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貴重な休日をムダにしたくないし、もしかしたら、高校の……。だとしたら、絶対に行きたくない!
受話器を強く握りしめた。手のひらに、ジワリと汗が生まれた。
『一恵ちゃん?』
「……い、今言えないの? わたし、知らない人と、会いたくないから」
出た声は情けないほど震えていた。
『そっか……。あ! それじゃ、わたしがだれかわかったら、明日会ってくれる?』
名前を教えてもらっても、会いたくないと思っていた。
だけど、彼女の口から出てくるやさし気な声は、わたしの冷たくなった心を癒してくれるよう。
「……いいけど」
気づけば、OKを出していた。
『ありがとう! えっと、中学のとき同じクラスだったでしょ?』
うれしそうにお礼を言ったあと、彼女は淋しそうな口調に変えた。
……中学?
ふと、わたしの脳裏に、ひとりの少女がよぎる。
笑うとえくぼが出る、かわいい笑顔の女の子。背丈はわたしよりも低いけれど、それがとても魅力的な娘。
『思い出してくれた?』
「ええ」
彼女なら、わたしの電話番号がわかるはず。納得した。
「可奈、でしょ。 山丘可奈」
あの可奈か、とわたしは今日の彼女の顔を思い出しながら、五年ぶりの再会を喜んだ。
『あたり。ね、一恵ちゃん。わたしと会ってくれる?』
可奈のうれしそうな声が、わたしの耳元で聞こえる。
会ってもいいって思った。……でも。
わたしは、もう一度可奈の姿を浮かべ、自分のセンスのなさと彼女のおしゃれな服装に嫌気を感じ、次第に彼女に会いたい気持ちが失せてしまっていた。
うん、断ろう。会ってみじめな思いするなら、最初から会わないほうがいい……。
受話器から、彼女の声が届く。
『……ずっと、待っているから、ね?』
やさしい声が、わたしの耳に伝わった。
――ずっと、待っているから。
心の中で、わたしは呟いてみた。
なぜか、わたしはうれしい気持ちになった。
『一恵ちゃんが来るまで、わたし、ずっと待ってるから』
もう一度、わたしの耳元にやさしい彼女の声……。
どうしよう。行きたくない、だけど……。
そしてまた、彼女の声が受話器から伝わる。
『明日の朝、十時に駅ビルの入り口で待っているね』
もう一度、可奈と会ってみようかな。なんか、そんな気分になる。
いつしか、わたしは会うことを望んでいた。
「わかったわ」
『よかったぁ。明日待ってるね』
受話器の向こう側で、可奈はうれしそうな声を弾ませていた。
楽しみにしているね、と言って可奈からの通話が切れた。
耳から子機を外し、充電器の上に置く。
……わたしは、やさしい言葉に飢えているのかもしれない。