ホブゴブリンのアツすぎる水着評価
青い空。
波立つ砂浜。
どこまでも広がる美しい海。
長距離移動を終え、五人は島へ上陸した。
正直、少し疲れている。
熟睡するラナのバランスも取っていた。
船で疲れを癒すつもりが取れなかったし。
俺は水着に着替えて砂浜に横になる。
既に船は行ってしまった。
もう3日は帰れない。
「ラナさん、後ろの紐結んでもらえます?」
「わかりました……はい!」
『目隠しで着替えるって難しいわね』
『ただでさえ布が小さいのに……!』
岩陰から四人のかしましい声が聞こえる。
お尻が小さい、おへそ綺麗、胸が大きい。
など。色々な声が聞こえてくる。
……。
…………。
………………。
「『出でよ、強く賢き地霊よ』」
『突然呼ばれましたなー』
俺の中にある"青少年の健全な育成的な何か"が爆音で警告を促している。俺一人では耐えきれない。
そう感じた俺はホブゴブリンを召喚する。
ホブゴブリンは個体差があまりない。
なので、外見だけでは通常なら男女の見分けすらつけることが難しい。
俺が今回召喚したホブゴブリンは1匹。
性別で言えば、男だ。
「突然呼び出してすまない」
『常夏ですなー』
「無人島に来てるからな」
終わったのか、少女達が岩陰から姿を出す。
個性豊かな水着の数々。
あまりジロジロ見たくはないが、どうしても視線が吸い寄せられてしまう。
「目隠し、外しますね」
『まぶしっ……は、なにこれ!?』
「これが海ですよーっ!」
『こ、この水、全部しょっぱいのです?』
初めての海に初々しい反応をする姉妹。
姉妹の様子を楽しみながら、改めて景色の美しさに見とれる二人。
良い光景だ。
ここから仲良くなってもらいたい。
ラナには友達が少ないからな。
『これは、眼福ですなー』
「……え?」
『あ、ホブゴブリンだけが恋愛対象です』
謎の悪寒が走る。
なんだ、今の感覚は。
——いや、気のせいだろう。
尻の位置を直し、改めて四人を眺める。
「あはっ! 冷たくて気持ちぃ〜!」
最初に海へ入ったのはラナだった。
やはり子供っぽく、天真爛漫な雰囲気だ。
だが何故か、今日のラナは少しだけ大人びて見える。一体何故だ?
『いわゆるロリ巨乳属性ですなー』
……え?
『黒のビキニが普段の幼さをかき消し、それでいてあのフリルに可愛らしさも感じ取れますなー。まさにベストマッチな水着ですなー』
ホブゴブリンが、水着を評した。
しかもめちゃくちゃ早口で。
正直、脳みそが追いつかない。
なんだったんだ今のは? というか今のは本当にこのホブゴブリンか? 人畜無害な?
『すごい……どこまでも水がある……!』
ゴルドラがたそがれている。
あまりの美しさに、虜にされたようだ。
『良いスポーツタイプですなー。成熟した魅力を引き出しながらも、普段感じられないミステリアスな雰囲気を青空のコントラストと共に味わえますなー』
……言われてみると、確かに絵になる。
呆然と立ち尽くす凛としたゴルドラと、青空のコントラスト。
非常に美しい。
美しいのだが、どうしても頭に入ってこない。
「ボールあるのでビーチバレーしません?」
ボーイッシュなマキナが、中々攻めた水着を着ている。
少年的な美しい容姿と、挑発的な水着。
完成された水着チョイスといえよう。
『魅力を熟知しておりますなー。他の皆さんより少し布面積が少ない水着ながら、腰のパレオが足の長さを強調する、ボーイッシュながら攻めてますなー』
な、なるほど。
パレオには足の長さを強調する効果があるのか。
何で詳しいんだこいつ。
『……ゴルド姉、本当にしょっぱいです!』
ナチュラルな天然ムーブで海水をなめる。
ゴルドラと同じで凛とした容姿。
なのに、動くとどこか子供っぽく見える。
アンバランスさに魅力が生まれるタイプだ。
『引き締まった肉体を素晴らしく映えさせる水着ですなー。しかしながら腹部を強調するような水着デザイン、最高ですなー』
もう、何もいうまい。
ボディラインへの拘りが強いのはわかった。
全て聴き終え、やっとホッとする。
と思っていた俺が甘かった。
ホブゴブリンはゆっくりと、まるで時が引き延ばされているかのようにゆっくりとこちらを向く。
怖い。
そして微笑むように、彼は口を開いた。
『あなたはどう思われます? アリクさm』
咄嗟に召喚解除してしまう。
ホブゴブリンに初めて恐怖を抱いた。
初めて知った友人の裏の顔的な。
しかもそれが水着についての話題だけなのだ、水着だけでアレなのだ。もはや恐れずにはいられない。
「アリク様ー! ビーチバレーしましょ!」
「あ、ああ。今行く」
ホブゴブリンって、もっとマスコット的じゃなかったか?