第二の融合変身!!
アトラスの脅威は想像を絶した。
体長だけならリヴァイアサンも越す巨体。
行動の1つ1つが災害の域に達していた。
そこからリッカを連れて退避する。
思っていた以上にこれが手間取っていた。
幸いアトラスはマキナが食い止めている。
ゴーレムを巨大化させ、アトラスと差を並べるほどの巨躯へと並び立ったのだ。
戦闘は彼女に任せられる。
問題はどこへ避難するかだ。
2つの巨躯に吹き飛ばされたものが飛び交う。
アトラスは足元を全く気にしていない。
人が足元の蟻に気づかないように。
『大丈夫だよアリク! アタシも戦える!』
「さっき助けてって叫んでたのは誰だ」
『そ、それはほら、こんなのが頭の上で暴れてたら怖いに決まってるじゃん!』
虚勢はあるが、リッカの目は泳いでいる。
いくら強くなっても彼女は非戦闘要員。
戦いのセンスだけは低いようだ。
よくシズマの足止めができたと感心する。
『巨人め……中々に厄介よのう!』
「やっぱり俺達も戦うか!」
『それでは勇者の思うツボとなる!』
「なら、どうする!?」
龍皇の意見は俺の意思を投影していた。
ブライは今、地下に避難している。
だがこの地面は普通ではない。
それなりの強度と莫大な魔力がある。
ただの隠遁にしては異質だ。
シズマとの戦いを思い出す。
彼女はこの地面に触れる事で、自らの傷や体力を全快させていた。
恐らくこれは強化にも転用できる。
そうなれば、ブライは更に厄介になる。
突入するなら迅速にいきたい。
だが、今はその手段すらわからない。
こんな状況ではなおさらだ。
予測不能なこの場から脱しなければ。
そう考えるのは、俺だけではなかった。
『……アリク、貴様1人で行けるか?』
神妙な面持ちで龍皇が語る。
『ゴーレム娘と巨人の強さは互角。いくら彼女か強かろうと、もしもの事は起こりかねん』
そこまで聞いて彼の思惑を理解する。
同時に何故、それを聞いて来たのかも。
融合を解除する方法はわかった。
そして龍皇は自ら再融合してきた。
恐らくその逆、融合解除もできるはずだ。
今までの彼なら勝手に出ていくだろう。
『……俺も甘くなったものだ』
「ラナにはいつも甘いじゃないか」
『親が娘に甘くて何が悪い』
彼の堂々たる親バカに反論できない。
少し甘すぎな気がしなくもないが。
それでも彼女は龍皇によって教育され、その背中から良い影響を受けている。
指導者の血は受け継がれているのだ。
それなら甘すぎても誰も咎めないだろう。
家族思いの良い父親だ。
融合を解除し、龍皇と分離する。
視線を合わせて互いに背を向け合う。
背中を預けるには、頼りになりすぎるな。
『娘を頼んだぞ——アリク!』
「龍皇こそ、ここは任せたッ!」
龍皇が飛び立つと同時に俺も走り出す。
すぐに効果が現れ、アトラスは鈍くなる。
リッカを抱え危険地帯からは脱した。
だが、まだ安心はできない。
周囲にはまだ敵モンスターがいる。
数は減ったが、俺達は格好の餌食だ。
何せ多くの勇者や兵士などは、S級の討伐のために出払ってしまっている。
彼らの敵は、ここにいる俺達だけだ。
ガルーダかグリフォンは……やめよう。
空中は地上よりモンスターが多い。
しかもガルーダは先程全て召喚した。
ギガ・キマイラ戦で召喚したモンスター達は、スライムを除いて通常の敵モンスターを掃討している。
スライムはS級と戦っているようだ。
恐らくウシオニと協力しているのだろう。
となると手段は少ない。
敵の攻撃をかいくぐりながら考える。
何かないか、方法は……。
『何か忘れてない?』
「別に何も…………」
『ううん、絶対アリクは忘れてる』
心を読んだのか、リッカが指摘する。
といっても本当に心当たりがない。
倒す事はできても迅速な突破は難しい。
これでは龍皇との約束が無駄になる。
ため息をつくリッカ。
そして彼女は、自分の胸を両手で指す。
まるで自分を指し示すかのように。
『アタシだって、S級だよ?』
アピールするようなその言葉。
確かにそれは事実である。
彼女自身の能力が強いのも知っている。
だが、懸念は多い。
つい先ほどと同じように、リッカ自身は戦闘には全く向いていない。
強力な能力と戦闘力自体はある。
しかし、戦うセンスは皆無だ。
そこは俺と融合すれば懸念は消せる。
それでも次はヘマをした時が危険だ。
リッカと融合しても、防御面は変わらない。
龍皇時のような頑丈さは無いのだ。
一撃で俺諸共死亡もある話。
「それでもいいのか?」
『少しは怖いけど、アリクなら』
「……そうか。なら」
強く頷き、俺の瞳を見つめるリッカ。
信頼と決意の強さが感じられる。
俺も彼女と同じ気持ちだ。
リッカなら、俺の肉体を任せられる。
走りながら魔王の能力を発動する。
目を強く閉じ、その瞬間を待つリッカ。
……準備は整った。
「力を借りるぞ! リッカ!!」
『よ、よっしゃ来いっ!』
能力発動と同時に、放たれる青い光。
そこに敵モンスターは躊躇なく飛び込む。
迫り来るどう猛なモンスター達。
光が晴れると同時に、俺は早速リッカの能力を使ってみることにした。
「『————眠れ』」
近くの敵モンスター全てに向けた幻惑術。
呟いただけで、彼らは全員卒倒した。
その効き目に少々戦慄を覚える。
これが、サキュバスのセイントデビルか。
リッカの戦闘が少ないせいか気づかなかった。
しかし当然デメリットもある。
術の魔力消費の多さだ。
発動後に覚えるわずかな立ちくらみ。
体質もサキュバスに近くなっているらしい。
魔力の急激な消費は禁物か。
『自分の残像魔力と相談しなきゃダメだって!』
「ああ、身を以て理解した」
『全く……って、どうしたの、その声?』
声? リッカの指摘に俺も気付く。
今の会話と術の発動時。
俺の声は、非常に高くなっていた。
まるで声変わり前の子供か、女性。
そういえば、胸のあたりがきつい。
下腹部にも何かの喪失感がある。
……恐る恐る自分の体を見る。
答えは、明白だった。
「——まあいいか」
『え!? いいの!?』
「龍皇の時よりは大した差じゃない」
『性別変わってるんだけど!?』
多少肩は重いが、特に気にもしない。
地下への突入策を思いつくまでに、この姿へのつっこみは散々できる事だろう。
次回は12/7(金)投稿予定!
22時〜23時ごろの予定です!
お楽しみに!!





