召喚術師さんは暗黒龍との思い出に浸るようです
「水着」
「買いました!」
「浮き輪」
「買いました!」
「バーベキュー用の色々」
「買いましたー!!」
出発前夜、準備不足がないか確認する。
マキナの協力もあってか、思い当たる限り買い忘れたものはなさそうだ。ラナだけで買い物したら、確実にいくつか忘れてくる。
ただし、水着は向こうで見せるとの事。
何でも「お楽しみは後で」らしい。
そんなに良い水着が手に入ったのか。
「お二人用の目隠しは?」
「ああ、作っておいた」
水着と同じく、金銀姉妹のお楽しみだ。
移動には召喚術と船を使う。
せっかく初めての海なのだ
一番綺麗な景色を見てもらいたい。
港もいいが、やはりビーチを見てほしい。
なので、港に着く前に目隠しをする。
姉妹にも許可を取っておいた。
「そういえば、ラナは海を見たことあるんだな。お前も山岳系だろ?」
「私たちは飛べますし」
ああ、見に行ったのか。
……騒ぎにはならなかっただろうか。
人前に現れる=災害となり得る存在だ。
だがラナは、たまに迂闊な行動をする。
畑整備の時もそうだ。
夜中に空を飛んだ時も危なかった。
俺と初めてあった時も、きっと。
それは勇者パーティに加入する前。
最強と呼ばれる少し前。
「そうだ、お前明日水着になるだろ?」
「……まだ見ちゃダメですよ?」
「そうじゃなくて傷痕だよ、傷痕」
彼女は暗黒龍として、信じられないほど人里の近くまでやって来ていた。その背中に大きな傷を負って。
本人は傷を何故負ったのかすら覚えていない。
暗黒龍は非常に強い防御力がある。
しかし、傷の治りは遅いらしい。
ラナの服を捲り上げ、背中の傷を見る。
かつてと違い、小さな少女の背中。
しかしその傷痕は残っている。
「まだ少し残ってるなぁ」
「仕方ないですよ。いつか消えます」
「水着だと結構見えるぞ?」
「大丈夫ですって〜!」
この傷を当時手当てしたのが俺だ。
そしてそれが、ラナとの出会いである。
「このキズ、私は好きです」
その彼女が、今では俺のお供。
人に変身してはしゃぐ日が来るなんて。
一緒に海を見に行く日が来るなんて。
あの時の彼女は、人に敵意すら向けていたというのに。
「今日は早めに寝よう」
「はい、お休みなさいですアリク様!」
ま、今は寝よう。
長く思い出に浸るのは、また今度だ。
明日は早い。
* * * * * * * * * *
「『幻想の大翼よ、天上を駆けよ』」
翌日の早朝。
まずは港までの足を召喚する。
金銀姉妹、ラナ、マキナ、俺。
この大人数、ガルーダには荷が重い。
だからこそ今回召喚するのはグリフォンだ。
ガルーダより更に体格の大きい飛行可能なモンスター。スピードには劣るが、港までなら十分余裕がある。
「お弟子さん、どうしたのです?」
「散々寝ろって言ったんだがなぁ……」
今の召喚を、ラナを背負ったまま行った。
夜更けまで起きていたらしい。
興奮する気持ちは分からなくもないが。
『何だかんだ、まだ子供ね』
『私達にもあった時代ですよ』
ラナを背負ったままグリフォンに跨る。
残り三人の搭乗も手伝って、準備完了だ。
「東に進んでくれ、港へ行きたい」
指示を出すと、助走を付けて走り出す。
やがてスピードに乗ったのか、翼を広げて空中へと舞い上がった。
誰も振り落とされてはいないらしい。
荒々しいように見えて、乗り心地は良い。
「ふへへ……むにゃむにゃ…………」
俺の後ろでラナが寝言を言う。
……こいつも無人島に着くまでは起きそうにないな。