカス共』


 突如、その声は響く。

 俺達をやっと理解したかのように。

 気怠げな声だが相手は明白だ。

 ——最後の脅威、ブライ。


 その声は、物思いに耽っているようだ。

 彼の興味は俺ではない人物に向く。


『……お前がそっちに着くとはなァ』

「私も残念よ。兄さんに捨てられてさ」

『捨てられても主を守るのが忠誠だろ?』


 ブライにしては落ち着いた口調で語る。

 やはり二人は腐っても兄妹か。

 シズマの表情にも苦悶が浮かぶ。

 だがブライは、彼女の想いを踏みにじる。


『勘違いしてるみてェだから教えてやんよ! シズマ、テメェはまだ俺の掌の上にいるんだよォ!』


 吐き捨てるように叫ぶブライ。

 彼の想いなど、所詮はこの程度だ。

 シズマも十分理解していた筈の結末。


 だが彼女の瞳は、涙を浮かべる。

 その姿は、彼の言葉を暗に表していた。


『当然アリク、テメェもなァ!』


 暴言は俺へと矢印を変える。

 シズマの想いも聞かないまま。


『テメェ等の為に組み上げた最期の罠……たっぷり楽しんで死ねやァ!!!』


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