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龍妃の未来視

 

 俺達の戦いは制止された。

 同時に魔王と勇者の戦いもピタリと止まる。

 突如現れた"いるはずのない"者。

 その出現で、リーヴァが停止させたのだ。


「アンタ、死んだはずじゃ!」

「それは私の台詞ですよ」


 柔らかな笑顔で龍妃は妙な事を言った。

 それに対するリーヴァは硬い表情。

 状況への余裕の差が見て取れる。


 生前、未来を見ていたような彼女の言葉。

 アレは比喩的な物ではなかったようだ。


 彼女は本当に未来視できるらしい。

 何せ彼女は俺という存在を知っていた。

 未来に生きる、娘と仲の良い俺を。

 僅か先の未来を予知する魔術はあるらしい、が8000年も先を見る魔術なんて聞いたことがない。


「アリクさんで宜しかったですか?」

「あ——はい」

「畏まらなくたっていいですよ」


 娘と同じように接して欲しい。

 彼女はそう続けたが、それはできない。

 本能的なものが警鐘を鳴らしている。

 彼女は"普通"ではないと。

 こうして顔を合わせればすぐ理解できる。


 龍皇の妻であるのに暗黒龍の気配が無い。

 だからと言って種族を判断できない。

 これはアビス以来の状況である。

 ならば、彼女は一体何者だ?


「そのように他者を詮索するのは失礼ですよ、お気をつけくださいね」


 心を読まれた上に怒られてしまった。

 思考がさっぱり追いつかない。


 ……いや、やめよう。

 考えようとしている時点で無駄だ。

 彼女は恐らく、こういう存在なのだ。

 なら大人しく聞いたほうがいい。


 それにきっと、本人もそのつもりだ。

 違ったらこうして現れる事も無いはずだ。

 自らの死からリッカ頼りの記憶潜行。

 その中で行われる俺とリーヴァの戦闘。

 全て知らなければこんな芸当はできない。


「厳密に言えば、私は暗黒龍ではありません」

「なのに龍皇と……子供を作れたのか?」

「近縁種です。私が最後の個体ですが」


 まずは自らの馴れ初めと正体から語る。

 彼女は白亜龍と呼ばれる存在らしい。

 らしいと言うのも、8000年後の世界においてその"白亜龍"という名称は残っていないからだ。

 無論、俺もその存在を知らない。

 詳しいはずだが初めて聞く名前だ。


 過去の時点で絶滅寸前。

 その名が残っていないのも当然だ。

 しかし遺伝だけは残そうとした。

 そこに名乗りを上げたのが龍皇らしい。


 彼女と龍皇の仲の良さは知っている。

 しかし最初は子を残す為の結婚。

 政略結婚に近いものを想像してしまう。


 にも関わらず龍皇は彼女を溺愛した。

 結果は俺も知っての通りだ。


「ひょっとして、妙にラナの感が強いのも」

「僅かですが遺伝できているようですね」

「龍種なのに不思議な能力だな」

「それが白亜龍の力ですから」


 龍妃そっくりの愛の結晶。

 なるほどだから強いわけだ。

 優しくも勇ましい性格も彼女譲りだろう。

 もしくはやはり、龍皇の教育の賜物か。


「無視しないでくれないかなーっ!」

「あら……ごめんなさい」


 さて、素性に関する長話はここまでだ。

 白亜龍の能力や絶滅の理由も気にはなる。

 しかし現在必要なのはそこじゃ無い。

 彼女がわざわざこの場に現れた理由だ。


 俺に下されたかけた攻撃を彼女は止めた。

 食らっていれば、俺は死亡していた。

 俺を助けた理由もあるはずだ。


「リーヴァ、あなたの懸念は外れです」

「何故そんなことを言えるの?」

「私が"()"ましたから」


 彼女が見せた未来予知。

 それは先の現象とこの状況で理解できる。

 だがリーヴァは納得していないようだ。


「何で未来が見えるのにアンタは死んだの?」


 無理矢理に余裕を作ったリーヴァの質問。

 確かにそれは説明がつかない。

 これだけの未来予知ができるなら、自らの死も予想できていて当然のはず。

 ならば回避だってできる。


 しかし彼女は死を選んだ。

 龍皇は暴走し、アスカロンも死ぬ。

 魔王もここで命を落とすはずだ。


 対する龍妃の回答。

 その表情は、一切崩れていない。


「戦争を終わらせる為です」

「どういう事?」

「私の死により引き起こされたこの戦いがなければ、戦争は全ての生命を枯らしてしまう」


 そう言って龍妃は頭を下げる。

 彼女はただ未来を見るだけでは無かった。

 無数の可能性、その先の未来を見る。

 彼女はその中から最善を選んだわけだ。


 しかし最善ですらアスカロンは死ぬ。

 少数と自らの死か、生命の絶滅か。

 彼女は前者を選んだ。

 龍皇を助けて死亡したのはその為。

 ある意味、全てが彼女の掌の上だった。


「…………ごめん」


 理由を知ったリーヴァも頭を下げた。

 龍妃はそれを素直に受け取る。

 お互い様だったと互いを認め合う。

 死してなお、龍妃にはその余裕があった。


「私の見た未来は3つです」


 続けるように彼女は語る。

 それは8000年後の未来の予知。

 俺達の戦いの結末であった。


 1つは俺が記憶潜行の中で死亡する未来。

 もしくは俺がブライに敗北した未来。

 どちらの未来でもブライの野望は達成する。

 その未来は明るいものでは無いようだ。


 1つは俺とブライが相打ちした未来。

 混乱は完全に取り除かれるらしい。

 最低でもここだ。俺の命を賭けてでも。


 最初の予言の片方は彼女が食い止めた。

 そして彼女は、3つ目の予知を語る。


「私達の娘によって、モンスターとヒトが和解した未来。そこにアリクはいました」


 それは、俺が生存した未来。

 彼女がいくつか()た未来でも最高の世界。

 そこには俺の姿もあるらしい。

 若い姿や年老いた姿、死後もあった。

 しかし俺が勝利すればその未来は訪れる。


 龍妃の目的はその未来を迎える事。

 俺も彼女の掌の上らしい。

 だが、別に悪い気にはならない。


「だってさ、命拾いしたね」

「殺そうとしたのはお前だがな」


 少し皮肉交じりにリーヴァが言う。

 しかし、その表情は柔らかい。

 自分達が作れなかった真の平和。

 それを少しだけ羨んでいるようだ。


「今はこの戦いを見届けなさい」


 龍妃に促され、前を見る。

 8000年の因縁を背負うと覚悟した。

 その答えが勝利の果てにある。

 ならば絶対に勝たなければ。

 魔王や勇者が求めた、真の平和の為に。


 この戦いを焼きつけなければ。

 動き出す魔王達に、俺は刮目した。


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