裁く勇者〜ヒトノ造リシ英雄〜
人造人間。
今は失われた技術の一つ。
命や肉体を構成する物質などを利用し、目的に応じた都合の良い人間を作り出そうという禁断の技術。
非人道的な事は勿論問題だ。
だがそれ以上にこの術は操作困難。
まともに操れる者など一人もいない。
これが俺の知っている情報である。
改めて目の前の光景を見る。
そして隣で感慨に耽るリーヴァを見る。
「あ? どうした?」
「お前……作られた人間なのか?」
「解説が必要な程あんた馬鹿だっけ?」
いや、冗談では無いか確かめたいだけだ。
光景を見せつけられたら納得せざるを得ない。
それでもやはりどこか信じられないこの情景を飲み込むには、一度確かめるしかなかったのだ。
「レーヴァテイン、修復槽に入れ」
男に促され、リーヴァは服を脱ぎ出した。
肌色が多く露出し、とっさに目を隠す。
が、こっちのリーヴァに邪魔される。
いいのか見ても。俺は観測を続行する。
何を伝えたいのかすぐに理解した。
リーヴァには何も付いていないのだ。
女性的なパーツも、男性的なそれも。
のっぺりとした体を頭まで巨大水槽に浸す。
この時初めて、人造人間と納得した。
体の損傷がゆっくりと癒えていく。
その体勢のまま、彼女は微睡んでいた。
しかしそこに、男が二人の少女を連れてきた。
うっすらと目を開け、その光景を眺める。
やはり疲労はあるらしい。
「紹介しよう、アスカロンとムラサメだ」
水槽の前に跪く二人の少女。
両者共にリーヴァによく似ている。
アスカロンと呼ばれた方は少し豊満。
ムラサメと呼ばれた方は細身な低身長。
比べると個性は独立している。
リーヴァと比べ、二人は女性的だ。
「お初にお目にかかります、お姉様」
「共に戦場で暴れましょうぞ!」
「所謂お前の姉妹剣というものだ。彼女達には実験的に感情を付与した」
性格もリーヴァに比べ豊かに見える。
アスカロンは大人びた柔和。
ムラサメはラナに似た元気っ子。
確かに姉妹といえばそう見える。
剣というのが少し気になるところだが。
相変わらず物のような扱いが引っかかる。
人造人間とは、こういうものなのか?
「感情とは何」
「君と違い、殆どの人間に備わったものだ」
「私には無いのか……」
「お前は旧型だ。仕方ない」
人造人間としての性能は妹達が上か。
しかし、完全な上位互換には見えない。
各々が別の目的を宿しているよう。
ハッキリとはしないが、付けられた名前にもあまり統一性がない気がする。
言語の単位で違うと感じる。
特にムラサメは聞いた事がない。
どこの言語だ、どういう意味だ?
一切不明だが重要な気がする。
まあリーヴァともう一人もわからないが。
「教授、その言い方はお姉様に失礼では?」
「そうであります! 謝罪を求める!」
キツい言葉が妹二人の癪に触ったようだ。
人も人造人間も、慕う者は変わらない。
その光景を懐かしそうにみるリーヴァ。
しかし、物悲しさもある。
ここから彼女達に何が起こるのか?
そもそも何の為に作られたのか?
それが恐らく、人間側の回答になる。
「ここに全ての勇者が完成した」
会話交わす三人の勇者。
その姿を見て、男は口角を上げる。
女性もあまり関心が無いらしい。
魔術機器に向かい、何かの数値を算出する。
改めて、男は勇者達を呼び寄せた。
完成した三人の勇者。
宿された3つの使命を告げるらしい。
水槽から上がったリーヴァが体を拭く。
そのまま衣装も着ずに、男の前に跪いた。
この世界は現在戦争の途中。彼女達は勇者。
当然、ここから導き出される解は一つ。
「アスカロン、君は暗黒龍の皇を殺せ」
「はっ!」
「ムラサメ、君は海の覇者を討て」
「了解であります!」
暗黒龍の皇はそのまま龍皇だろう。
海の覇者はリヴァイアサンか。
敵対する魔王軍、幹部級の二体
リヴァイアサンは自己再生。
龍皇の強さは語る必要もない。
共に通常の武器では攻略不可能。
それをこの二人はどう倒すつもりだ。
「そして、レーヴァテイン」
「言わなくてもわかる」
答えが出ぬまま、話題はリーヴァに移る。
前二人と違って明確な使命はまだない。
ただそれを既に理解しているようだ。
前二人は攻略困難な幹部の討伐。
リーヴァはその時が来るまで遊撃隊。
理想的な光景ではあるようだ。
そうなるとリーヴァの目的も気になる。
「これで、ヒトの悲願が叶うのだ……!」
結局のところまだ出題か。
少しずつ視界に歪みが生じる。
どうやら龍皇達の視点に移るらしい。
リーヴァの妹達に討伐令が出された二体。
だが俺のいる未来では、存命している。
そもそも二体を狙う理由は何だ。
その為に新型の人造人間を作る理由とは。
……人の悲願とは何なんだ。
「全生命の完全支配」
「は……!?」
隣のリーヴァが強い口調で呟く。
それは本来魔王が企んだ計画のはずだ。
対してそれに応戦したのが、人間のはず。
リーヴァの言葉が真実なら、世に出ている情報とは異なった内容となる。
「ここからが地獄の始まりよ」
言われると同時に、視界がねじ曲がる。
彼女の言葉を噛みしめる。
本当に文献通りなら、ここから起きる事は……確かに地獄と呼んで過言では無い。
次回投稿は10/2(火)or10/3(水)投稿予定!
お楽しみに!!