リヴァイアサン、復活!
『お前の肉体、貰い受ける!!』
肉体が何者かに引きずり込まれる。
時を同じく、アビスから光が放たれる。
俺はこの不可思議に抗っていた。
これまでとは違う異様な融合に。
しかし次第に、俺の肉体は蝕まれた。
指先から徐々に乗っ取られていく感覚。
残されたのは五感のみ。
感覚はあるのに動かす事ができない。
意識を残し、俺と俺の肉体は断絶した。
「——————」
『アリク、大丈夫……?』
「——フッ」
『!?』
俺の意思と無関係に漏れる言葉。
その声色も俺のものではない。
アビスであり、リヴァイアサンの声だ。
「男の肉体は馴染まないな……『変身』」
肉体までもが俺でない存在へ変質する。
それは普段、アビスがヒトデ態と人間態の姿を自らの意思で切り替えるのと同じように。
やはり変身能力は彼女のものか。
アビスの人間化も納得できる。
そして能力自体が彼女のものなら。
俺の肉体も容易く変えることができる。
頭身が下がり、視点が低くなる。
手足の長さまで勝手に改変されていく。
リヴァイアサンの思い通りに。
それこそが、アビスのとっていた姿。
8000年前の彼女自身の姿。
「うーん、久方ぶりに人の形を得た」
『アリクがアビスになっちゃった!?』
大袈裟に反応するリッカ。
だが状況は、非常に深刻だ。
彼女とは円満な契約をしていない。
アビスが力を奪うというイレギュラーだ。
それ以前は難破事故を起こしている。
偶然ではなく意図的に。
つまり彼女は人間と敵対している。
危険性を俺は忘れていた。
……初歩的なミスだ。
アビスの力を絶対視していた。
まさか、こんな抜け道があるとは。
唖然とするリッカを置いて歩き出す彼女。
しかし背後から何かが襲いかかる。
それは、数十にも及ぶ半透明の触手だ。
「ほう、私の能力を記憶したか」
「——ッ! ————!!」
「だが……軽いな」
確かにそれはリヴァイアサンの触手。
しかし彼女はここにいる。
攻撃してきたのは、アビスだった。
姿はリヴァイアサンの人間態と同じ。
どうやら彼女の言葉通りらしい。
アビスは彼女の能力を覚えたようだ。
だがそれは完璧な形では無い。
彼女はアビスの触手を片手で掴み、力任せに振り回して地面へと叩きつけた。
強大な力はリヴァイアサンのもの。
能力を覚えても、単純な力で負けている。
「私と分かたれて尚、その姿を取るか」
「————っ!」
「しかし言葉は無くしたようだな」
「——!?」
リヴァイアサンが指摘でアビスは気づく。
アビスの会話能力は彼女のものだった。
それを失い、言葉をも失う。
まるで初めて出会った頃のように。
慌てて自らの口を隠すアビス。
その行為には何の意味も持たない。
『アリクはどうなったの!?』
「案ずるな、彼は無事だ」
意外にも彼女は優しく答える。
しかし俺の立場からすればそれは無い。
決して無事とは言えない状態だ。
タチの悪い金縛りとも言える。
意識はあるが、体の自由は奪われている。
しかもそれが決して友好とは言えない他者。
徐々に焦燥感だけが迫っていく。
一体彼女の目的は何だ?
「残念だが私にも目的というものがある。お前達に関わっている暇など無いのだ!」
『待ちなさ、きゃあっ!?』
驚異的な跳躍でリッカの前から離れる。
リヴァイアサンの驚異的な身体能力。
それは人間態で翼を持たない彼女に、空中飛行にも似た移動を可能にさせていた。
彼女は一直線に何処かへ向かう。
まるで最初から決めていたかのように。
人間には一切見向きもしない。
道を塞ぐモンスターは薙ぎ倒していく。
敵からは攻撃対象と思われている。
ブライの使役下では無いし、当然か。
少しずつ見覚えのある景色は移っていく。
俺が戦っていた、あるいは俺が誰かと協力して何かをこなしていた場所である。
しかしそこに何の因縁がある?
俺に思い当たる節は……あった。
「ムラサメェェェエエ!!」
「は!? なんでアンタがここに!?」
リヴァイアサンの因縁の相手。
それは彼女を封印した者に間違いない。
俺はそいつと記憶を旅したのだ。
人の作りし英雄、ムラサメ。
またの名をリーヴァ。
俺の予想は的中していた。
彼女はリーヴァと再戦するつもりだ。
「その身体……アリクの!」
一目で異常に気づいたリーヴァ。
アビスと勘違いしないのは流石だ。
そして俺に起きた異常も理解したらしい。
同時にやはり容赦が無い。
俺の身体と知ってなお、全壊剣でリヴァイアサンの攻撃を弾き反撃を加える。
しかしリヴァイアサンは怯まない。
攻撃を弾いた僅かな隙を見逃さなかった。
二撃目の蹴りがリーヴァに迫る。
彼女の防御は全く間に合っておらず、まともに喰らい弾き飛ばされた。
近くにいたサレイがそれを受け止める。
完璧なコンビネーションだ。
「何でアビスちゃんが襲ってくるんだ!?」
「アビスじゃない、ヤツはリヴァイアサン! あの子はコイツの能力を奪っていただけ!!」
「そんな奴がどうしてお前と因縁を!」
「色々あるんだっての!」
三撃目がリーヴァとサレイに迫る。
二手に別れ攻撃をよけるリーヴァ達。
一方、リヴァイアサンは余裕だ。
「隙だらけだ!!」
最初から彼女の狙いはリーヴァのみ。
サレイには何の興味もないのだ。
四撃目は先程のアビスと同じ。ムチのように振るわれた無数の触手がリーヴァを追う。
いくら回避しても迫り来る攻撃。
単純な力もリヴァイアサンのほうが上。
防御すら通じそうにない。
ならば攻撃と、触手を切断する。
それでも触手の勢いは止まらない。
止められない為の"量"だ。
リーヴァはこの攻撃を受けるしかない。
……そう、リーヴァだけでは。
「色々あるなら、仕方ないな」
目にも留まらぬ神速の剣戟。
吸い込まれるような的確な防御。
二つの妙技がリーヴァを守り抜いた。
……本当に頼れるヤツだよ、お前は。
でもまさか伝説級の勇者を守るとはな。
「俺は先輩の身体を取り戻す。お前は?」
「……因縁をもっかいぶっ飛ばす!」
「了解!!」
察しの良さに波があるのは少し残念だ。





