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追放

 良くないことは続くものである。


 突然の天使アンヘルの襲来であちこちが壊された町は街の上層部の指示のもと少しずつ元通りにしていこうとしていた。

 住む場所が無くなったものは空いてた場所を与え、時に急ぎで雨風がしのげる程度の簡単な家に一時的に住まわせ、小さい町らしく協力してなんとか立ち直っていった。


 足りない物資は中央都市セントラルに物資救援を出した。

 非常時なのだ。大きな自然災害が来たぐらいのダメージがあるのだから仕方がない。


 カティーナやシアも町の復興に少しでも貢献するために毎日働いた。


 カティーナは母と一緒に頑張る人たちにパンを配り歩く。

 シアは覚えた魔法をあちこちで使いいろんな人に感謝された。


 しばらく過ぎたある日、シアは街の上層部の人たちに呼び出された。

 シアは本来、カティーナたちと違い街の人間じゃないのだから素直に応じる必要性はないが、そこまで知らないシアはカティーナに同行してもらい、町長の家に向かった。


 町長の家でシアに向けられた視線は様々だった。

 恐ろしいものを見るような、憎むようなそれらはシアに確かな敵意が含まれていた。


 一緒に来たカティーナを用済みだとばかりに帰るように目で訴えていることに気がついたが、カティーナはあえてそれを無視した。

 カティーナが帰るつもりがないのがわかった町長はようやく白いひげで覆われた口を開いた。


「君は、シアと言ったね?」

「はい、カティにそう付けてもらいました。」

「はて、どういうことかね?」


 チラリとカティーナを見る。

 さっきは帰るように促したのに喋れということか。


「一月前町の郊外で倒れてるシアを私が見つけて連れて帰りました。シアは自分の名前も覚えていなかったので、私が名前を付けました。」

「ふむ、それは本当に記憶喪失だったのかね?」

「は?」


 なんだ、このじじい。

 声にこそ出さなかったがそんな言葉がどのまででっかかった。

 シアはカティーナが失礼なことを言おうとしたのに気がついたようで、腕を突っつかれた。


「つまり、何が言いたいんでしょうか?率直にお願いします。」


 面倒な腹の探り合いはカティーナ好きではない。

 なんとなく、言いたいことは分かっているのだ。


「なら単刀直入に言われてもらうよ。先の天使と呼ばれる化物の襲来。あれはその子が呼び出したんではないかね?」

「シアはあの日私と一緒にいましたが、不審な行動は全くありませんでした。」


 無駄だと分かりつつ反論してみる。

 本当はここに呼ばれた時点でシアはもう黒に決められてしまっているのだろう。


「彼女は魔法が得意だそうじゃないか。それを使って君にわからないように呼び出したのだろう?」


 これだから無知な人間は。

 魔法というものがなんでも出来ると思ったら大間違いである。


 むしろ、魔法が使えないとはいえ数年間その勉強を続けてきたのだ。

 カティーナの方が詳しい。

 通信魔法自体存在することには存在するが、『ある条件』以外は繋がりたいい相手と繋ぐ媒体がないと不可能だ。


 そんなものをシアが持っていなかったことは拾って帰ってきたカティーナがよくわかっている。


「これでも中央都市で魔法について学んでいた時期がありますので、通信魔法についても知っています。その魔法を使うのは今のシアには無理でしょう。」


 横からシアに睨まれる。

 シアはまだ、通信魔法を知らないから未熟と言われたと思っているのだろう。

 しかし、今はそんなこと気にしてる場合ではないのである。


(道具があればあんたならできるから。)


 あとで教えてあげようと思いながらカティーナはしっかりと町長を見据える。


「なら、なんだってあの化物はこの町を襲ってきたんだ!その女が現れた以外は町は普通だったんだ!!」


 横にいた男の一人が喚きだした。

 結局は原因探しの生贄にたまたまいたよその者のシアが当てられただけである。


 そんなものは結局ただの八つ当たりだ。

 このままでは無実の罪を着せられたシアは目の前の男達に嬲り殺されるであろう。


「それは、まだわかりません。それをこの町だけで決めるのは安直かもしれません。」


 まだあの天使がなんなのか。


 どこから来たのか。


 目的はなんなのか。


 なんにもわかっていないのである。


(天使があれだけとも限らない。)


 そのカティーナの予想は当たっていたのだが、この時は知ることはできなかった。


「そうだ、わからん。しかしそやつが本当は知ってるかもしれんぞ。シアではない、自分の名前だって本当は把握しててお前を騙しているのなら、吐かせるべきではないか?」

「私は!本当に何も知らないんです。カティのこと騙してなんかいません!」

「証拠が不十分です。まだ、シアが原因と決めるものは一つもありません。」


(10体2はやっぱり厳しい。どうしようこれ。)


 カティーナとシアが何を言っても聞く耳を持ってくれないのは見て明らかだ。

 今にもシアを殺してやりたいと、血走った目をしてる人すらいる。


 おそらく、身内を亡くしたのであろう。

 やり場のない怒りをシアにぶつけてやりたいんだろうが、そこはお箱違いである。


「若いものをそんなに虐めるんじゃないわよ。」


 どうしようかと頭を回していると、聞きなれた声が聞こえた。

 振り返るとカティーナの母親が扉を開けて入ってきた。


「母さん、どうして?」

「おばさん?」


 そういえば、あることをカティーナは思いだした。


「女だからって除け者にするなんでひどいんじゃない?」

「それは失礼。しかし、あなたが預かってる娘を裁くのに冷静な判断ができると思えなかったものでしてね。」


 一年前に越してきたとは言え、一応母もこの町の権力者の一人である。

 本来はそれはカティーナの父親だったであろうが。

 詳しいことはカティーナも知らない。


 自分の家とこの街のつながりを今握っているのは目の前の女性なのだから。


「そんなら身内の敵討ちだと頭に血が昇ってるあなたたち一緒よ。」


(確かに、そんな顔した人たちに言われたくないわ。)


 物騒な思考にいたらない分、カティーナの母親の方が幾分まともそうである。


「そうかもしれぬ、しかし、火のないところに煙は立たぬ。怪しいものを放置してては町の者も不安がるだろう。」

「そうね…じゃあ、こうしましょう。」


 母はシアの方を向く。


「シア、あなたはこの町から出て行ってもらいます。必要最低限のものは私が用意しましょう。」

「夫人!勝手なことをされては困ります!」

「あら、これなら街の人たちを不安がらせることはないわ。みんなには追放したって言えばいいじゃない。」

「しかし!」


(食い下がるなあ。おっさん。)



 もうカティーナからは他人事だ。

 母が出たならカティーナにできることはない。


「追放にしよう。」


 町長!と周りの男共が騒ぎ立てる。


「明日の早朝に出て行ってもらう。それまでに荷物をまとめよ、以上だ。」


 この決定は覆らないとわかったのか渋々出ていく。

 何人かは未だにシアを睨みつけながら。


「母さん…。」

「カティ、ゆっくりしてる暇はないわ。早く準備するわよ。」


 ニッコリと笑う母の微笑みに何か嫌な予感がした。


 町長の家を後にしたシアは大変期限を悪くししばらく、その場にいた男どもが一年後にハゲろと魔法を一切使わない呪いという名の失礼な暴言を吐いていた。


 面白かったので一緒にカティーナもかつらにしたら恥ずかしいバレ方がする呪いをかけておいた。


 その呪いの効果があったのかどうか。


 それを知ることになるのはおんなじことを言い続ける二人を見守るカティーナの母のみである。





 いろいろな店で旅に必要なものを買い揃える。

 物資が不足しているため、手に入らないものもあったが。三日ぐらいなら最悪、食料と水さえあればなんとかなる。


 一番近くの街までに川もあるのは地図で把握しているので水は足りなくなっても補給ができる。


(しかし、多くない?この荷物。)


 母に渡された買い物メモの量は一人分の旅の道具だと思えないぐらいの量はあった。

 買えるものだけ買い揃え、カティーナが帰るとシアと母が荷物をまとめていた。

 どう見てもそれは二人分ある。


「母さん、なんで二人分?」

「あなたも行くのよ?シアちゃんだけだと物騒でしょ?貴方腕立つから盗賊ぐらいなら遭遇しても大丈夫よ。」


 嫌な予感は当たってしまったらしい。


「カティ、あなたはこんな小さな町似合わないわ。お母さんはここで隠居暮らしを楽しんでるけど。あなたまだ若いんだからあっちこっち行って無茶してきなさい。」

「カティ、大丈夫だから!一人なら寂しいかもしれないけど二人なら賑やかになるはず。」


 シアのその自信はどこから来るのか不思議だ。

 カティーナは一年住んだ村とあっけなくお別れすることとなった。

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