表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
6/34

 恥ずかしい。早く、ここから逃げたい!


「電車が来るの」


 彼女の瞳を覗かずに、わたしは言った。


「え?」

「ごめんなさい。急いでいるから」

「え、ちょっと、一恵ちゃん」


 追いすがる彼女の声を、わたしは必死で引き剥がす。


 あんな思いはもうしたくない。彼女がたれだっていい。……だれだって……。


 早足で駅に駆け込むと、そこでわたしは初めて振り返る。


 ……よかった。着いてこない。


 わたしは安堵の息を漏らした。


 その夜、久しぶりに部屋の内線が鳴った。

 受話器を外し、耳につけた。


「お嬢様、お電話なんですが……」


 そう言うと、たき江は言葉を濁らせた。

 彼女は、わたし専用の侍女。いつも、わたしあての電話がくると、つないでくれる役目になっている。


「どうかしたの?」

「すみません。相手の方がお名前を名乗らなかったのですが、どうしても、お嬢様につないでほしいと言われまして」


 名前がわからないなら、つながないでよ。たき江のバカ。高校の友達だったら、なおさら出たくないのに。


 心の中で思っていても、口に出すことはしなかった。


「いいわ。出るから」


 すみません、ともう一度あやまってから、たき江は通信を切った。


「代わりました。一恵です」

『突然ごめんなさい。今日、駅ビルで会ったよね。どうしても一恵ちゃんと話したくて』


 聞こえてきたのは、やわらかい声のあの女性だった。


 えっ?!


 驚きのあまり、息するのを忘れそうになった。


 ちょ、ちょっと、待って? ど、どうして?!


 不思議でしかたなかった。

 受話器の向こうから、女性の弾んだ声が耳に届く。


『お話の途中で、一恵ちゃん帰っちゃったから……。でも、懐かしくて電話しちゃった』


「……どうして、電話番号知ってるの?」


 わたしが訊くと、突然彼女の声が沈む。


『……え? そっか、わたしのこと、覚えてないんだね』

「ええ」


 記憶を手繰り寄せず、わたしは即答した。


 いまさら、昔の友達と仲良くなんてしたくもない。

 なぜ、放っておいてくれなかったんだろ。

 こんな、地味子としゃべってもつまらないだけ。


『ねぇ、明日、都合よかったら会ってくれないかな? そうしたら、話すから』


 ……なんのために、今日電話してきたの? ここで言えばいいのに。


 受話器の向こうの彼女に気づかれないように、そっとため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ