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■ 後 編


 

 

 『・・・まぁ、ダイゴの気持ちは、


  気が付かなかったといえば・・・ 嘘になる、けど・・・

 

 

  だって・・・


  中学の時から、いっつも振り返ればダイゴがこっち見てたし・・・


  ジュニアのサッカー教室まで通ってたのに、急に野球部に来るし・・・

 

   

  でも、別に、今までなんにも言ってこないから・・・


  そうなるとコッチとしても・・・ どうしようも、ないし・・・。』

 

 

 

ダイゴが真っ赤な顔でサツキの二の腕を掴み、詰め寄る。

オタオタと慌てふためきながら、言葉に詰まりながら。

 

 

 

 『俺・・・ じゃ、ダメ・・・?


  マドカの弟としてじゃなくて・・・ 


  出来れば・・・ 男として、見て・・・ ほしいん、だ、けど・・・。』

 

 

 

そのまっすぐ必死な眼差しに、サツキは思わず目を逸らしてしまう。


ダイゴの目の中にはサツキしか映っていない。

そのサツキは、自分が思っているよりもずっと頬が染まっていて直視出来ない。

 

 

 

 『別に・・・


  今までだって、


  ダイゴのこと嫌だって思ったことなんか無いよ・・・

 

 

  でも、


  なんか・・・ 


  ダイゴは ”ダイゴ ”っていう生き物、みたいな・・・?』

 

 

 

するとダイゴが更に身を乗り出した。

その表情は真剣そのもので、少し目を眇めるようにサツキを見つめる。

 

 

 

 『俺・・・ 好きにさせるから!


  絶対・・・ 絶対、サツキに俺のこと好きにさせてみせる。

 

  

  ・・・俺、がんばる!!』

 

 

 

サツキが顔を上げ、少しはにかみながら口を尖らす。

 

 

 

 『ちょっと・・・ さすがに、さっきのは強引だったけどね・・・。』

 

 

 

『ご、ごめん・・・。』 途端に泣き出しそうな顔を向けた。


長年秘め続けた想いが一気に決壊するように溢れ、強引にキスをしてしまった

自分にダイゴ自身頭が真っ白になり、パニックになっていたのだった。

 

 

 

 『あ、あのさ・・・


  取り合えず・・・ あの・・・

 

  ・・・今度の土曜って、ヒマ・・・?

 

 

  ふたりで、どっか・・・ 行かね・・・?』

 

 

 

モジモジする典型のような、俯いて無意味に指先を絡めたり爪をはじいたり

しているダイゴのその姿に、ぷっと吹き出したサツキ。

 

 

 

 『ん・・・ いいよ。』

 

 

 『え? まじで?! ほんとにほんとに・・・ いいのっ??』 

 

 

 

目を見張り落ち着きなく何度も繰り返し確認する、その大きな図体をした

子供みたいなダイゴに、サツキはケラケラただ可笑しそうに笑っている。

 

 

 

 『どこ行きたい?? サツキ、どっか行きたいトコ・・・ある??』

 

 

 

興奮気味のダイゴは目をキラキラさせて、息継ぎも忘れてしまったかのように

まくし立てる。

 

 

 

 『ん~・・・ バッティングセンター!』

 

 

 『・・・色気ねぇな。』

 

 

 

サツキらしい飾らない感じに、ダイゴは頬を染めて嬉しそうに笑った。


あまりにサツキの笑う顔が眩しくて、愛おしくて、思わず再びぎゅっと

抱きしめた。

拒絶されるかもしれないというほんの少しの不安を抱えながらの、そのハグ。


しかし受け入れられている事にホっとするダイゴは、あわよくばと・・・

 

 

 

 『調子にのりすぎ。』

 

 

 

2度目のキスを目論んで唇を近付けようとして、サツキに阻まれた。

おでこをピシャリと叩かれる。

 

 

『・・・すんません。』 小さくぼそっと呟いて、


『まったくぅ・・・。』 サツキが呆れ笑いをし、一瞬油断した隙に・・・

 

 

 

 『ダメだってば!!!』

 

 

 

二度あることは三度ある。

三度目の正直。


唇を突き出して顔を寄せてくるダイゴに、呆れ果てて可笑しくて可笑しくて

笑ってしまいながらサツキは手の平で遮ってタコのようなその唇を押し遣った。


『・・・ごめ~ぇん。』 ダイゴも自分のしつこさに吹き出してしまって、

その謝罪にはなんの重みも価値もなく、ふたりの笑い声に瞬時にかき消された。

 

 

 

いつまでもいつまでも、ふたりで肩を震わせて笑っていた。


その時、サツキを探して廊下を駆ける足音が聴こえ、ふたりはドアの前に

しゃがみ込んで身を潜めクククと声を殺して笑い合う。


キスは断られたけれど、手をつなぐのはセーフらしい。

隠れんぼするふたりの手は、まるで知恵の輪みたいにしっかり繋がれていた。

 

 

 

 

 

その日の夜。


風呂からあがったマドカ。 

部屋着姿で頭にはバスタオルを巻きキッチンで水を飲んでいると母親が言った。

 

 

 

 『アンタのケータイ、鳴ってたよ・・・


  部屋に戻るなら、ダイゴにさっさとお風呂入れって声かけて。』

 

 

 

『んぁ~。』 気怠く返事をし、リビングのテーブルに置きっ放しにしていた

ケータイを掴んで2階へ上がってゆくマドカ。

 

 

ケータイにはメール着信の表示。


それを開いて読もうとしつつ、ダイゴの部屋の前で立ち止まり拳をドアに

叩き付けようとして寸での所でその手を止めた。

 

 

 

   ”ダイゴと付き合うことになったよ。


    これからもヨロシク、おねーさん。”

 

 

 

あまりの衝撃メールに驚き声が出ないマドカ。

目玉が落ちそうなくらいに見開き、2度見・3度見する。


さぞかしダイゴは浮かれまくっているのだろうと、マドカはニヤける顔を

堪え切れず再度ドアをノックしようとすると、その扉1枚挟んだ奥から

わずかにくぐもった声が聴こえた。

 

 

 

 

 

   それは、ダイゴの泣き声。


   すすり泣くような、うれし泣きの声が小さく小さく響いていた。

 

 

 

 

そっと目を伏せ頬を緩めたマドカ。


今までサツキだけを想ってきた不器用な弟の背中をふと思い出す。

なんだか、胸がじんとして無意識のうちに視界がほんのり滲む。

 

 

すると、マドカは踵を返して1階へ戻りキッチンの母親に声を掛けた。

 

 

 

 『なんか、お風呂は後でいいみたいよ・・・


  ・・・今、取り込み中だから放っといてあげた方がいいかも・・・。』

 

 

 

マドカは再びケータイに目を落とすと、メールを打ちはじめた。


そして嬉しそうに送信ボタンに指をかけた。

 

 

 

 

  ”ふつつかものの弟ですが、


   サツキへの愛は並大抵じゃないからさ。

 

 

   どうぞ末永くヨロシク (〃艸〃)ムフッ ”

 

 

 

 

                         【おわり】

 

 

 


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