一難去ってまた……!?
超速でマキナ達の元へ向かう。
合成獣との戦いで、随分遠くに飛ばされた。
元はゴーレムの真下だったのだが。
モンスターの波を突破するのは慣れた。
が、いざ立ち向かうと骨が折れる。
やはり操られ凶暴化したモンスターを倒すというのは、心苦しさがイマイチ抜けないものだ。
『アリク!』
頭上から小さく聞こえるリッカの声。
やっとゴーレムの足元まで戻って来た。
ここからは空を飛んだほうが早い。
軽く助走をつけ、翼で風を掴む。
翼を強く羽ばたかせれば俺は加速する。
飛行魔術とは違う、動物的な飛翔。
当然空中のモンスターは俺を見逃さない。
目の前を遮り、後ろからも迫ってくる。
しかしその程度では俺も止まれない。
地面よりは格段に敵の密度が低い空中。
速度を出せば張り切るのは容易だ。
「ぐっっ!!」
「……そんなに慌てなくても」
代わりに、勢いを殺すのは難しい。
意外にも硬いゴーレムの外皮。
そこに着陸……もとい衝突する。
『大丈夫?』
「傷はないが、ちょっと痛い」
「当然です。ボクのゴーレムですよ?」
リッカの補助を得ながら立ち上がる。
様子を見るに、2人とも無事だ。
怪我は無く血色も悪くない。
ただ、2人とも表情が少し強張っている。
先の着陸が原因という訳でも無いらしい。
「一体何があった?」
こちらから話を切り出す。
しかし返答は無い。
語る事すら憚られているような空気。
呼び出したマキナもだんまりだ。
なら、聞きかたを変えよう。
「失敗はしてないんだよな?」
「魔術の解体は完璧に遂行されました」
策はうまくいった。
それは間違いないらしい。
にも関わらずこの曇った表情。
そして解体を強調するマキナの口ぶり。
観察していると、リッカが俺の袖を引く。
『見ればわかる、と思う』
促されるままに下を覗き込む。
そこはやはり、敵味方入り乱れた戦場。
以上なものなど無いはずだった。
"それ"に気がつくまでは。
『何だあれは!?』
俺の中で龍皇が驚嘆した。
戦場を埋める人々とモンスター達。
ウシオニやアビスの姿は離れても目立つ。
が、彼等と同等に目立つ"異物"がいた。
余りの大きさに地上では気づかなかった。
リヴァイアサンにも迫るその巨軀。
人の形をしたモンスターの頂点。
——S級巨人種・アトラス。
巨人の中でも最大を誇る種だ。
俺が契約していない種でもある。
当然俺達の味方な訳がない。
「アリさんでしたらわかりますよね?」
「ああ、だがこれは……!!」
背後でマキナが語りかける。
確かに十分な異常事態だ。
しかし、現実は更に困難を極めている。
「フェニックスに、ペガサスまで!」
その名を呼びつつ俺は驚愕する。
両者共にS級の超強力なモンスターだ。
当然召喚した覚えは一切無い。
アトラスと違い、別個体と契約済みだが。
いや、だからこそだ。
フェニックスにペガサス、そして巨人。
この3体には特殊な共通点がある。
「あの3体は、滅多に召喚に応じない」
「なら何故この戦場にいるのです?」
召喚成功自体が稀な3体のモンスター。
加えて野生では温厚な種族だ。
戦場で暴れる理由など、普通は無い。
凶暴化の洗脳以外に考えられない。
敵の使役するS級は3体。
ギガ・キマイラも合わせれば4体だ。
奇しくも光の柱と同数の脅威。
いや、これは偶然では無い。
恐らく彼女達もそれを知っている。
「何にしても立ち向うべきです」
『その方法がわからないんじゃん……』
ギガ・キマイラの時に気づくべきだった。
ブライの策略には保険があったのだと。
物量だけが手札では無いという事を。
しかし妙な違和感がある。
制圧魔術に、極大召喚の機能は無い。
直接調べた俺の目で確かめた。
ならば問題は2つの術の関連性だ。
制圧魔術を解除した時、何が起こった?
記憶の中の映像を探る。
術を解除し、崩壊する光の柱。
その直前に起きた——異変。
ふと俺は気づき、ポケットを弄った。
取り出したのは小さな石。
それは仄かな熱を放っていた。
『綺麗……でも、何これ?』
「白濁の宝石だ」
答えると、リッカ達は困惑した。
彼女達の反応は正しい。
この宝石は美しい青の光を放っている。
普段とはかけ離れた色合いだ。
術の解体時、石に異変は起きた。
強い熱を発して色合いが変化したのだ。
恐らく変化の果てがこの状態だろう。
だがこれは妙な事象だ。
この石の特徴は魔力の蓄積。
より大きな石に小さな石の魔力は移る。
戦場の足元は巨大な白濁の宝石。
移るならこの足元に魔力は行くはずだ。
「これ……もしかして」
『なにかわかるの?』
「思い当たる節があります」
この状況から、何かに気づいたマキナ。
彼女は探るように仮説を語る。
制圧魔術は非常に大規模。
発動するのにも相当な準備がいる。
ブライも前もって準備を整えたはずだ。
その際かけた保険が凶暴化付き極大召喚。
魔術の解除時に生まれる莫大な魔力を、そちらの発動に移すよう仕掛けていたのだろう。
仕掛けに利用したのは、白濁の宝石。
「宝石魔術では石の役割を変更できます」
その役割が、偶然にも重なった。
この宝石はダヌアのものだ。
役割を与えたのはネム。
ネムはこの宝石を利用し、エネルギーを周囲から吸収して呪術へと変換していた。
俺の持つ石にも同じ役割があったのだ。
偶然作動した石の魔力吸収。
この事象では、事態は解決できない。
だがこれは大きなヒントだ。
「リッカはどう思う』
『え? 何のこと?』
「ブライの印象だ」
不意をついてリッカへ尋ねる。
別に意地悪という理由ではない。
俺にはブライへの強い偏見がある。
代わりにリッカは彼との関わりは薄い。
マキナ程考察に長けてもいない。
だからこそ尋ねたのだ。
ブライから感じる、素直な印象を。
『乱暴な割に結構慎重だなーって』
……やはり、そうか。
となると俺の仮説も強くなる。
「意見交換の場は開けるか?」
「通話越しであれば」
幸い、戦場は少しずつ変化している。
モンスターの軍勢は数を減らしていた。
ここからはS級との戦いになる。
新たな策を練られるのは今しかない。
早速マキナに場の用意を頼む。
その理由は、ただ一つ。
「ヤツの本丸に乗り込もうと思う」





