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白いブラウスに黒のタイトミニのスカートをはいた比較的薄着の女性に、わたしは目を奪われた。
後ろから見てもかわいいなぁ。なにを探しているんだろ?
わたしは斜め前に移動すると、女性の動いている手を盗み見た。
横顔から、わたしは知り合いのだれかに似ているように思えた。
だれだっけ? えっと……ううん、そんなことどうでもいいわ。気づかれたくないし、早くここから離れよう。
くるりと反転して、店から出ようとした時だった。
「一恵ちゃん……?」
ざわめきに紛れて、わたしの名前が微かに聞こえる。
え? きっと、わたしじゃないわ。聞き違いよ。
わたしはそのまま帰ろうとした。だけど……。
「一恵ちゃん。岩本一恵ちゃんでしょう」
くり返される声。
聞き違いじゃなかったんだ。でも、だれ?!
観念してゆっくりと後ろを向くと、わたしは声の主を認めた。
「……え?」
さきほど見たタイトスカートの女性だった。
? なんで、この人が……わたしを?
知り合いに似ているとは思っていたが、どうやらわたしの勘違いだった。見覚えがない。
でも、彼女はわたしの名前をピタリと当てている。
と言うことは知り合い? ……。そんなこと、どうでもいいわ。関係ない。
わたしは記憶の糸を辿ろうとせず、微笑む彼女の視線から目をそらした。
人の顔をまっすぐ見ていることは、苦痛でしかたがない。高校のときから直らない、質の悪い癖。
彼女と目線を合わせないようにして、もう一度、わたしは呼び止めた人の顔を見た。
「ねぇ、一恵ちゃん。わたしね……あ、あの?」
よく聞くと、彼女の声はきれいな高音だった。
関係ない。あなたが、だれであろうと、わたしには……。
思い出そうとも思わなかった。彼女は昔の知り合いかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
どっちにしたって、わたしは関わりたくない。ましてそれが、……昔のわたしを知る人なら、なおさらだ。
彼女の瞳から視線を外したまま、わたしは彼女を観察する。
華奢な身体に、やわらかそうな髪を後ろでひとまとめにし、編み込んでいる。
左腕に白いコートを持っている彼女の姿は、どこから見ても決まっていた。
思わず、わたしは息を飲んだ。
な……に、これ……って。
彼女の姿ではなく、壁にはめ込まれた鏡に映っている自分自身に、わたしはハッとする。
そこには、目の前の彼女とは比べものにならない、なさけない女がいた。
手入れしない髪と、皺だらけの服、たるんだストッキングを履いた、二十歳にもなって口紅ひとつひかない自分……。
なんか、すごく、いや。
あからさまに、差を見せつけられたような気がした。
彼女が、わたしを嘲笑っているような感じがしてくる。
……あのときの、智春のように。