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ヒトの為にある世界

 

 間一髪で避けた場所に全壊剣が刺さる。

 状況が読めない。どうなっている?

 なぜ俺は彼女に攻撃を仕掛けられた?

 物言わぬ刃は、当然返事をしない。


 ならばその持ち主はどうか。

 顔を伏せ、可能な限り表情を隠す。

 しかしそれでも様子はわかる。

 無表情な怒りとでも言うべきか。

 8000年前の彼女に似ている。


 同時に全く違う部分もある。

 レーヴァテインは自らの希薄な感情を無理やり押し出すかのようなもの。


 今のリーヴァは真逆。

 溢れ出る感情を、無理やり押し殺す。

 俺にはそんな風に見えた。


「始めようか」

「……ああ」


 揺れる炎と煙に包まれた魔王城。

 世界の命運を背負った2人がそこに立つ。

 だが俺は、その勝敗を知っている。

 彼らの未来に生きる身であるが故に。


 魔王は勇者に敗北して死ぬ。

 この確定した事象は誰にも変えられない。

 その証拠に、リーヴァが生きている。


「ーーーーはぁッ!!!」

「来いっ!!!」


 衝突と同時に2人の叫びがこだました。


「アンタは魔王に共感した。それだけでブライと同じくらい危険なんだよ」


 俺達の戦いも始まる。

 自覚すらしていなかった俺の立場。

 リーヴァの攻撃の理由だった。


 大きく異なる俺とブライの行動理由。

 しかしその原点に、魔王の思考がある。

 物語上の魔王を崇拝するブライ。

 偶然ではあるが思考が魔王と近い俺。

 その脅威は、勇者の前に等しく危険だった。


 本当はブライと俺の相討ちを狙っていた。

 その企みは外れ、共に倒れなかった。

 こうなれば自身が討伐するしかない。

 語りながらリーヴァは襲い来る。


「勇者は"ヒト"を守る者」

「モンスター達はどうなる?」

「世界は"ヒトの為"になければいけない」

「それが正しいと思っているのか!」

「……もう一回言ってみろ」


 彼女の声が低く響く。

 押し殺していた感情から、怒りが漏れた。

 だが俺の答えは変わらない。

 人間だけがいい思いのできる世界。

 そんなもの成立するはずがない。


 今までは上手くいったかもしれない。

 しかし、その門扉は解放されてしまった。

 ブライという異常事態によって。

 それでも彼女の怒りは収まらない。


「私達勇者が守ってきた平和だ!」

「くっ……!」

「異分子が口を挟むなっ!!」


 当然だ。

 非常に遺憾ではあるが、彼女にとって俺とブライは等しく異常な存在なのだから。


 魔王と勇者の戦いも終わらない。

 互いの主張の命を賭けた最終決戦。

 人間代表のレーヴァテインが剣を振るう。

 魔獣を統率する魔王が素手でいなす。


 全壊剣とて刃を触らなければただの鉄。

 魔王はそれを無意識に理解していた。

 俺達とは比べ物にならない互角な激闘が続く。


「僕は守る! 全ての魔獣を!」

「その中にヒトはいたか! お前の同族は!」


 完全に対立した二者の主張。

 最早彼らに解り合うという選択肢はない。

 この戦いの末に俺が生きる未来がある。

 モンスターと人が完全に区別された世界。

 ブライという思考を生み出した世界が。


 戦いの結末を見届けなければ。

 ブライを倒し、未来を繋がなければ。

 俺達の生きる世界に未来は無い。

 その為にも、殺される訳にはいかない。


 記憶の中で召喚術は使えない。

 攻めの手は無いに等しい。


 そんな俺を見かねたのか、リーヴァは俺に長剣型の全壊剣を投げつけた。

 地面に刺さったそれを引き抜く。

 一戦を共にしただけあり、安心感がある。


「使いなよ」


 剣を構えて見据える。

 記憶の中で召喚術は使えない。

 今の俺には肉弾戦の技能がある。

 だが、所詮は付け焼き刃だ。


 比べて彼女は歴戦の勇者。

 サレイと相棒を組む程の達人。

 優劣の差は一目瞭然だった。


「『虚影武装:盾』!」

「『虚影召喚』!」


 だからと言って戦わない理由にならない。

 俺の詠唱がレーヴァテインと重なる。


「僕以外の人間が召喚だと!?」

「ムラサメに教わった……!」

「ヒトの技術もここまで来たか!」


 大量に召喚された人間の影。

 それがレーヴァテインと連携を組む。

 意思無き影に翻弄される魔王。

 鮮やかな搦め手だ。


 俺も搦め手で攻略を図る。

 愚直な正面突破で倒せる相手では無い。

 だから一度、盾で彼女の視界を塞ぐ。


「それを教えたのは誰だっけ?」

「な——っ!?」


 まあ、そう甘くはいかなかった。

 俺もそんな予感は薄々感じていた。


 全壊剣の一撃で破壊される盾。

 その勢いのまま、俺は蹴り飛ばされた。

 ……なんて重い蹴りだ。

 想像を絶する痛みと共に、俺は大広間の床を勢いよく転がった。


 体を貫かれるような鋭い激痛。

 立つ事すらままならない。

 リーヴァの刃が、トドメを刺す為に俺へ向く。


「君の力は、僕()の力に届かない!」

「それでも私は、私()の為に戦う!」


 魔王達の言葉が耳に届く。

 俺は召喚術師だ。モンスターを使役する者だ。

 魔王のようなカリスマも崇高な思想も無い。

 勇者のような強さも清廉さも持たない。


 だから俺はラナの理想から逃げていた。

 リーヴァの夢は叶えてやったのに。

 諦めるよう彼女に促していた。

「大人になれ」と、ずるい言葉を使って。


 これは、その報いなのだろう。

 諦めようが逃げようが迫り来る責務。

 今度は俺が大人になる版らしい。


 逃げられなければ向き合うしかない。

 それがどんなに巨大であろうと。


「魔王のやり方は間違っていた」

「そこまでわかってるなら」

「でも、お前も間違っている」


 今の俺には荷が重すぎる。

 でも、やるしかない。


「だから俺が引き継ごう、お前達が残していった全てを——!!」


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書籍版が2019年3月9日に発売します!
さらに濃厚になったバトルシーン! 可愛いモンスターたちの大活躍をお楽しみください!!

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