表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
4/34

「……岩本一恵さん?!」

「え?」


 おだんご頭の子が、わたしの名前を言い当てた。


「バカ。似てるけど違うって!」

「あ、ほんとだ。ご、ごめんなさい!!」


 ……無言のまま、わたしは逃げるようにその場を離れた。


 目的の店につくと、オルゴールのコーナーに足を運ぶ。

 最近、低価格で手に入るオルゴールが人気。

 なかでも、星型のものと、ペンギンが乗っているものは、すぐに売り切れてしまう。


 わたしは人と人の隙間から、チラリと見ては自分好みのオルゴールがあるか調べていた。


 あーあ、こんなに混んでいるんだったら、来るんじゃなかった。

 うるさくてたまらない。でも、外は寒いし行きたくないし。


 押し寄せてくる波のような雑音に、わたしは何度も耳を塞ぎたくなった。


 もう、なんでこんなにうじゃうじゃ人がいるのよ。


 小さな丸テーブルに、所狭しと置かれているオルゴール。


「あ、あったよぉ」

「え、どこどこ。……あ、ほんとだぁ」


 声の主は、わたしのすぐ横を通りすぎる。

 最後に喋った子が軽くわたしの右肩にぶつかった。

 だけど、ぶつかったことさえ知らなかったそぶりのまま、女の子はオルゴールが置いてあるところまで足を進めて行く。


 顔をあげ、制服姿のふたりの女子高生が星型のオルゴールを手にしているのが見えた。

 ロングヘアーと茶髪を耳の後ろで二つに縛っている女の子たち。

 その姿に、高校時代の自分を思い出して、口の中に苦いものが広がる。強い嫌悪感と猜疑心。


 女の子なんて……。


 彼女たちの楽しそうな声を耳にするにつれ、嫌な感情は、どうしようもなく膨れ上がってくる。


 どうせ、すぐ裏切るのに。友達のことなんて、なんとも思ってないくせに……。


「ほかの店じゃ、売れきれていたのにね」

「うん。マジよかったぁ」


 無関係の会話が、無性にわたしを苛立たせる。


 もう、やめてよ。その笑い、その話し方……ばかみたい。


「そうだっ。はやくハガキ書いて出さなきゃ」

「その前に買いなさいよ?」

「そうでしたぁ。買ったらソッコーであっち行こ」

「OK、いいよ。もうあたしは、ハガキ出したしね。あとは、いさむ様とのデート券が届くのを待つだけだしぃ」

「なにそれぇ。っていうか、当たるかどうかわかんないじゃん!」


 ……勇様? デート券?!


 その名前に驚いて振り返ったけど、すでにふたりはその場から立ち去り、うるさいくらいの笑い声は、ざわめきの中に消えた。


 ……聞き違いよね、きっと。


「ちょっとごめんなさい」


 彼女たちがいた痕跡のところに、ひとりの女性がするりと入ってくる。

 ミントの香りが、ふわりとわたしを包みこんだ。


 この人の匂い? うわぁ、かわいいバック。あれって、どこのお店のブランド品かしら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ