戦乱前夜の魔獣達
次回は10/5(金)or10/6(土)投稿予定!
お楽しみに!
「あなた!!」
「龍皇! やっと目覚めた!」
紅色のベッドの上で龍皇が目を覚ます。
両脇には彼の妻と魔王。
全身には傷の治療痕がある。
8000年後の彼にはこの傷跡は無い。
長い時間をかけて回復させたのだろうか。
それとも当時の治癒魔術が高度なのか。
理由はわからないが、彼は生きている。
身を起こし、自らの妻と魔王を見る。
やはり2人ともその表情は深刻だ。
未知なる敵の登場に身構えている。
龍皇もまた、自らの傷を顧みない。
「勇者とやらに出会った」
「リヴァイアサンから聞いてるよ」
「あなたが帰還して、3日が経っています」
「3日か……寂しい思いをさせたな」
愛する妻の頭を撫でる龍皇。
その表情は柔らかい。
対する伴侶も嬉しそうだ。
その表情もやはりラナに似ている。
同族への愛が強いのか。
それともそこに加えて愛妻家なのか。
今はわからないが、鋼の意思は変わらない。
怪我や疲労など気にせず、立ち上がる。
周囲の制止には、一言のみで返す。
「気にするな、今は寝てる場合ではない」
* * * * * * * * * *
コートを纏い廊下を歩く龍皇。
前には魔王、後ろには妻が続く。
全員表情は堅苦しい。
状況も相まって当然と言える顔つきだ。
魔王側も一筋縄では無い。
既に人間側の情報は掴んでいる。
リーヴァの正体も魔王は知っていた。
「人間が創り出した対魔獣用兵器」
「兵器……生命ではないのか?」
龍皇は疑問符を浮かべる。
戦闘相手である以上気になる様子。
しかし彼にも思い当たる節はあるようだ。
人間とはかけ離れた運動神経。
明らかに強度の違う頑丈さ。
自分とリヴァイアサンを圧倒した戦闘力。
自ら並べ連ねて彼は納得した。
人でありながら、人では無い存在を。
続けて魔王はその姉妹についても教える。
同じ戦闘力を持つ、2人の姉妹。
その片方が暗黒龍に特化している事。
勇者の目的がモンスターの殲滅である事を。
彼はそれを黙って聞いていた。
そして彼等は、辿り着いた巨大な扉を開く。
「魔王様!」
「本物の魔王様だ……!」
「ってことはリヴァイアサンも!?」
「あれ、龍皇様じゃないか?」
そこは記憶潜航開始時に見た広間。
数多くのモンスターがひしめき合う。
そして魔王の玉座の横にリヴァイアサン。
彼女もまた、生傷が絶えない。
回復はできるはずなのだが。
「魔王様、この数は一体?」
「召喚で呼び出した」
その単語には否が応でも反応してしまう。
魔王も召喚術を利用していたのか。
しかしその様は異様だった。
この時代、理由は不明だがモンスターは人間そのままで、見た目はほぼ変わらない。
召喚術は人間に対応していない。
人型のモンスターは呼び出せるのだが。
ここにどんな差がある?
初めて俺は、その疑問に突き当たった。
多くのモンスターの前に立つ魔王。
その姿には、今までに無い威厳がある。
やはりこれだけのモンスターを率いる者か。
「集まった皆に聞いて欲しい事がある!」
彼が語る内容はこの記憶潜航で見たそれだ。
勇者の出現から龍皇達の負傷。
人間側に生み出された新たなる脅威。
皆は口々に話し出す。
龍皇達と互角以上の実力。
格段に上昇した人間達への脅威。
そんな中、龍皇の妻は魔王の前に立つ。
「私からもお伝えしたい事がございます」
「龍妃様……!?」
モンスター達は龍皇の妻を指して敬服した。
彼女は龍妃と呼ばれているらしい。
他のドラゴンには見られない呼ばれ方だ。
暗黒龍だけなのだろうか。
俺も今まで知らなかった情報だ。
龍妃はモンスター達に告げる。
それはまるで、未来を予言するかのように。
「とても信じ難い事ですが、このままでは我々は勇者達に全滅させられます」
「たった3人だろ!?」
「だが幹部は1体で君達半分を相手にできる」
僅かな反論も魔王の言葉に押し黙る。
人間が彼等を脅かそうとしている。
ならば一体どうするのか。
龍皇も苦戦する相手をどう倒すか。
「……あれをやりましょう、魔王様!」
1体のモンスターが魔王に進言する。
「聞いたことがある! 魔王様は他の魔獣と合体して自らを強化できるって!」
「それ、俺もどこかで……!」
「私も噂だけど!」
彼の発言に周囲が沸き立つ。
魔王が他のモンスターと合体できる。
そんな力や術、聞いた事が無い。
俺の無勉強なのかもしれない。
しかしモンスターに関しては、他人より詳しいという自負が少なからずある。
これもまた失われた術なのか。
もしくはただの噂なのか。
その真相を、魔王は静かに語る。
「確かに使えば大幅な戦力強化にはなる」
「ならば是非、俺の力を!」
「……代償は君達の命だ」
その答に、言葉を返す者はいなかった。
黙りこくったモンスター達に続ける。
この術は未完成な段階。
一度融合すれば魔王の一部になる。
融合した者の命は失われる。
だから魔王はその術を禁術と定めた。
完成に至るその日まで使用はしないと。
1体のモンスターすら消耗品と扱わない。
それ故の信頼、それ故の部下達だろう。
そんな彼等に魔王が語りかける。
「攻略法が無いと決まった訳じゃ無い!」
「だから私達について来てくれ!」
「その分、我々が貴様達を守る」
リヴァイアサンと龍皇が続く。
一度の敗北など恐れない強い意思。
彼等の宣言に、モンスター達は喝采する。
しかし、俺は知っている。
彼等の言葉が泡沫に消えるという事を。
「魔王様……」
「大丈夫さ、絶対に死なせはしない」
今後多くの人間とモンスターが犠牲になる。
それが俺でも知っている勇者伝説。
人類の存亡を賭けた戦争、その代償。
龍妃への約束も、近い未来に破られる。
「次はどの場面を見るんだ?」
「開戦1ヶ月後……戦争の中期かな」
記憶の旅が佳境に差し掛かっていく。
これから見るのは彼等の死。
俺はその覚悟を固めた。
これも、ブライを討伐するためだ。