モンスターの海を割れ!(後編)
俺、ラナ、そしてサレイ。
珍しい3人でモンスターの海を割る。
目指すは遥か彼方に光る柱だ。
「道は切り開いた! 先輩達、早く!!」
少しずつだが、着実に進んでいく。
俺達と当然のように肩を並べるサレイ。
暗黒龍の戦闘力と同格と言って違いない。
俺から言えるような事は何も無い。
相変わらず、の言葉しか浮かばない。
それでも稼げる距離は微々たるものだ。
倒せども増えていくモンスター達。
一気に行くにはまだ戦力が足りない。
ラナを元の姿にするのは奥の手だ。
援軍も呼べる気配では無い。
ならばモンスターを召喚するしかない。
だが、いったい誰を召喚する?
『その必要は無いぜアリク様!』
『私達がお相手致しましょう!』
その時、頭上から声が降り注いだ。
見上げるまでもなく声の主は落ちてくる。
流星——いや隕石のような落下。
そのまま彼女達は俺達の前に着地した。
周囲のモンスター達を吹き飛ばしながら。
そういえば彼女達を見なかった。
てっきり戦場に出ていたと思っていたが。
確かに彼女達を維持できるようなの魔力消費は、シズマとの戦闘中から感じ取れていなかった。
中心街の防衛中に召喚解除されたか。
ならば何故彼女達はこの場にいる?
そんな疑問は金銀姉妹に通用しない。
彼女達は、滅茶苦茶な存在なのだ。
『サキュバスのお嬢ちゃんにできて私にコレができないと思ってたかよ?』
ゴルドラが俺に手のひらを見せつける。
そこに輝く、魔力を孕んだ小さな魔法陣。
一目でわかる。鬼族用の召喚陣だ。
最早答えを言っているようなものである。
『そう、私とゴルド姉は!!』
『私達自身を召喚したのさ!!』
何となくわかっていた。
シーシャが召喚した可能性も考えたが。
金銀姉妹がそんなありきたりな考えをするとは、これまでの付き合いから考えても到底思えない。
それにしても、いつ召喚術を習得した。
素振りは全く見せていなかったが。
「個性が取られた!?」
遠くからリッカの声も聞こえてくる。
……お前の習得とはまた別物だろう。
姉妹は決して急に強化された訳では無い。
『さぁて、アリク様?』
『どうかご命令を』
俺の気も知らず、姉妹は指示を促す。
疑問が解消される事は恐らく無い。
リッカの覚醒は関係ありそうだが。
まあ、それは今度聞けばいい。
そんな姉妹に俺は号令をかける。
「道を切り開くぞ!!」
『了解!!』
『承りました!』
俺達の目標はただ一つだ。
なら、そこまでの道を作るのみ。
金銀姉妹の加勢は非常に効果的だった。
互いを守り、攻める手も止める事は無い。
そして昔より明らかに強くなっている。
シルバゴの剛力はより強靭に。
ゴルドラの超能力はより正確になった。
にも関わらず戦闘センスは変わらない。
際限なく出現し続けるモンスター達に、少々短気な姉妹は揃って奇策を思いついたようだ。
『ラナちゃん! 私に火球を撃て!』
「な、何故ですか!?」
『いいから!!』
「本当にいいんですね!?わかりました!」
戸惑いながら火球を放つラナ。
当然の反応である。
そのとんでもない提案は、妹からも出た。
『アリク様、私にも!』
俺もシルバゴの言う通りにする。
姉妹へ迫る二つの火球。
並のモンスターなら一撃で屠る威力だ。
それをゴルドラは、超能力で巻き起こした風と共に混ぜ合わせ巨大な炎の渦を編み上げる。
渦すらも念動力で自由に操れる。
しかも渦の威力は広範囲だ。
筆で書くように渦を動かすゴルドラ。
たちまちモンスター達は巻き込まていく。
シルバゴはもっと無茶苦茶だ。
俺の放った火球を直接身に纏い、そのまま力任せにモンスターをなぎ倒していくのだ。
普通なら今頃は召喚解除されている。
力任せにも限度があるだろう。
炎の渦と、炎の鎧。
姉妹の特徴がよく見える戦術だ。
『頭を使えばこんなもんよ』
『戦いは力ですよゴルド姉』
姉妹の活躍でたちまち道は開けた。
だがそれでも解放の時間は短い。
少しずつモンスターが穴を埋めていく。
やはりこれではキリがない。
と思っているのは俺達だけのようだ。
金銀姉妹の様子は明らかに違う。
『ふう……これで』
『作戦を実行できますね』
息を合わせた2人の台詞。
目的は道を開くだけでは終わらなかった。
恐らくゴルドラの立案だろう。
賢そうに見えてシルバゴはポンコツだ。
開けた道を進みながら俺は気づく。
モンスターの視点が俺達に向いていない。
そのほとんどが金銀姉妹を見ていた。
彼女達は何の意味もなく、派手な攻撃を使用しているだけでは無かったのだ。
簡単に言えば囮ではある。
『シルバゴ、行くぜ!』
『準備は万端です! ゴルド姉!』
当然、普通の囮では無い。
姉妹揃ってモンスターを倒す気満々だ。
現状、物量での勝利はほぼ不可能に近い。
だが彼女達ならば恐らくできる。
姉妹のやろうとしている事を理解した。
『『——鬼門解放——!!』』
姉妹が叫ぶと、上空に召喚陣が描かれる。
彼女達が守護している存在の正体。
鬼族が代々守護してきた謎のモンスター。
伝説にすら名を残さない、幻の鬼。
S級鬼族——ウシオニ。
守護者である姉妹には、世界で唯一そんな伝説を使役できる能力が備わっていた。
最高の職権濫用である。
上空から八つ足の獣が姿を覗かせる。
8000年前にも姿の無かった最強の鬼だ。
その姿を一目でも拝みたい。
しかし、俺達にはやるべき事がある。
『アリク様! 今です!!』
シルバゴが見計らったように叫ぶ。
周囲のモンスターは俺達を見もしない。
全てウシオニに持っていかれていた。
今がチャンスだ。
光の柱まで、その距離は残り僅か。
無反応なモンスター達の波を逆行し、その僅かな隙間をくぐるようにして目的地へ突き進む。
「サレイ、ラナ! このまま飛び込むぞ!」
「はい!!」
光の柱を視認するのも束の間。
俺達はその光の中に飛び込んだ。





