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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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 灘諸国は総人口二十万に満たない小さな国だ。七つの国々で構成され、その頂点がわたしの住む、灘国。

 灘国内には、五つの町があり、東灘一色ひがしなだいしき西灘一色にしなだいしき、南灘一色、北灘一色きたなだいしき、そして、灘中央なだちゅうおうとなっている。首都は、北灘一色を経て、現在、南灘一色町となっている。


 ここ灘国では、代々、四総帥よんそうすいと言われている名家の人間が上に立ち、指揮を取っている。

 国独自の法律を設け、名家四家の人間は町のすべてを向上、また維持出来るよう尽くすのが定め。

 そう、灘国の東西南北の町に位置する「高ノ居家」「岩本家」「高藤家」「土岐島家」の名家四家の当主が御殿を構え、それぞれ会社や店を持ち、国や個々の町の運営資金に充てている。

 特に名家四家が力を注いでいるのが、名家と平民である、町民の溝埋めだ。

 主にそれは、町民サービスとして、名家四家の息子である、殿王子とのおうじや娘である、姫王女ひめおうじょが表に出て、公式業務イベントを行うこと。このときの町民の熱狂ぶりには驚いてしまう。


「一恵?」


 こっちにいたのね、と微笑んだあと、お母さんは、どこかにいくの、と続けて訊いてくる。


「駅ビルまで、ね。友達と会う約束があるから」


 そう、と短く返事をすると、わたしの目の前にご飯と味噌汁を置く。


「たまにじゃなくて、休みの度に出かけたらどうなの?」


 不思議そうな顔をして、お母さんはわたしを見つめていた。


「めんどくさいの。休みの日にどうしたっていいじゃない。もう二十歳なんだから」

「そう……」


 それ以上、お母さんはなにも言わなかった。


 ……わたしの時間は、あの時のまま、そう高校時代で止まっているのかもしれない。


 あの日以来、一度足りとも友達と遊ぶことはしなかった。


 清々しい空気の中で、わたしは深呼吸した。

 ホームに入ると、同時に電車が滑り込んで来る。

 ゆっくりとした足取りで、車内に入った。まだ、早い時間のせいか、乗っている人はほんの数人程度だった。

 揺れる電車の中で、わたしは窓辺から風景をぼんやりと眺めた。

 不意に、かすかな記憶の断片が、わたしの脳裏に蘇る。


「司ぁー」


 遠くから甘ったるい声がする。聞き覚えのある声は、だれなのかすぐにわかった。


「司ってばぁー」


 あれは、司とつきあっていたころの、わがままなわたしの声……。


               ◆ ◆ ◆


「明日、ここで待ってるねー」


 駅の五番ホームで待ち合わせをし、ふたりで一緒に学校に向かうのがパターン。

 翌朝、わたしは待ち合わせの場所で司の姿を探していた。だけど、彼を見つけられなかった。


 司、どうしちゃったの?


 わたしは柱に背を預けたまま、大きくため息をついた。

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