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「……岩本一恵さん?!」
「え?」
おだんご頭の子が、わたしの名前を言い当てた。
「バカ。似てるけど違うって!」
「あ、ほんとだ。ご、ごめんなさい!!」
……無言のまま、わたしは逃げるようにその場を離れた。
目的の店につくと、オルゴールのコーナーに足を運ぶ。
最近、低価格で手に入るオルゴールが人気。
なかでも、星型のものと、ペンギンが乗っているものは、すぐに売り切れてしまう。
わたしは人と人の隙間から、チラリと見ては自分好みのオルゴールがあるか調べていた。
あーあ、こんなに混んでいるんだったら、来るんじゃなかった。
うるさくてたまらない。でも、外は寒いし行きたくないし。
押し寄せてくる波のような雑音に、わたしは何度も耳を塞ぎたくなった。
もう、なんでこんなにうじゃうじゃ人がいるのよ。
小さな丸テーブルに、所狭しと置かれているオルゴール。
「あ、あったよぉ」
「え、どこどこ。……あ、ほんとだぁ」
声の主は、わたしのすぐ横を通りすぎる。
最後に喋った子が軽くわたしの右肩にぶつかった。
だけど、ぶつかったことさえ知らなかったそぶりのまま、女の子はオルゴールが置いてあるところまで足を進めて行く。
顔をあげ、制服姿のふたりの女子高生が星型のオルゴールを手にしているのが見えた。
ロングヘアーと茶髪を耳の後ろで二つに縛っている女の子たち。
その姿に、高校時代の自分を思い出して、口の中に苦いものが広がる。強い嫌悪感と猜疑心。
女の子なんて……。
彼女たちの楽しそうな声を耳にするにつれ、嫌な感情は、どうしようもなく膨れ上がってくる。
どうせ、すぐ裏切るのに。友達のことなんて、なんとも思ってないくせに……。
「ほかの店じゃ、売れきれていたのにね」
「うん。マジよかったぁ」
無関係の会話が、無性にわたしを苛立たせる。
もう、やめてよ。その笑い、その話し方……ばかみたい。
「そうだっ。はやくハガキ書いて出さなきゃ」
「その前に買いなさいよ?」
「そうでしたぁ。買ったらソッコーであっち行こ」
「OK、いいよ。もうあたしは、ハガキ出したしね。あとは、勇様とのデート券が届くのを待つだけだしぃ」
「なにそれぇ。っていうか、当たるかどうかわかんないじゃん!」
……勇様? デート券?!
その名前に驚いて振り返ったけど、すでにふたりはその場から立ち去り、うるさいくらいの笑い声は、ざわめきの中に消えた。
……聞き違いよね、きっと。
「ちょっとごめんなさい」
彼女たちがいた痕跡のところに、ひとりの女性がするりと入ってくる。
ミントの香りが、ふわりとわたしを包みこんだ。
この人の匂い? うわぁ、かわいいバック。あれって、どこのお店のブランド品かしら。