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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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 貴重な休日をムダにしたくないし、もしかしたら、高校の……。だとしたら、絶対に行きたくない!


 受話器を強く握りしめた。手のひらに、ジワリと汗が生まれた。


『一恵ちゃん?』

「……い、今言えないの? わたし、知らない人と、会いたくないから」


 出た声は情けないほど震えていた。


『そっか……。あ! それじゃ、わたしがだれかわかったら、明日会ってくれる?』


 名前を教えてもらっても、会いたくないと思っていた。

 だけど、彼女の口から出てくるやさし気な声は、わたしの冷たくなった心を癒してくれるよう。


「……いいけど」


 気づけば、OKを出していた。


『ありがとう! えっと、中学のとき同じクラスだったでしょ?』


 うれしそうにお礼を言ったあと、彼女は淋しそうな口調に変えた。


 ……中学?


 ふと、わたしの脳裏に、ひとりの少女がよぎる。

 笑うとえくぼが出る、かわいい笑顔の女の子。背丈はわたしよりも低いけれど、それがとても魅力的な


『思い出してくれた?』

「ええ」


 彼女なら、わたしの電話番号がわかるはず。納得した。


可奈かな、でしょ。 山丘やまおか可奈」


 あの可奈か、とわたしは今日の彼女の顔を思い出しながら、五年ぶりの再会を喜んだ。


『あたり。ね、一恵ちゃん。わたしと会ってくれる?』


 可奈のうれしそうな声が、わたしの耳元で聞こえる。

 会ってもいいって思った。……でも。

 わたしは、もう一度可奈の姿を浮かべ、自分のセンスのなさと彼女のおしゃれな服装に嫌気を感じ、次第に彼女に会いたい気持ちが失せてしまっていた。


 うん、断ろう。会ってみじめな思いするなら、最初から会わないほうがいい……。


 受話器から、彼女の声が届く。


『……ずっと、待っているから、ね?』


 やさしい声が、わたしの耳に伝わった。


 ――ずっと、待っているから。


 心の中で、わたしは呟いてみた。

 なぜか、わたしはうれしい気持ちになった。


『一恵ちゃんが来るまで、わたし、ずっと待ってるから』


 もう一度、わたしの耳元にやさしい彼女の声……。


 どうしよう。行きたくない、だけど……。


 そしてまた、彼女の声が受話器から伝わる。


『明日の朝、十時に駅ビルの入り口で待っているね』


 もう一度、可奈と会ってみようかな。なんか、そんな気分になる。

 いつしか、わたしは会うことを望んでいた。


「わかったわ」

『よかったぁ。明日待ってるね』


 受話器の向こう側で、可奈はうれしそうな声を弾ませていた。

 楽しみにしているね、と言って可奈からの通話が切れた。

 耳から子機を外し、充電器の上に置く。


 ……わたしは、やさしい言葉に飢えているのかもしれない。

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