相性最高のふたりと、相性最悪の敵!?
戦場を全力で駆け抜ける。
立ち塞がる敵は、全て夢の中に沈める。
的を絞れば魔力消費は微量だ。
複数体への効率的な催眠も慣れた。
流石にリッカほどの規模は難しいが。
『……アリク、昔サキュバスだった?』
「何を言ってるんだお前は」
『だって使いこなしすぎでしょ!』
「そうでもないだろ」
とはいえ、龍皇の力よりは扱いやすい。
リッカの力は魔術の延長だ。
魔術が苦手な俺でも把握はできる。
肉体構造から慣れが必要な暗黒龍よりは、確かに使いこなしやすいのかもしれない。
加えてリッカだからというのもある。
器用な彼女の力を借りているのだ。
普段は召喚術以外ダメな俺でも——。
「——背後にモンスターが16体」
『なんで数までわかるの?』
「感覚を強化した。一旦蹴散らすぞ」
正面のモンスターは催眠で事足りる。
しかし背後のモンスターには使えない。
正確には視界外では的を絞れない。
最初の無駄撃ちを繰り返してしまう。
これが術の弱点といえるだろう。
だから、背後は別の術だ。
リッカの『魅惑』を応用する。
感覚を操作して自身の虜にする力。
この前半のみを使い、同士討ちさせる。
発動条件はリッカの香りを嗅いだ者。
既に俺は『魅惑』の香りを放っていた。
と言っても自分には認識できないが。
それでも効果はてきめんだ。
背後でモンスター達が喧嘩を始めた。
その声で成功を確信する。
『こんな能力持ってないんだけど!』
「なら使えるから覚えておけ」
『やっぱ慣れすぎじゃない!?』
「やろうとした事が思い通りにできるって素晴らしいな」
『アタシはそれに振り回されてるの!』
まあ確かに大きすぎる力ではある。
なのにリッカの肉体は脆いまま。
そして彼女はこれ程の力を求めていない。
豪運なんだか不運なんだか……。
「……おっと」
『どしたの?』
周囲の変化に気づいた俺は急停止した。
目の前に現れた、同じモンスターの群れ。
ローパーというモンスターだ。
特徴は本体でもある無数の触手だ。
これで敵を捕縛し体内に卵を産みつける。
そして注意すべき習性が二つある。
まず、特に人型の女性を好んで襲う。
脳が無いので、魅了系の術が効かない。
『……それってマズくない?』
「ああ、結構まずい」
つまりサキュバスの天敵である。
直後、俺は身を翻し走りだしていた。
なのに普段は鈍足であるはずのローパーが、何故か同じ速度で追いかけてくる。
凶暴化の影響か? 少し凶悪すぎないか?
「お前、ご家族から対処法とかは!?」
『初めて知ったもんそんなこと!!』
俺のアテも大外れだ。
一応目的地を目指しつつ逃走する。
しかしローパーの速度は予想外だった。
このまま逃げていてもキリがない。
立ち向かう方向で考えよう。
リッカの力は彼等に通用しない。
ならば召喚術だ。
「『合成されし幻獣よ、暴れ狂え』!」
召喚陣から現れる獰猛な合成獣。
しかし今回は俺たちの味方だ。
ギガ・キマイラとは全く関係ない。
召喚直後にローパーへ襲いかかるキメラ。
一時的な足止めはうまくいった。
ふと俺は、今の行動に違和感を覚えた。
龍皇の時は召喚にもラグがあった。
だが今回はそのラグがない。
いや、それどころか……。
「……召喚術がいつもより使いやすい」
『…………何で?』
頭に浮かぶ無数の疑問符。
恐らくリッカも同じ状態だ。
彼女も確かに自分自身を召喚できる。
まさかそれが関係しているのか?
いや、今は逃げよう。
そう思い再び走り出そうとした時、不意に俺の足へと何かがからみついた。
この冷たい感触は正しく……。
「くっ……!」
『ギャアア! 片っぽ足掴まれたぁ!!』
足止めを逃れたローパーのものだ。
どうやら一体だけ取り逃がしたらしい。
キメラ単体で何とかなると思ったが。
足を掴み、俺を持ち上げるローパー。
同時に次々と嫌な想像が膨らむ。
肉体に這い寄る数本の触手。
それを俺は、力づくで食い止めた。
俺の中で騒ぎまくるリッカ。
おかげで俺まで思考が纏まらない。
ここに来て色んな意味で大ピンチだ。
でも訪れるだろう最悪は避けたい。
何か、召喚しなければ——!!
「とうっ!」
そんな恐怖は、間の抜けた声と共に失せる。
触手が切られて地面に落ちる俺の体。
見上げるとそこには、小さな盾が見えた。
「危なかったねエルく……エル君?」
間一髪、メリッサが救助してくれたようだ。
小さな盾でも彼女の強さは変わらない。
記憶喪失後もやはり健在のようだ。
そして、やはり性別の変更が気になるのか。
気にするな、元に戻れると俺は返す。
しかしその答えに彼女は不服のようだ。
ずっとこの姿でいろというのか?
残念ながらリッカの為にもお断りだ。
「残念。で、どこまで行くつもりだい?」
「とりあえずアビスの元へ戻る」
「手伝おうか?」
けろっとした様子で提案するメリッサ。
大丈夫か? ずっと戦い続けだろう。
それにお前はペガサスと戦っていたはず。
まだペガサスは倒せていないはずだ。
それでも彼女は提案を曲げない。
瞳の力が、強く彼女の意志を訴えかける。
ならば答えは簡単だ。
気になる事は、あとで全部聞けばいい。
今は力を借りるのが一番だろう。
「よろしく頼む」
「ああ、守りならお任せさ!」





