鬼の姉妹、夢の旅行計画
ゴルドラとシルバゴ。通称金銀姉妹。
鬼の姉妹であり、容姿もよく似ている。
好感度は全く上がっている気がしないのに、何故か召喚に応じてくれる不思議な姉妹だ。
最近、彼女達には頼り通しだ。
畑仕事に戦闘、留守番まで任せている。
『海っていいよね』
『分かるわ、ゴルド姉』
そんな彼女達なのだが、最近変だ。
妙に海の話題を推してくる。
というか隙あらば海の話しかしない。
農作業を終え、家の中で休憩に入る。
今日もまた金銀姉妹は、海に関して妙にふわっとした話題を繰り広げている。いいとか、凄いとかしか言ってない。
「海、行きたいのか?」
話題に乗るため、何気なく問いかける。
——この選択がマズかった。
『え? アリク様、海を見たことあるの?」
「お前らは無いのか?」
『はい。山岳地帯出身なので』
そうか、鬼族は山のモンスター。
海を一度も見たことがない。
そういうのも当然あり得る話なのか。
勇者パーティに入る前はよく行ったな。
単純にモンスター観察をしていた。
海のモンスターには、陸や淡水のモンスターとは一味違う魅力がある。幻想的な可愛らしさというか。
ただ、戦闘面だと活躍が限られる。
相当強いモンスターでなければ頼りない。
『……旅行、行きたいよね』
『えぇ、是非とも海を拝んでみたいわ』
「けっこう体とかベタつくぞ?」
『私たちはそれすら経験したことないの! わっからないかなーもー!!』
えぇ……急に怒られた。
山の民的には、海はそんなに特別なのか?
これでスイッチが入ってしまったのか。
姉妹の熱い海への興味と情熱が溢れ出す。
『あのねぇ! 私たちにとって水辺って言ったら何かと思う!? 池と川なのよ!!』
『正直、海がしょっぱいというのも半ば信じておりません』
『私もやってみたいわ! 押し寄せる巨大な波に飲まれて! 白くてサラッサラの砂が足に付くんでしょ!? 』
「お、おう。一旦落ち着け」
凄いこの姉妹。
海に飢えてらっしゃる。
これが海無し族の情熱なのか。
『はぁ、そろそろ私たち戻るわ』
『召喚解除してもらって構いません』
疲れも回復したのか、二人は立ち上がる。
俺が手を叩いてしまえば召喚解除だ。
「金銀姉妹には世話になってるからなぁ」
『そうよ、菓子折でも持ってきなさい』
『私ヨーカンが良いです』
「確かにヨーカンも良いけど……」
だが、ここまで海の情熱を聞いてただ黙っているのも使役者としてどうなんだ。
叶えてあげたいじゃないか。
日頃のお礼も兼ねて。
「海、行くか?」
『……んぁ?』
『失礼、今なんと?』
意味もなく話題になった訳じゃない。
数日前からこの計画は密に動かしていた。
お喋りのラナはよく耐えたものだ。
計画した秘密なんて半日も隠していられないのに、やはり少しは成長しているのかな。
「召喚術の修行時代に無人島にいてな」
『無人島……だと!?』
「ああ。俺も行きたいし、どうだ?」
『つまり実質貸切と』
幸い領地から無人島への距離はまあ近い。
それに、移動も旅の醍醐味だ。
俺も元は旅の人。たまには良いだろう。
『『ふぅむ』』
悩むか……何でだ?
予定が合わないとか?
『乗った!』
『是非とも!!』
いや、本当に何で溜めたよ。
てっきり余計なお世話だったオチかと勘違いしかけた、この前のオリハルコンの件しかり。
でも嬉しそうで何よりだ。
俺たちも計画した甲斐があった。
『で、いつ出発!?』
『準備なら一瞬で可能ですが!』
急かすように聞いてくる。
まるで今すぐにでも出発する気迫だ。
流石に今すぐは無理だ。
個人の準備が終わっていない。
元よりサプライズが目的だったわけだし。
「2日後の朝に出発予定でどうだ?」
『承知しました、召喚忘れのないよう』
主役を忘れることなんてするか。
……一応メモしとこ。
「水着は持ってるか?」
『ミズギ……? なにそれ』
「……知らないのか。マキナが買いに行くから付き合わせてもらうといい」
マキナは明日、一度中心地に戻るらしい。
それにラナもついていくとのことだ。
この際、交流も含めて四人でショッピングをしてきてもらおう。
俺は家を空けている間の頼み事があるし。
水やりの代行を探さなきゃいけない。
よって、準備期間は2日。
まあこれだけあれば準備はできるだろう。
「じゃ。2日後に無人島で」