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ブランコの上


その子は一人でブランコを漕いでいた。



「大人はさ、みんなみんな愚かで、黒い部分ばかりで、汚いんだ。」



その子の頭は下を向いていて、


その子の顔を窺い知ることは出来なかったけれど、


左右に力なく揺れるブランコのように、


きっと悲しみや怒りで今にも壊れそうなのだと、


この子が今まで失さないようにしてきた、


必死に守ってきた大事なものを、


一度捨ててしまったら、二度とは戻ってくることのないものを、


暗く、悲しい闇に、


捨てようとしているのだと、


そう感じた。


だから、



「そうだね。大人は愚かだし、汚いし、黒い部分も沢山あるし、」



「決して綺麗とは言えないね。」



私が突然話しかけても、


その子の顔は尚も俯いたままで、



「でもね、」



でも、多分この子は、


この場で一番、


私の話を、


大人の話を、


大切に思っている誰かの話を、


『聞く』ことが、


『聴く』ことが、


出来てしまった子なのだろうと、そう思ったから、



「大人になるってことはさ、綺麗なだけじゃきっと駄目なんだよ。」



多分今のこの子にとっては、今私が発した言葉は、最悪の、最低の言葉だと思う。


それでも、言わなくちゃいけないんだ。


今、俯いているこの子が、

大人になったとき、上を向いて、幸せに、笑えるように。



「ねぇ、私が教えてもらった言葉でね、今でも大事にしてる言葉があるの。」



その言葉を教えてくれたあの人は、


もう居ないけれど、


『欠点が一つもない人なんて、この世にいないんだ。』



「もし、この言葉が、間違いじゃないとしたら、」



「私にも、大人にも、この世に存在する動物も、植物も、ありとあらゆるもの、みんなみんな、欠点だらけってことだと思うんだ。」



「それでも、人間は欠点だらけでも、何十年も下手したら百歳越えても、生きなきゃいけない。」



「だからさ、」


だからさ、


多分あなたは気がついているだろうけど、



「愚かな心だって、汚い部分だって、黒い部分だって、」



あなたのそれは、



「あなたも、本当は持っているはずだよ。」



本当は見ないフリをするべきものでも、


捨てるべきものじゃなく、



「一位の表彰台には、一位をとった者しか登ることができないように、」



地べたを這いずって、泥水をすすることになろうとも、



「あなたにとって立派な大人になれる人が居るってことは」



自分で受け入れることが出来ないくらい醜くたって、



「あなたにとっての立派な大人にはなれない人が必ず出てくるはずでしょ?」




人を踏み台にして見る景色より




「多分あなたが立派と言ったその大人たちも、本当は欠点はあったはずだよ。」




自分で苦労して高い山に登って見る景色の方が、



「でも、あなたはその人の欠点を受け入れて、」


「その人から良いところを、好きと言えるところを見出した。」



「その感情は、これから先を行くあなたが、地獄に堕ちてもいいというのなら、グシャグシャにして、捨ててもいいと思う。」



空が近くて、



「だけど、それを捨ててしまったら、」



雲が自分の足元で確かに生きていて、



「これから先、あなたの手元に残るのは、」



目の前を遮るものなど存在しない、



「何もない虚しい美しさだけだと思うよ。」



広い、世界が見えるのだと。



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