8000年前の決着
熾烈。
彼等の戦闘にはその言葉が相応しい。
その言葉以外には思いつかない。
最早互いに防御などしていない。
互いの血肉を超近距離で削り合う。
死ぬたびに再生する魔王の肉体。
強靭な耐性を誇る勇者の体。
彼等だからこそできる肉薄の戦闘。
俺の隣でリーヴァが戦闘に見入る。
彼女を挟むように龍妃もいる。
この時、俺は既に疑問を抱いていた。
はるか過去の戦いとは言え、何故自分自身の戦闘をこんなにも焦がれるように見つめているのかと。
『——喰らえッ』
魔王が仕掛ける。
6本3対の腕の先に魔力が流動する。
顔面ほどの大きさを誇る火球。
彼の手、全てにそれが生み出された。
しかも龍皇が放ったようなものではない。
魔力の塊がそのまま赤熱している。
シズマの剣を球体状にしたような形。
「ぐっ……!!」
『はあああぁぁぁぁッッッ!!!』
ただ球体なだけではない。
毛糸玉のように赤熱した魔力。
超高速で入り乱れ、球形をとっていた。
それがレーヴァテインの肉体に触れるたび、抉り取られるように肉体に溝のような傷が生じる。
魔王も最早手段を選んでいない。
「う、ぐあぁぁぁっ!!!」
強靭な肉体をま抉っていく苦痛。
彼女はそれを耐え、刃を振り上げた。
度重なる死により魔王も疲弊している。
そこに迫る新たな一撃。
彼の思考は、判断が鈍っていた。
彼女の取った策に気づかぬ程度には。
『!、!?』
「ぐ、りゃああああああ!!!」
これまでは致命傷を狙っていた攻撃。
首や心臓等、生命の弱点を狙っていた。
その度に魔力は弱体化していったからだ。
だがそれでは現状を打破できない。
いくら殺せど回復されてしまうからだ。
彼女は考えた。ここまで弱体化していればと。
殺すたびに攻撃は通りやすくなっている。
ならば今が好機だと苦痛の先に辿り着いた。
剣は急所を外し、脇腹の横を通る。
そのまま上へ——下部の両腕を切断した。
魔力が途絶えた腕が転がる。
瞬間、魔王は彼女の企みに気づいた。
しかし時既に遅し。
「まだあぁぁぉぁぁっ!!!」
腕を回し、今度は上から斬りつける。
魔王の集中は完全に下へ向かっていた。
油断をついた奇襲。肉体を抉られるまで傷ついてもなお、レーヴァテインの判断力は健在だった。
対して魔王の意識は遠のいている。
無数に与えられた死の痛み。
通常の生物ならば一度だけ味わう最悪の疼痛。
それをもう何度となく食らっている。
肉体と精神。両者極限へ至る。
ここへ来て2人は再び並び立った。
「……………………」
『……………………』
刹那の沈黙。
焼ける程にひりつく大気。
衝撃を与えずとも、爆発した。
両者同時の"撃"によって。
『「 ! 」』
——速い。
————重い。
——————強い。
「————!——!!」
『!!!!!!!!!!』
一撃が目視できない。
互いに向き合って立ち尽くす。
それだけで両者の肉体が傷ついていく。
血飛沫が身体を部屋を染めていく。
何もかも、全ての次元が違っていた。
俺の戦いがままごとに思えてくる。
俺の遥か遠くを行く極致。
決意と意地の衝突が生み出した頂。
腹を打ちつけられるような闘気。
誇らしくも哀しき生命の奪い合い。
これが、背負った者の持つべき強さ。
柱が崩れ、天井が落ちる。
崩壊を避けつつ戦闘を刮目する。
決着はすぐそこに迫っていた。
「っ…………」
レーヴァテインが僅かによろめく。
瞳に宿った光が滲む。
所詮は強化された人造人間。
多数のモンスターと融合した魔王に劣る。
しかも彼は、人智を超える存在へ覚醒した。
目にもつかないような僅かな差。
その差は最期の瞬間に大きな溝を作った。
膝からよろめき、意識が消える。
魔力の流動すら消えていく。
既に彼女の死は決定していた。
「っ……はぁ…………!!!」
にも関わらずだ。
レーヴァテインは声を強く張る。
魂に残された存在の全て。
それを燃やし尽くすかのように。
「は、んぐっ……ぁぁああああ!!!!」
『勇者! 君はもう死んだ!』
「死ねない!! まだ、まだ!!!」
決別の言葉に似た絶叫。
モンスターとヒトを分かつような叫びだ。
分断するまで、死ねないと。
魔王は唯一、魔獣であり人間。
故に彼は人として唯一の覚醒を果たした。
造られた存在であれ、勇者も人間。
覚醒を果たしても良いはず。
彼女はそれを跳ね除けたのだ。
覚醒という力ごと、魔獣であるという事実を。
これを持って人間は孤立した。
魔獣とは違う、人間という種が。
「があぁぁぁっ!!!!」
『グ、バはッ!!!!』
全壊剣が魔王の胸をバツ印に切り開く。
そこにあったのは異様な物体。
青く透明な結晶に覆われた心臓。
結晶には膨大な魔力が宿っている。
「あれが魔王様の不死の正体。死を経験する度に心臓へと魔力を集約させ、無限に蘇生させ続けるのです」
「だが、あんな物は今まで——!」
返す途中で、龍妃の真意を理解する。
そのままの意味。あれが不死の"正体"だ。
蘇生の効率化の為に魔力は心臓へ集まった。
何度殺害されようとすぐさま蘇生した。
それは、心臓を中心に全身へ張り巡らされた蘇生魔術が常に発動されているからだ。
呪術ではない、本物の蘇生魔術。
その発動条件は全て満たされている。
不死の秘密が解き明かされる。
そして、その攻略法も。
「とどめ——————ッ」
交差した全壊剣で心臓を狙う。
魔力と共に蘇生魔術が心臓へ集約する。
魔術自体が自らを変異させたのだ。
これを破壊すれば、蘇生はできない。
魔王も彼女にトドメの一撃を見舞う。
鋭く変質した右腕が勇者を貫く。
しかし、もう遅かった。
全壊剣の剣先は、心臓へ到達した。
同時に結晶は弾けるように砕けていく。
魔王はもう、復活できない。
決着。両者相討ちである。
「お姉様……っ」
俺の隣で、リーヴァが小さく呟いた。
次回は10/26(金)投稿予定!
お楽しみに!!





