旅のお供に危険度S級暗黒龍を召喚する
「アリク・エル、お前使えないからクビ」
勇者様から辛辣なお言葉を頂いた。
しかも冗談ではなかったらしい。
その証に、翌日には。
「なんでまだいるのですか?」
「知らない人がいるんですけどー」
と、パーティの他メンバーからも厳しい言われようだ。荷物をまとめてパーティから離れると、遠くから声が聞こえる。
それは労いの言葉などではなく。
「やっとザコが消えたか」
勇者様の幼稚な罵倒だった。
俺は心の底から思った。
『覚えてろよ、いつか後悔させて毎日三食スライムしか食えない生活させてやる』
と。
数日間パーティとは逆方向に歩いて辿り着いた、人の気配がない草原。地図によればこの先に中規模の領地があるらしい。
一人旅は寂しい。だが俺は召喚術師だ。
寂しいなら、仲間を召喚すればいい。
ただ、折角勇者様から解放されたのだ。
景気良くハデな召喚をしよう。
大地に手を付けて詠唱する。
「『漆黒の炎龍よ、顕現せよ!!』」
俺を中心に召喚陣が展開する。
勇者様の前では出来なかった極大召喚だ。
勇者様は他人が目立つとすぐ文句を言う。
だからスケルトンとかゴブリンで抑えていたのに、そうしたら使えないからクビって。
ワガママすぎではないだろうか。
——グォォォォォ!!——
龍の咆哮が草原に響き渡る。
これだ、大型モンスターを召喚する時のこの迫力がたまらない。
術師の醍醐味とも言える瞬間だ。
召喚陣が激しく輝き、一瞬視界を遮る。
『我が悠久の微睡を妨げた愚か者よ、姿を現せ』
暗黒龍と呼ばれる危険度S級モンスター。
視界に収まり切らない巨大な体躯と、行動一つが災害レベルに発展する破壊力が魅力のドラゴンだ。
「よう、久しぶりだな」
『アリク様!? お、お久しぶりです!』
そんな彼女が、低姿勢で接してくる。
彼女の名前はラナ。勇者パーティに入る前、少々世話をしたことがある。
彼女のお陰で、全暗黒龍を使役できる。
これは他の召喚術師にはできない芸当だ。
普通の召喚術師なら喰われるか踏み潰されるか、方法は様々だが暗黒龍に殺されておしまいだ。
『そういえば勇者一行は?』
「あー……クビにされた」
『クビ!? アリク様がですか!?』
気の置けない暗黒龍に愚痴をこぼす。
後方指示すらやらないし。
食料調達に参加しないし。
それでご飯ができたら一番多く食べるし。
パーティ俺以外全員女性だし。
女性メンバーは勇者の肩書き目当てだし。
パーティ全員の手柄を自分一人の功績みたいに自慢しまくるし。
勇者じゃなければただのクズだ。
「クビになって良かったかもしれない」
『ラ、ラナもそう思います』
ふぅ、愚痴ってすっきりした。
『それでご用件は?』
「ああそうそう。それで今ソロになってるから、旅のお供になってもらおうかと」
『いいのですか!? やったぁ!!』
子供のようにラナははしゃぎ回る。
その姿は一見可愛らしいが、山と見間違うほどの巨体だ。このままでは草原が荒地に変わりかねない。
「お願いできるか?」
『もちろんです! でもその前に……』
ラナが辺りを見回すので、私も確認する。
暴れたのがマズかったか。それとも莫大な魔力に惹かれてきたか。
雑魚モンスター達が包囲していた。
ゴブリン、オオカミ、ドワーフ、オーガ。
その他数十種類の野生のモンスターだ。
「ラナ」
『はいアリク様』
「テキトーに暴れていいよ」
『……かしこまりました』
草原の景観なんて知るか。
自分の命のほうが大切じゃ。
* * * * * * * * * *
『終わりましたー!』
「おう、ご苦労様」
さすが暗黒龍。一瞬で片付けてくれた。
見渡す限り自然豊かだった平原が、今や生命の息吹を一切感じない焼け野原に。
悲劇的なビフォーアフターだ。
この姿で街に行くのはまずいな。
少し楽観視しすぎていたか。
「小さくなったりできないか?」
『小さく?』
「子龍くらいの大きさになるとか」
『……ゴメンナサイ、無理です』
無理か。
となると居住地に入ったら召喚解除すべきか。疲れはしないけど面倒なんだよなー。
せめて人間の姿になれれば。
『なれますよ』
「え、マジか?」
『女の子にしか変身できませんけど、それでも良ければ』
人間に変身できるなら十分だ。
むしろ立場を説明しやすくて良い。早速変身するように頼む。
するとラナは、再びまばゆい光に包まれた。
「どうでしょう? 服は魔術師風です」
人間に変身したラナを見る。
白い肌と、黒から赤へとグラデーションする長い髪。低身長だが衣装の胸部を張り上げる二つの膨らみ。
炎のような瞳も綺麗だ。
「可愛いじゃないか、ラナ」
「えへへ……」
うん、子供らしくてとても可愛い。
話相手もできたし、早速領地へ行こう。
早く布団のある場所で寝たい。
「アリク様! 早く!」
「はしゃぐなよー」
こうして俺のソロライフ? は始まった。
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