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7話

「――で、なんでこうなったんです?」



 僕が悲鳴をあげたあの後、あまりのショックでパニックになった僕は麻奈さんが持っていた鎮静剤を打たれ、そのまま眠ってしまったらしい。

 嫌な話だが、まあ予想はしてたんだろうなあ。


 再び目を覚ませば次の日の朝。

 さっき聞いたことだけど、驚くことに清調には丸二日ほど要したらしく、実は今日は病院に来てから四日目の朝だったりする。

 今は普通の入院患者が入る個室部屋に、僕と母さま、それから麻奈さんがいた。ちなみに母さまは未だ僕に抱きついて離れない。


「そうねえ……ここで三流芸人みたいなジョークとかどう?」

「怒りますよ。わりかし本気で」

「いい感じに切羽詰ってるわね。――それじゃあ、最初から説明しようか」

「お願いします」


 僕は寝ていたベッドに腰掛け、椅子に座っている麻奈さんと向かい合う。


「まず始めに言っておくけれど、君のそれは清調の失敗とかではないわ」


 それ――とは、僕の体に起こった変化のことだ。今は一応服を着ているので、ぱっと見でわかるのはこの長い髪だろう。僕の髪はさらりとまっすぐに流れ、その長さは腰の辺りまで届いている。

 この髪の長さに気がついたときは、実は何年も眠っていたんじゃないだろうかと勘違いしそうになったぐらいだ。

 それはともかく。


「失敗じゃないんですか?」

「ええ、清調は確かに成功したわ。つまり清調が成功して、君の体がそうなった。どういうことかわかる?」


 麻奈さんはまるで学園の先生のように、僕に問いかけてくる。

 清調の本来の意味は『治療』ではなく『復元』。それが意味することは。


「清調は体を『元』に戻すものだから……あ、あれ? それじゃあつまり……」


 待った。それはいくらなんでもおかしくない?

 だって、それじゃあ僕は、


「そう、君は『元』に戻っただけよ。男の子から女の子に(・・・・・・・・・)、ね」

「……まじですか」

「残念ながら大マジよ」


 女の子。

 それが今の僕の性別。

 胸のところには男のときにはなかった膨らみがあって、下のところには男のときにはあったものが綺麗サッパリない。

 ……これを悪夢といわずに何という。


「言い方が悪いかもしれないけれど、実は男であった時の君のほうが異常であって、今の女のこの方が正常なのよ」

「えーっと。一応お聞きしますけど、その根拠は?」

「事前検査のときにね。DNAを一応調べたら、君の染色体はXYではなくてXXだったから」


 知らない人のための豆知識。人の性別は染色体XとYの組み合わせによって決定する。XYなら男、XXなら女である。簡単に言うとこんな感じ。詳しく知りたい人はウィキペディアでも見てくれ。


「たぶん、体の不調はこれが原因だったんじゃないかしら。今はもう体の調子はいいんでしょう?」

「……遺憾ながら」


 起きたときはまだ鉛が入ったような重い感じがしたが、今は逆に調子がよすぎてなんだか落ち着かないほどだ。

 しかしまあ、体の不調=性別の反転ということは、つまり不調を直せば性別が『元に戻って』しまうということだったらしい。

 なんてことはなく、始めから逃げ道がなかったと言うわけですか。いい加減泣くぞほんとに。


「でもなんで性別が反転しただけで体の調子が悪くなったんです?」

「それはホルモンとか、体そのものの成長に関係してくるからだと思うわ。体の設計は女の子なのに、出来上がるのは男の子なんだから、当然ズレとかがでるでしょう? でもよかったわね、元に戻って」

「どこがいいんですかこれの」

「君の体調不良は体の成長、まあ第二次性徴とかね。それに比例して悪化していたみたいだから。このまま放って置いたら、最悪の場合は死んじゃっていたかもしれないわね」

「ほんっっっっっとーに、逃げ道なかったんデスね」


 あ、涙が出た。


「あー……でもなんで性別が逆転していたんです?」


 母さまにハンカチを貸してもらい、涙を拭ってから改めて質問を再開する。

 僕が女の子に『戻った』ということに気を取られすぎていたが、よくよく考えればその原因――つまり僕が女の子として生まれるはずだったのが、何故男として生まれたのかが僕はまだ知らない。今となってはわりかし どーでもいいのだが、疑問のままで置いておくのもなんなんで一応聞いておく。

 そう思って聞いたのだが、


「さあ?」


 ある意味わかりやすい返答。


「さあ……って。もしかしなくとも原因不明ですか?」

「ええ。私も今までにそんな事例は聞いたことないし、調べても前例はなかったわ。もしかしたら突然変異っぽく逆転しちゃったのかもしれないし、なにか呪いっぽいものにかかったのかもしれないし」


 突然変異か呪いて。あまりに嫌過ぎる例えでまた泣けてくる。


「……最後の質問ですけど、僕はこれからどうすればいいんでしょう」

「なんだか恋人に振られて人生に絶望した的な人生相談ね」

「またすごい例えですね……ってそうじゃなくて。いや、僕は今まで男でしたから、生活とか学園とか、あと戸籍とか、そのあたりはどうなるんでしょう」


 今まで僕も、その周囲からしても『鳩羽みい』という人間は男だったのだ。それが急に女になったんだから、色々と問題が山積みな気がしたのだが、


「あ、その辺は大丈夫よ~」


 先ほどから僕に抱きついていた母さまが、それに答える。あ、微妙にいたの忘れてた。


「戸籍とかは昨日変更しに行ったし、学園にも連絡はしておいたから問題はなしよ~」

「手回し早っ!」

「ぶいっ」


 ぶいっで済むのかと思うが、麻奈さんが軽く視線を逸らしているのを見ると、あまり聞いてはいけないと感じるのは気のせいか。

 というか戸籍変更はまだいいとして(あまりよくないけど)、学園側は驚いただろうなあ。対応したのが担任の宮嶋先生なら、素で受け答えしたかもしれないけど。


「生活のほうは、帰ったら私がいろいろと教えてあげるから安心してね?」


 ものすっごく嬉しそうに死刑宣告っぽいことをしてくれる母さま。

 あ、これはイカン。この母さまの表情は凄く危険なアレだ。

 なんとか回避する方法……。


「……一応聞きますけど、何らかの方法で男に戻るというのは」

「「駄目」」


 ステレオで即答された。


「いえ、あの、だったらせめて格好だけでも」

「「却下」」

「…………………」


 笑顔で逃げ道どころか選択肢すらないことを、とてもわかりやすく教えてくれる悪魔二人。

 ……明日なんて来なければいいのにぃ!










「……ところで、代えの服ってあります?」

「あら、どうして? 似合ってるわよ、そのワンピ―ス」

「いえ、なんだか、む、胸のあたりが苦しくて」

「……………………それ、みここのよ」

「               ……ハッ、殺気!?」



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