サキュバスの秘策!
光の柱は1本では無かった。
残り3本、距離は非常に離れている。
まるで俺達の拠点である要塞を、四角形に包囲しているような配置だ。
モンスターの数が減らないのも頷ける。
無限に沸き続けるモンスターの軍勢。
しかも、世界を変えてしまう力まである。
早急に解除しなければ世界が危ない。
だが俺達も状況に窮していた。
周囲のモンスターを迎え撃つ俺とサレイ。
作戦を整える暇すら無い猛攻だ。
そこへ疲労したラナも参戦しようとする。
「無理はするな!」
「大丈夫です! 私は頑丈……ぐ、っ!」
攻撃を受け体勢を崩すラナ。
普段ならこんな事はあり得ない。
傷は無いが、当然の状態と言える。
俺が目覚める前もラナは戦っていたのだ。
彼女にも休息を与えなければ。
その為にも今いる場所から離れるべきだ。
こんな場所で、休めるわけがない。
「ここは任せたぞサレイ」
「わかった!」
ラナを抱えて俺は飛び立つ。
サレイならば絶対負ける事は無いだろう。
彼を信頼し、俺は空を駆ける。
空中のモンスターも減っていない。
俺の進路を遮るように次々と襲ってくる。
加えて俺はラナを胸に抱えた状態だ。
回避はできるが、応戦は難しい。
肉弾戦はできず飛び道具頼りの戦いだ。
一人ではきつい……ならば。
「金銀姉妹! 空路を開けられるか!?」
『無茶を言いますね……ゴルド姉!』
『応ッ! 行けウシオニ!!』
近くにいた金銀姉妹へ応援を頼む。
まだウシオニの全容を見てはいない。
それでも制圧力の高さは簡単に伺えた。
蜘蛛の足に似たウシオニの腕に、俺の前を塞ぐモンスター達は一吹き飛ばされていく。
リヴァイアサンにも劣らぬ応戦能力。
だが、応援もこれが限界らしい。
姉妹のいる場所は激戦区と化していた。
力を貸してくれただけありがたい。
しかし要塞までの空路は開かれていない。
確保した制空もすぐ奪い返されていく。
休める場所を探すなら、今しかない。
『アリク! こっち!!』
何処かから声が聞こえる。
当たり前だが金銀姉妹のモノではない。
声のする方向は、まっすぐ眼前だ。
声の主は喧騒に紛れ判別できない。
それでも確かに俺を呼ぶ声が聞こえた。
翼を力一杯に羽ばたかせ、風を掴む。
最高速度で声のする場所へ飛ぶ。
少しずつ閉ざされる空路。
それよりも早く空を切り裂いていく。
止まる手段は考えていない。
『アリク! こっち……って早くない!?』
まとな着陸などできない。
ほぼ衝突や墜落と何も変わらない。
少し湿った体表を全身に感じながら、俺はリヴァイアサンの背中を滑っていった。
『だ、大丈夫?』
変身したアビスは喋る事ができない。
俺達を呼ぶ声の主はリッカだった。
そういえば開戦直後からここにいたな。
「俺は大丈夫だ。ラナは?」
「私も何もありません」
『ま、まあそれなら良いんだけどさ』
幸いにも身体には傷一つついていない。
ラナも同様だが、悪い事をしてしまった。
疲れた体に今の衝撃は応えるだろう。
これも含めて回復できれば良いのだが。
幸いここは要塞並みの安全地帯だ。
多少騒がしいが、攻撃が届く事は無い。
俺は一息つき、ラナに休むよう告げた。
どうやらそれが気になったのだろう。
何があったのか、リッカが俺に尋ねる。
「それがだな」
『なになに……?』
簡潔に俺は経緯を話した。
光の柱の存在とその正体を。
聴き終えると、彼女は小さく手を上げた。
『それって、私じゃ力になれない?』
「お前が…………?」
『アリクは見てたんでしょ? ラナちゃんがその制圧魔術っていうのを解除するところを』
確かに俺はラナの作業を真横で見ていた。
一挙手一投足、全てを俺は観測した。
リッカの発言から真意は読み取れない。
だが、口で言わなくてもよくわかる。
彼女の顔は自信たっぷりな表情だ。
そんな顔をされたら、疑うなどできない。
「任せられるか?」
『当然っしょ!』
満面の笑みを浮かべるリッカ。
昔に比べると、本当に変わったな。
まさか自分から力を貸してくれるとは。
そのまま自然な流れで俺達は握手する。
先に差し伸べてきたのはリッカだ。
『——オッケー、大体わかった』
「何がだ? 何かしたのか?」
『アンタの記憶に少しだけ潜行したの』
「今の一瞬でか!?」
『どうよ、結構強くなったでしょ?』
たった一瞬握手をしただけ。
それだけで俺の記憶を覗いたらしい。
……本当に成長したな。お前が自分の強さを誇れるようになれて、俺は少し嬉しい。
って過去に耽っている場合では無い。
早く光の柱を停止させなければ。
リッカの思惑はまだわからない。
何故俺の記憶を覗いたのか。
ラナの作業を見た事が何になるのか。
今は想像がつかない。
が、今は全て彼女に任せよう。
『アビス! ラナの事は頼んだよ!』
『————!!』
『よし! アリク、行くよ!!』
「任せろッ!」





