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■ 前 編

 

 

 

レトロな雰囲気の柄が描かれた赤とネイビーの袴姿の北高・生徒会長が、

こそこそとまるで逃げるように校舎の中を駆け回っている。

 

 

その手には卒業証書の入った賞状筒。


袴に合わせてハーフアップしてかんざしでまとめ、サイドから左右に少し

垂らしている長い黒髪が駆けるリズムに合わせて小さく踊る。

 

 

 

 『サツキ先輩ーーーー!!!』


 『最後に一言おねがいしまーーーーす!!!』


 『サツキ先輩の持ち物、なんか下さーーーーい!!!』

 

 

 

 

3月。 北高、卒業式。


生徒会長であり式では答辞の大役を務めあげたサツキは、集まって来た後輩

からもみくちゃにされながらも最初は丁寧に対応していたのだが、

段々エスカレートしてゆくそれにお手上げとばかり、一瞬の隙に脱兎のごとく

逃げ出していたのだった。

 

 

何処に隠れようか悩みながら、生徒会室がある本館校舎の廊下を慣れない

草履で耳障りな擦る足音を立てながら駆けていたサツキ。


すると突然、生徒会室のドアが開きそこから伸びた腕にぐっと引っ張られて

半ば強引に室内に引き摺りこまれた。

 

 

驚いて声も出ないサツキ。


尻餅をつくように後ろ向きに倒れ込むと、その腕を引いた人物が床に転倒

するのを防ぐかのように下敷きになって守った。

 

 

慌てて振り向くと、そこにはダイゴがニヤっと笑っていた。

『ダイ・・・』 声を上げかけたサツキに、ダイゴは口に人差し指を当てて

『シッ!』とポーズすると、静かに生徒会室のドアを閉めた。

 

 

 

 『わりぃ・・・。』

 

 

 

そう言って強引に腕を引っ張った事を謝ると、寄り掛かったままのサツキを

起こしたダイゴ。

 

 

 

 『追っ掛けられてんの見えたからさ・・・。』 

 

 

 

そして、『灯台下暗し。 ココなら誰も来ねーんじゃねぇ?』 

悪戯に笑った。

 

 

よろけた時に少し袴に付いた汚れを手の平で軽く払うと、

サツキは不思議そうな顔をしてダイゴを見る。

 

 

 

 『2年は今日は学校休みでしょ・・・?


  どうしたの・・・? なんでココにいるのよ・・・。』

 

 

 

すると、後ろ手に隠していたそれをサツキに差し出し、なんだか困ってる

ような照れてるようなしかめっ面でまっすぐ突きつける。

 

 

 

 『お、おめでとう・・・ 卒業・・・。』

 

 

 

それは、オレンジ色のガーベラが華やかなミニ花束。

カスミソウやアイビーのグリーンで明るくやさしい感じが漂っている。


生まれてはじめて女の子のために花束を買った。

花屋の店員に鬱陶しがられる程しつこく質問責めをして、

やっと出来上がったそれ。

ダイゴの顔は真っ赤に染まり、照れくさ過ぎて目は潤んでいた。

 

 

 

 『・・・ぇ。 わざわざこの為に来てくれたの・・・?』

 

 

 

キョトンとした顔を向け、せわしなく瞬きをするサツキはそれをやさしく

手に取るとそっと顔に近付けて香りを嗅いだ。


そして目を細めて微笑むと、『ありがとう・・・。』 

嬉しそうに口角を上げる。

 

 

『すっごいイイ匂いするよ、ほら!』 

花束を持つ手をダイゴに差し出したサツキ。

 

 

ダイゴは、やわらかく微笑むその顔に瞬きもせず魅入っていた。

心臓が狂ったように猛スピードで打ち付けて、無意識のうちに息を止める。

 

 

 

 

 

  どきん どきん どきん どきん どきん ・・・

 

 

 

 

咄嗟にサツキの背中に少し震える汗ばんだ手をまわすと、その華奢な体を

ぐっと引き寄せいきなりキスをした。

 

 

   ほんの一瞬触れただけの、臆病すぎるキス。

 

 

そして、唇を離すとそのままぎゅっと抱きしめる。

 

 

 

目を見開いてかたまったサツキ。

あまりに突然の、唐突の、予想外の出来事になにが起こったのか

頭がついていかない。

 

 

サツキを抱きしめる腕に更に力を込めるダイゴは、頬も耳も首まで真っ赤に

なりながら緊張しすぎて強張る喉から、震えながらか細い声をしぼり出す。

 

 

 

 『サツキ・・・


  俺。 ずっと・・・ もうずっと前から、好きだったんだ・・・

 

  

  サツキがウチに・・・


  マドカんとこに、はじめて遊びに来た中学ん時から、ずっと・・・

 

 

  サツキが北高行ったから、


  俺も・・・ むちゃくちゃ、死ぬほど勉強してココに来たし・・・

 

  

  サツキが野球部のマネージャーやってたから、


  俺も野球部入ったし・・・


  つか、俺・・・ 


  ずっとサッカーやってたから、野球全然ダメだったけど・・・

 

 

  ほんとは、大学も追っかけていきたいんだけど・・・。』

 

 

 

『女子大だから・・・ ねぇ?』 やっとサツキの喉から声が出た。

 

 

そして、静かにダイゴに抱きしめられている体を離す。


呆れ果てたように俯いて眉尻を下げ少し笑うと、サツキは照れくさそうに

細くて白い指先で前髪を引っ張り、ジリジリと熱くなっている顔を

隠そうとした。

 

 

 


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