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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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 白いブラウスに黒のタイトミニのスカートをはいた比較的薄着の女性に、わたしは目を奪われた。


 後ろから見てもかわいいなぁ。なにを探しているんだろ?


 わたしは斜め前に移動すると、女性の動いている手を盗み見た。

 横顔から、わたしは知り合いのだれかに似ているように思えた。


 だれだっけ? えっと……ううん、そんなことどうでもいいわ。気づかれたくないし、早くここから離れよう。


 くるりと反転して、店から出ようとした時だった。


「一恵ちゃん……?」


 ざわめきに紛れて、わたしの名前が微かに聞こえる。


 え? きっと、わたしじゃないわ。聞き違いよ。


 わたしはそのまま帰ろうとした。だけど……。


「一恵ちゃん。岩本一恵ちゃんでしょう」


 くり返される声。


 聞き違いじゃなかったんだ。でも、だれ?!


 観念してゆっくりと後ろを向くと、わたしは声の主を認めた。


「……え?」


 さきほど見たタイトスカートの女性だった。


 ? なんで、この人が……わたしを?


 知り合いに似ているとは思っていたが、どうやらわたしの勘違いだった。見覚えがない。

 でも、彼女はわたしの名前をピタリと当てている。


 と言うことは知り合い? ……。そんなこと、どうでもいいわ。関係ない。


 わたしは記憶の糸を辿ろうとせず、微笑む彼女の視線から目をそらした。

 人の顔をまっすぐ見ていることは、苦痛でしかたがない。高校のときから直らない、質の悪い癖。

 彼女と目線を合わせないようにして、もう一度、わたしは呼び止めた人の顔を見た。


「ねぇ、一恵ちゃん。わたしね……あ、あの?」


 よく聞くと、彼女の声はきれいな高音だった。


 関係ない。あなたが、だれであろうと、わたしには……。


 思い出そうとも思わなかった。彼女は昔の知り合いかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

 どっちにしたって、わたしは関わりたくない。ましてそれが、……昔のわたしを知る人なら、なおさらだ。


 彼女の瞳から視線を外したまま、わたしは彼女を観察する。

 華奢な身体に、やわらかそうな髪を後ろでひとまとめにし、編み込んでいる。

 左腕に白いコートを持っている彼女の姿は、どこから見ても決まっていた。

 思わず、わたしは息を飲んだ。


 な……に、これ……って。


 彼女の姿ではなく、壁にはめ込まれた鏡に映っている自分自身に、わたしはハッとする。

 そこには、目の前の彼女とは比べものにならない、なさけない女がいた。

 手入れしない髪と、皺だらけの服、たるんだストッキングを履いた、二十歳ハタチにもなって口紅ひとつひかない自分……。


 なんか、すごく、いや。


 あからさまに、差を見せつけられたような気がした。

 彼女が、わたしを嘲笑っているような感じがしてくる。

 ……あのときの、智春のように。

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