モンスターの海を割れ!(前編)
鋭利な爪を利用した強烈な斬撃。
強靭な脚のバネから繰り出されるキック。
背中の黒翼が生む圧倒的威力の暴風。
睨みつけた場所を爆破させる火炎能力。
「アリク様! 合わせてください!」
「何をすればいい?」
「火炎放射です! 使い方は!?」
「任せろ!」
ラナの提案に乗り口内に魔力を回す。
本来なら口が大火傷するだろう。
だが、やはり暗黒龍の強度は侮れない。
同時に俺達の口から吐き出される炎。
横向きの火柱は混ざり、炎の塊と化す。
火力任せの大技でモンスターを薙ぎ払う。
暗黒龍2体分の超攻撃力だ。
耐久が高かろうとひとたまりもない。
「しかし多いな……!」
「やはり私は元の姿に戻ったほうが!」
舌打ち混じりに俺が吐いた言葉。
モンスターの軍勢は減る気配がしない。
ラナの言う通り本来の姿で戦ってもらうのも吉だが、恐らくそれだとラナの負担が過剰になる。
アビスは規格外の巨躯だから無双できる。
それをラナにやれというのは困難だ。
今は、龍人態で戦うほうがいい。
攻撃威力の補助が今の俺の仕事だ。
少しずつでも、削っていくしかない。
だが結局それでは解決しない。
倒しながらも頭をひねる。
これではブライの捜索すらできない。
それはサレイ達も同じだったようだ。
俺達の助太刀に入りつつ、訪ねてきた。
「先輩! 何かアテは!?」
アテ、そう言われても俺にはわからない。
ただ何か脳裏に引っかかるものはある。
確信は無いが、体感が教えてくれた。
「シーシャ、何か見えないか?」
「いま確認しているわ!」
通信ゴーレムでシーシャに呼びかける。
この違和感を、確かなものにするためだ。
その間もモンスターの海を突き進む。
少しずつだが前へは進んでいる。
どこが前なのかと言うのはわからないが。
総力戦で迫るモンスターを押し返していく。
サレイの援軍で幾分か楽になった。
しかしお前が抜けた場所はどうなんだ?
そう思いつつ、彼に少し視線を送る。
すると彼も気づいたようで、先程まで彼が参戦していた場所を親指で指差した。
親指の指す先を見た瞬間、俺は納得した。
そこにいたのは二刀流のリーヴァだ。
忘れてた、全壊剣は全て彼女が持っていた。
鬼神のようにモンスターを蹂躙している。
あれは一緒にいれば巻き込まれる奴だ。
賢い選択だ、サレイ。
視線を戻しモンスターに集中する。
やはり何かがおかしい。
戦力差を認識しても逃げ出さないのだ。
倒され意識を失うまで戦い続ける。
野生のモンスターでは珍しい。
しかしそれは凶暴化で説明がつく。
判断力が鈍っているのだ。
つまり違和感はそこには無い。
俺は今、疑問に近い場所を見ている。
倒れるまで戦い続けるモンスター。
地面に倒れゆく彼等の肉体。
……そうか、そういう事か!
「妙だ、ブライは野生のモンスターを操っているんじゃないのか?」
「何言ってんだ先輩?」
「倒された後のモンスターを見てみろ」
言葉に従い、ブライはモンスターを見る。
地面には意識を失ったモンスター達がいる。
可哀想だが今はそういう話では無い。
そこにまたモンスターが一体倒れ込む。
野生でよく見かけるオオカミ。
まだオオカミは意識を失っていない。
そんな彼が勢いよく立とうとした時だった。
威勢に反し、その姿は霧のように消えた。
俺はこの光景に明らかな既視感があった。
それは恐らく、サレイも一緒だ。
「まさかコイツら、召喚されてるのか?」
やはりお前にもそう見えたか。
強い負荷を負ったモンスターが消滅する。
これは明らかに召喚術の解除と同じだ。
痛々しく地面に倒れるモンスター。
彼らが俺に教えてくれた。
その総数が、明らかに少ないのだ。
倒した数と倒れている数が一致しない。
それが俺の引っかかりの正体だった。
気づくと同時に、通信ゴーレムが鳴る。
「見つけたわよアリク!」
「何かあったか!?」
「ええ、光の柱と言えばいいかしら!」
相手はシーシャだ。
どうやら本当に何か見つけたらしい。
光の柱……いかにも怪しい物体だ。
だがここからでは何も見えない。
上空も地上もモンスターだらけだ。
遠くの視界を確保するのは難しかった。
一度上空を偵察するか?
いや、それはあまりに危険すぎる。
「ひょっとして、アレか!」
流石サレイ。この視界で見つけたのか。
だがアレと言われても、俺は何も見えない。
それでも彼は指をさしている。
俺も確認する為に少しずつ目を凝らす。
————見えた。
モンスター達の遥か後方に、光の柱がある。
暗黒龍の五感を借りて確認した。
だがもしこの光の柱が関係していたら。
少し厄介な事になってしまう。
この光の柱、全部で4本あるのだ。
しかも俺達を四角形に囲むかのように。
「当たり前だが一筋縄じゃいかないな」
「そんなの承知の上だ」
ブライによる召喚術の使用。
そしてシーシャが発見した4光の柱。
何かが関連しているに違いない。
だが、それを確認するにはモンスターの大群を一度あの柱の場所まで突き抜けなければいけない。
サレイの言う通り、一筋縄ではいかない。
それでも今は確かめに行くしかない。
「そういう事だがラナ……ラナ!?」
ラナにも確認を取ろうと横を見る。
しかし彼女は既に消えていた。
俺達のしていた話に察しがついたのだろう。
彼女はもう、柱に向かって進撃していた。
モンスターを蹴散らしながら。
「俺たちもいくか、先輩」
「…………そうだな」
少し呆れながら俺達もラナに続く。
サレイも俺もつくづく強い相棒を得た。
コイツの場合は、恋人になるのだが。
俺は翼を広げ、サレイは剣を召喚する。
久々に暴れようじゃないか、後輩。





