19話
その後もモール街を見て周り、時間も遅くなってきたので解散することに。
僕は結局何も買わず、桜火と雪美さんにプレゼントを貰っただけになってしまった。後で何かアクセサリを贈ろうと心に決める。
他の皆としては桜火や宗司が服を、雪美さんは本を買い、浩壱楼は春香ちゃんとまた来るために店の配置などのチェック・メモに勤しんでいた。うん、一人空気がおかしい気がしたが、いつもどおりなのでスルー。
「ん~、まあ悪くはなかったわねー」
桜火が自販機で買った炭酸飲料を片手にベンチに腰掛けていた。
雪美さんは飲み終わったジュースの缶をゴミ箱に投げ捨てる。からん、と少し暗くなった周囲に音が響く。
「そうだな。たしかにこれだけのものが近くにできたというのは僥倖だ」
浩壱楼も缶コーヒーを買っていたが、まだ空けていないらしい。片手でくるくると缶を回転させている。おいおい、缶はペンじゃないぞ。
「まあ、また来てもええとは思えるぐらいではあったな。金があるとき限定やけど」
「そうねー。色々目移りするから、お金無いと厳しいわねーーアンタのサイフが」
「ちょっ、待ちい! 奢らせる気か? 奢らせる気なんか⁉︎」
「少し違うわ。貢ぐ、と言うそうよ?」
「お前はどこの女王様じゃボケェェエエエ!」
おーい、ここ人通り多いから注目の的になってるよー?
とりあえず桜火を軽く説教して、端の方へ。学生の自分達にとってはもう遅い時間だが、しかし大学生や仕事帰りの大人にとっては今からなのだろう。モール街入口には人の出入りが途絶えることはない。
「……そうね、また来てもいいわね。今度は休みの日なら、もっと時間が取れると思うし、ね」
ほんと、悪くはなかった。いや、それどころか本当に楽しかった。確かに今日はあまり時間はなく、全てを見て回れている訳ではない。放課後ではなく、土日なら沢山時間は取れるだろう。
ただ、雪美さんを誘えたし、それにプレゼントも貰えた。
こんなに楽しいと思えたのも久しぶり。
「そうだね、またみんなで
『――jwgd/tkx/ooytr/a/hsqm/lrrv――』
また、この夢。
そこは見渡す限り何も無い『夜』の場所。見えるのは直線の水平線のみ。
足元は、僕を始点に広がる波紋を作る、無限に広がる『湖』。ここを『海』ではなく『湖』と感じたのは、やはり夢だからだろうか。
その水面に映る、満天の星空と現実の数倍はあろうかという巨大な、鎖に縛られた歪な満月。しかし空を見上げても、そんなものはどこにも無い。
そんな幻想世界。
連鎖的に、持続的に、加速的に崩壊していくセカイ。
『――jwgd/tkx/ooytr/a/hsqm/lrrv――』
また、聞こえた。
いつもこの夢を見る前に聞こえる『詩』。
『詩』。
そう『詩』だこれは。
何故そう思ったのかは分からない。だが先ほどから聞こえる、否、最初から聞こえていたこれを詩だと確信した。
ヒビが、徐々に大きくなっていく。
ひび割れ崩れ、壊れていくセカイの中で、僕は何かが割れる音がした。
「――い! みい!」
「え?」
何が起こったのか、理解が追いつかなかった。周りを見渡そうとして、そこでやっと僕が誰かに抱きかかえられていることに気がつく。
冷たい、この雪のよう人は、
「……気がついたみたい」
その僕を抱いていたのは涼風さんだった。
「えっ……と。何がどうなったの?」
状況がいまだ理解できず、みんなに尋ねる。
なにが、起こったのだろう?
「何がって……アンタ覚えてないの?」
心配そうに桜火が僕の顔を覗き込んでくる。
今何が僕の身に起こったのか思い出そうとしたが――
……だめだった。
何も、何も思い出せない。直前にみんなでジュースを飲んでいたのは覚えている。だけど、そこからの記憶が曖昧だった。
前にも似たようなことがあった気もするけど、それもわからない。
「うん……ごめん」
「謝る必要はない。だが、今日はどこか体調が悪かったのか?」
「……突然倒れた?」
「まさかいきなりぶっ倒れるとは思いもよらんかったで。まあすぐに目覚まして良かったけど」
涼風さんから体を離し、軽く動かしてみる。だけど、これといった異常は見当たらない。
時計を見ると、確かに宗司の言うとおり倒れる前からは数分も経っていなかった。
「しゅーない、とりあえず今日は帰ろか」
「とりあえず帰ったら念の為、病院には行っておけ」
「うん……」
まるで自分が自分でなくなっていくような感覚。
それを紛らわすかのように、僕は胸元のペンダントを握り締めた。
かなり短いですが、区切りがよかったので。
……なんで前話と分けたし。
そしてストックが尽きました。
予定としてはTSとコメディーが足りてないので、一話完結レベルの小話をいくつか。
そして最終章の予定です。




