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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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 薄暗い部屋に、陽が差し込んだ。


「んー」


 背伸びをすると、わたしはゆっくりと起き上がる。寝ぼけた目をこすりながら、一階に降りた。


 すごく、いい匂い……。


 本来なら台所に入るとお祖父様じいさまに叱られるけど、匂いに釣られてつい入ってしまった。


「えっ、お、お母さん?!」


 いつもは台所に立つことのないお母さんが、なんと、料理を作っている。お鍋に味噌汁の具をいれていたみたいだ。


「あら? 早いじゃない」

「うん。ってゆーか、なんでお母さんが朝食の支度しているの?」


 わたしは、いつもいるはずのお手伝いさんを探した。


「そういえば、一恵に伝えてなかったわね」


 そういうと、お母さんは深いため息をついた。


「今日は、特別なのよ。お祖父様が企画された公式業務イベントがあって、勇さんと一緒に、岩本家の手伝いさん全員借り出されちゃったの」


 お祖父様も、飽きもせずによくやるわよね。

 それに従うお父さんもすごいかも。……従うしかないから、仕方ないのか。でも、わたしはこういうのいやだな。好きじゃない。


 わたしの気持ちがわかったのか、お母さんはすこし遠慮がちに笑ってみせた。 


「今回は、オルゴール買ってくれた人らしいわ」


 オルゴール?! もしかして、駅ビルで会った女子校生が騒いでたのって、このことかしら。


「……もしかして、半日デート?」

「えぇ。食事付きで、ツーショット写真を撮れる権利付きだから、応募者殺到したみたいよ」

「そ、そうなんだ。お父さんの人気ってすごいのね」

「そうね。あ、一恵が勤めている、高藤電線の工場長も、お父さんと同じくらいなのよ」

「え? 工場長も? ふーん」


 適当に返事してから、わたしは台所を出て、いつも食事を取る部屋に入った。


 うちは、名家と町の人たちから呼ばわれている。

 岩本家と言ったら、ここ南灘一色みなみなだいしきを始めとする、灘国内では知らない人はいないと思う。

 といっても、わたしは本家の娘ではなく、中級分家の娘だと発表されているので、まず、敬称で呼ばわれることさえない。あなたが幼少のころ、お祖父様が決められたのよ、と小学校へ入学したときにお母さんが教えてくれた。だから、わたしの身の内を知っているのは、ごく親しい友達数人だけ。

 とは言え、発表通りに中級分家の邸宅に住んでいるわけでもなく、ふつうに生家にいて、わたし専用の侍女・たき江もいる。もちろん、家の中では何十人もの住み込みや通いの侍女たちもいるし、お父さんやお母さん付の護衛や侍女だっている。

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