リヴァイアサンの奇策!!
「砕けろ!!!」
リヴァイアサンが動いた。
イゴウへ向けていた容赦はない。
大きく弧を描き、風を切るような轟音と共に地面へと叩きつけられる『剣士』。
普通ならこの一撃で肉塊になるはず。
しかしリヴァイアサンの表情は微妙だ。
立ち昇る土煙で視界が遮られている。
まさか、今の攻撃を受けきった?
一抹の不安は、直後に現実となる。
『…………!』
直後『剣士』が土煙から飛び出した。
リヴァイアサンとの距離を一瞬で詰める。
「くっ……! 直前で脱出するとは!」
『…………』
触手を盾にするリヴァイアサン。
防御はできないが囮にはなっている。
そんな触手の壁を『剣士』は肉薄した。
彼女の興味はリヴァイアサンに集中する。
俺達には見向きもしていない。
どうやら複数相手はできないようだ。
今なら攻めに転じられる。
僅かな確信が、俺の体を突き動かした。
視線でラナとシズマに指示を出す。
こちらの動きに気づかれないほうがいい。
『剣士』にはまだ気づかれていない。
その時、リッカの声が俺の内に響いた。
『アリク、融合解除して!』
「大丈夫なのか?」
『今は人数がいた方がいいでしょ?』
「……わかった」
どうやら意識もほぼ回復したようだ。
確かに今は人数が多いに越した事はない。
白兵戦力としては少し不安だが。
彼女の望みだ。俺は融合を解除する。
融合解除したリッカは人間態だ。
やはり何故か人間の姿に固定されている。
まあ、リッカからすれば好都合か。
「いいの? 結構ヤバイけど」
「ある程度は戦えるし!」
「そっか……なら、私に合わせて!」
シズマの掛け声と共に全員が動いた。
ここで周囲の変化を察知した『剣士』。
もう遅い。俺達の準備は整った。
『魅惑』を放つシズマとリッカ。
これを『剣士』は無視して回避した。
一度使用した作戦は通用しない。
そんな事、シズマもリッカも承知の上だ。
今のは所詮ハッタリである。
本命は、リッカの二撃目だ。
人間態でも高度な術を使用できる彼女。
範囲指定できれば、その範囲内にいる者はたちまち彼女の掌の上で転がされるだけだ。
シズマとリッカの見事な連携が炸裂した。
おかげで『剣士』は動く事ができない。
「ラナ!」
「はいっ!!」
この好機、逃すわけにはいかない。
今度は俺とラナの出番だ。
超火力の炎を放つラナ。
俺も全壊剣を振りかざし走る。
しかしここでリッカの術が解除される。
自由を得、的確に攻撃をかわす『剣士』。
だが、これも織り込み済みだ。
『…………!』
「後ろがガラ空きだぞ!」
俺達の奇襲に『剣士』は興味を削がれた。
おかげでリヴァイアサンが自由になる。
堂々と彼女に背を向けていたのだ。
そうなれば強運だろうと格好の的。
破壊光線が『剣士』の体を貫く。
その場によろめいた『剣士』。
動きは止まったが、決着ではない。
彼女の肉体を崩壊させなければ。
勢い任せに俺は剣を振り下ろす。
縦一文字を描く全壊剣。
これは転んでも避けられない。
『…………!』
しかし、全壊剣は届かない。
俺の剣が『剣士』によって防がれる。
腹に風穴を開けられた『剣士』ではない。
彼女を前に現れたもう1人のアンデッド。
つまり、2人目の『剣士』だ。
攻撃を弾かれ、俺は甘さを自覚した。
イゴウを見た時点で危惧すべきだった。
当然『剣士』も複数体いるのだと。
「退いてください! アリク様!」
危機を察知し俺は飛び退く。
二人目の『剣士』が俺に狙いを定めた。
剣を交え、身をかわし、攻撃から逃げる。
単純な剣の腕では劣勢だ。
しかも攻めても強運で外れる。
傷を負った『剣士』も回復させている。
全快されても、今は攻めではなく守りだ。
守りを固めて彼女達の隙を待つ。
ラナ達も同じ考えに至ったはずだった。
「フッ……やはりそうだったか!」
たった一、いや二体。
リヴァイアサンとアビスを除いては。
「マスター、今から私達は少々暴れ回る。巻き添えを食らうかもしれないから適当に避けてくれ」
「お前、何をするつもりだ?」
「大した事ではない。な、アビス?」
「————ん!」
彼女達は俺達の返事を聞かない。
俺は『剣士』の相手で精一杯だった。
直後、俺の頭上を光線が掠めていく。
おかげで俺は、少しだけ察しがついた。
彼女が一体何をするつもりなのかを。
地響きと共に薙ぎ払われる周囲の木々。
無差別に破壊されていく地面や岩。
ただ破茶滅茶に、暴れまわっている。
俺を放置し『剣士』の興味はそこへ移る。
同時に切り払われた木々の中から、潜伏していたアンデッド達が一斉に俺達へ襲いかかる。
「マスター達はソレを頼む!」
「わ、わかった!!」
あぶり出された周囲のアンデッド達。
俺達はその中のイゴウのみを倒していく。
現れる『剣士』の数はごく少数。
これは——少し妙な光景だ。
ブライの思考をなぞれば、時間をかけてでも『剣士』の数を増やしてもおかしくないはず。
それができない理由が、ある。
リヴァイアサンはそれに気づいていた。
「幸運とは、誰かの不運の上に成り立つ」
リヴァイアサンが語り出す。
それは『剣士』の"運"を利用した攻略法。
「お前達が豪運の椅子を取り合うのは勝手だ」
複数体の『剣士』がその場に集まった。
だがその動きはどこか統率に欠いている。
互いの運が干渉しあっているような。
——いや、その通りだ。
『剣士』達の運が干渉している。
信じられないがそうとしか言えない。
無差別に暴れまわるリヴァイアサンの攻撃に、『剣士』達は翻弄されていた。
避けられる距離の光線すら命中している。
「だが豪運も集まれば凡人——運任せにくじを引いても、必ずハズレを引く者は現れる!」
俺はやっと理解した。
ブライが『剣士』を少数に絞った理由を。
1人だけなら"運良く"攻撃を避けられる。
2人なら助ける事ができる。
だがそれが3人、4人と増えていけば。
その場の"幸運"と"不運"の均衡が崩れる。
俺達は攻撃を避けられ、防がれる"不運"の側に立つ者だった。だが今は、その運すら均等になった。
"幸運"の椅子に座れるのは一人。
その椅子は奪い合われ、今は空席だ。
「行きます、リヴァイアサンさん!」
「続け! マスター!!」
俺達は一斉に必殺の一撃を放った。
ラナの炎にリヴァイアサンの破壊光線。
二つが合わさり巨大な爆発を起こす。
全攻撃をまともに食らった『剣士』達。
"幸運"にも肉体の崩壊には至らない。
だが、これでトドメだ。
「喰らえッ!!!」
全ての『剣士』を両断する全壊剣。
この攻撃を避けられるだけの"運"を、もう彼女達は持ち合わせていなかった。
全ての剣士を切り払った俺は着地する。
当時に背後で大爆発が起こった。
ラナとリヴァイアサンの攻撃の残骸。
かなり過剰な火力だった。
「良い作戦だったろうマスター?」
「油断するなリヴァイアサン、敵は——」
勝ち誇るリヴァイアサンを窘めようとした。
まだイゴウ達が残っていると。
……油断していたのは俺だった。
目の前にいるイゴウのアンデッド達。
その中に一人、明らかに違う個体がいた。
俺はそれに気づいてなかったのだ。
胸を抉り出すような激痛。
俺の意識が一気に遠のいていく。
俺の目に、映った者の姿は。
「ネ、ム……?」
『……くひひ』
アンデッドとして蘇ったネムだった。





