S級合成獣攻略戦!
——ゴゲェェェエエ!!!——
鶏にも似た咆哮が、俺の肉体を震わす。
ギガ・キマイラの体表に浮かぶ無数の瞳。
その全てが俺を睨みつけている。
息の詰まるような威圧感だ。
……これは好都合だ。
「『新緑の精霊よ、食事の時間だ』」
鱗のある腕で召喚陣を展開する。
普段と手順は変わらない。
だがやはり、肉体に僅かな違和感が残る。
暗黒龍の部分が干渉しているのだろう。
それでも召喚術自体に影響は無いようだ。
これなら他のモンスターもいける。
ならば、今度は連続召喚だ。
「『肥えた蛮族よ、剛腕を奮え』」
「『可愛らしきスライムよ、顕現せよ』」
よし……極大召喚にも誤作動は無い。
召喚までに多少の時間差はあるが。
それでも使い慣れた術はやはり安心する。
この姿でも使用できて良かった。
しかしギガ・キマイラに容赦など無い。
術の途中でも攻撃を加えてくる。
命のやり取りだから当然かもしれないが。
それを俺は何とかかわしていく。
『お久しぶりですわね……って、何!? 何が起こってますの!? あなたも妙な格好ですし!』
「いいところに来た! 手伝ってくれ!」
『来て早々頓珍漢ですわね!?』
最初に召喚したカナスタが姿を現す。
彼女の言う事もよくわかる。
かなり情報の密度が多い画だろう。
そこを何とか落ち着かせ、協力を求む、
内容は決して戦闘では無い。
「周りの人間を誘導してくれ!」
『戦いを手伝わなくて大丈夫ですの?』
「今は周囲の安全が先決だ! それが終わったら応援を頼みたい!」
『わ、わかりましたわっ!』
ギガ・キマイラの周囲で狼狽する人々を、この巨体から遠ざけるのが彼女の役割だ。
その間、俺は囮になり続ける。
役割を知った彼女はすぐさま動き出した。
誘導され、一時の安全を得た人々。
そんな人々は安堵と共にある事に気づく。
そう、あくまで目的はマキナ達の応援。
一人でも多くに光の柱へ向かってもらう。
マキナとリッカによって放たれている情報を、一人でも多くの人間に受信してもらわなければ。
足止めも術を受け取りやすくする為だ。
後から召喚したウィル達にも伝える。
カナスタ1体ではキツイだろう。
『ああ! ここは任せたよ!』
『すぐ戻って来やすから、耐えて下せぇ!』
人混みに消えるウィルとスライム。
これでひとまず安心だ。
ここからは俺の目的も少し変わる。
倒す為の戦闘へと切り替えていこう。
既に周囲の人々は退避が始まっている。
流れ弾が味方に当たる事も無い。
そうと決まれば、俺は先制する。
龍皇の睨みによる発火能力だ。
だが同時に奴も動いた。
——ゴ、ゴォォォ!!!——
咆哮を上げながらの踏みつけ。
巨躯の割に素早い身のこなしだ。
こちらの発火能力もかわされてしまう。
俺も後方へ大きく飛び、大木のような足から繰り出される攻撃を回避した。
攻撃が外れよろけるギガ・キマイラ。
体勢を崩し、腹部がガラ空きだ。
すかさずそこへ火球を見舞う。
『火球はもう少し収束しろ!』
「わかった!」
龍皇による戦闘へのアドバイス。
どうやら彼にも火がついたようだ。
相手がS級だからだろうか。
指示通り火球を収束して放つ。
こうして放たれた小さな火球は、命中した際の爆発力が格段に上昇していた。
流石は龍皇、歴戦の暗黒龍だ。
『立ち上がる……右に避けろ!』
「——ッ!!」
数発火球を見舞ったところで相手が動く。
巨大な影が、頭上に現れた。
龍皇の指示通り俺は右へと飛ぶ。
瞬間、さっき俺のいた場所は破壊される。
尻尾がただ一度振り下ろされたのだ。
しかし尚も追撃は止まらない。
巨大な尻尾が俺を追いかけ回す。
周囲に立ち込める土煙。
だが奴は俺の位置がわかるようだ。
ギガ・キマイラの目は飾りでは無い。
全身にある全ての瞳に視力がある。
逃げも隠れもできやしない。
逃げも隠れもするつもりは無いが。
『これではギガ・キマイラの思惑通りだ』
「いや、そうでも無い」
『何か策があると言うのか?』
その言葉に俺は小さく頷く。
発動済みの召喚陣を掌へ浮かべながら。
「『翡翠の翼よ、その身を翻せ』」
攻撃を避けながら発動した召喚術。
予め何も指定していない召喚陣を作っておく事で、生まれる時間差をある程度修正する。
この策は……吉と出た。
未だ僅かな差はあるが、短縮されている。
召喚陣から溢れ出す大量のガルーダ。
風景は途端に緑の翼で埋め尽くされた。
その中の1体へ俺はしがみ付く。
いつも背中を借りているガルーダだ。
顔つきと翼の触り心地で違いはわかる。
『まさか人海戦術か?』
「近いけど少し違う。まあ見ててくれ』
無数のガルーダと共に飛翔する俺達。
本気のギガ・キマイラ攻略はここからだ。