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夜のホームは、すっかり冷え込んでいた。
「はー」
息を吐いた場所だけが白くなった。
わたしは、だれも座っていないベンチを探し、腰をかけた。
バッグをスカートの上にのせ、足をぶらぶらさせながら、両手に息をふけて手を暖める。
しかし、吹きつけてくる風が、一瞬にして手の温もりを飛ばしてしまう。
「さむーい。早く、家に帰りたーい」
「なに言ってんだよ。ゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」
学生のカップルが、わたしの目の前を通りすぎる。
懐かしいなぁ。よく、行ったっけ……。UFOキャッチャーでしょ、プリクラでしょ、あとなんだっけ……。
あっ、また……。もう、どうして考えちゃうんだろう。ところで、いま何時?
バックの取っ手につけた腕時計を見る。
八時二十分……。えーと、時刻表はどこにしまったかしら。
バックやコートのポケットをくまなく探す。
あれ、おかしい。……あっ、そうだった。
スカートのポケットに、右手をつっこむ。
あった!
わたしは、黄色のパスケースを開き、時刻表の下り線の八時台を目で追う。
うわぁ、あと三十分もあるじゃない。
一度はベンチに腰をおろしたものの、冷たい空気が容赦なくわたしの指先から体温を奪っている。
さむいなぁ。三十分なんて、ここじゃあ待つ気にもなれないわ。
そ、そうだ。駅ビルに入ろう。あそこは、暖房が効いていて暖かいよね。
わたしは、ホームを後にした。
だけど、時間が時間だから、ゆっくりとウィンドーショッピングなんてできそうもない。
どこに行こう? これといって見に行きたいところないんだけど。
……あ、雑貨屋にしようかな。見てるだけでも癒されるし。
で、八時五十分……だったよね。八時五十分……。
発車時刻を何度も心の中で唱えながら、わたしは駅ビルへと足を踏み入れた。
途端、嘘のような暖かい空気が身体中を包んでいく。
うわぁー、暖かい。……でも。
あしたが休みだからか、ビルの中は学生のグループやOLたちが至るところに固まっていた。
「この服かわいー」
人がふたり並んで通れるくらいの細い道幅に少女たちがいた。
おだんごをふたつ頭につけている女の子と、ショートカットの子。
「それよりぃ、こっちの……あ、れ?」
「? どうかした?」
ひとりの女の子が、わたしを見た気がした。
「あ、ううん。なんでもない」
もう、ど真中に止まっていないでよ。通りにくいじゃない。
肩にかけているバックをお腹に引き寄せ、ふたりの横を通った。
チラリと、彼女たちを盗み見る。
ショートカットの子が、おだんご頭の女の子の腕に、自分の手を絡めているのが目に入った。
……あの子、やめたほうがいいのに。……わたしには関係ない、か。
その時だった。