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拾い物

 おかしな落し物を見つけた。

 人生においてこんな広いものなんであるかないかだだろう。

 咄嗟に空を見上げ雲一つないいい天気だと、目を逸らした。


 放置することもできなくもないが、流石にそれは人として良心が痛む。

 頭に手を当て考えるもとりあえず出た答えはひとつだけだ。

 面倒事だったら捨ててしまおうと、ひとまずそれを拾うことにした。

 細身の剣を鞘に仕舞い、獲物の野兎を腰に吊るす。

 最後にたまたま見つけたもの、大きくて担いでいくのはさすがにきついと思い、一部を肩に担ぎ引きずっていくことにした。

 よっこいしょとカティーナが持ち上げたそれは…規則正しい寝息を吐いていた。



 国の中央都市よりも国境の方が近いその街に越してから一年経った。

 ようやく馴染んだ道を歩き、母がパン屋を開いている自宅へ帰る。


「いらっしゃ…あら、おかえり、カティ。早いお帰りなのね。狩りは出来たの?」


 パンを並べながらにっこりを笑う。

 簡単な手伝いしかしないカティーナを追い出すように狩りに行かせたのはほかでもないこの母親だ。


 数年間訓練した剣術は狩りのためのものではないが、そんなことは知ったことはないという。

 使えるものはなんでも使う。強かな人だ。


「とりあえず野兎を一羽。そんで、拾い物して帰ってきた。」


 拾い物、と呼ぶにはおかしいそれを見つめる。


「ついに新しいお友達ができたのかと思ったわ。とりあえずカティのベッドで寝かしてあげなさいな。」


 意識がない人間をどう見たら友達だと思えるのだろう。

 この家には今のところ母とカティーナのベッドしかない

 仕方なく、自室のベッドまで運び、寝苦しくならないように服を緩めてやる。


 拾った少女は正直、見惚れそうなほど整ってる。ちなみにカティーナにおかしな性癖はない。

 肩つくぐらいの赤みを帯びた髪は無造作になっているが艶を無くしていない。

 服も汚れてはいたが、どこかに傷がある様子も見られなかった。


(なんであんなところに倒れてたんだろう?)


 行き倒れにしては荷物がない。身一つで旅も何もあったものではないだろう。

 整った顔もやつれた様子は見られないところを見ると、飲まず食わずで彷徨ってた訳でもなさそうだ。


 考えてみるも、答えが出るわけでない。

 眠っている名も知らない少女を残し、食べ物をもらいに部屋を出て行った。


「あら?あの子はどうしたの?」

「今のさっきで起きないよ。起きたらなんか食べさせようかと思って。母さんあの人見たことある?」


 手を顔に添えさぁと笑う。

 細めてシワが寄った目尻を見ていちいち動作が丁寧だと思う、


「服の雰囲気もここの街で見ないしよその人じゃないかしらねえ?」

「やっぱりそうだよね…近くの街ってどれくらいかかるっけ?」

「確か、歩きで行くなら3日じゃなかったかしら?あたしは馬車できたから1日で付いたけど。」

「馬車か…無くはないけど。私が見た限りは通ったような形跡なさそうだったな。」


 車輪のあとがわずかでも残れば見てわかる。少なくともカティーナの目が届く範囲にそんな形跡はなかった。


「そんなの後であの子に聞けばいいじゃない。まだ起きないんだったらちょっと店番やってて。お母さん、外でお茶してくるわ。」


 手に持ったトングを「はい」と渡して手を振って出ていく。

 残されたのはカティーナと美味しそうに並べられたパンたちである。

 昼はとうに過ぎ、混み合う時間でもないので閑散とした店内を見て小さく息を吐いた。


(こんな状態でこの店続くんだろうか?)


 ここに越してからはじめられたこのパン屋はお金を稼ぐ以上に母の娯楽という意味合いの方が強いのかもしれない。

 昔から料理が好きな人だったから。


 仕方なしにカウンターに座り商品の一つを取りかじりつく。

 果実を含み甘く味付けられたパンは悔しいかな、確かに美味しかった。

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