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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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 夜のホームは、すっかり冷え込んでいた。


「はー」


 息を吐いた場所だけが白くなった。

 わたしは、だれも座っていないベンチを探し、腰をかけた。

 バッグをスカートの上にのせ、足をぶらぶらさせながら、両手に息をふけて手を暖める。

 しかし、吹きつけてくる風が、一瞬にして手の温もりを飛ばしてしまう。


「さむーい。早く、家に帰りたーい」

「なに言ってんだよ。ゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」


 学生のカップルが、わたしの目の前を通りすぎる。

 懐かしいなぁ。よく、行ったっけ……。UFOキャッチャーでしょ、プリクラでしょ、あとなんだっけ……。


 あっ、また……。もう、どうして考えちゃうんだろう。ところで、いま何時?


 バックの取っ手につけた腕時計を見る。


 八時二十分……。えーと、時刻表はどこにしまったかしら。

 バックやコートのポケットをくまなく探す。


 あれ、おかしい。……あっ、そうだった。

 スカートのポケットに、右手をつっこむ。

 あった!


 わたしは、黄色のパスケースを開き、時刻表の下り線の八時台を目で追う。


 うわぁ、あと三十分もあるじゃない。


 一度はベンチに腰をおろしたものの、冷たい空気が容赦なくわたしの指先から体温を奪っている。


 さむいなぁ。三十分なんて、ここじゃあ待つ気にもなれないわ。

 そ、そうだ。駅ビルに入ろう。あそこは、暖房が効いていて暖かいよね。


 わたしは、ホームを後にした。

 だけど、時間が時間だから、ゆっくりとウィンドーショッピングなんてできそうもない。


 どこに行こう? これといって見に行きたいところないんだけど。

 ……あ、雑貨屋にしようかな。見てるだけでも癒されるし。

 で、八時五十分……だったよね。八時五十分……。


 発車時刻を何度も心の中で唱えながら、わたしは駅ビルへと足を踏み入れた。

 途端、嘘のような暖かい空気が身体中を包んでいく。


 うわぁー、暖かい。……でも。


 あしたが休みだからか、ビルの中は学生のグループやOLたちが至るところに固まっていた。


「この服かわいー」


 人がふたり並んで通れるくらいの細い道幅に少女たちがいた。

 おだんごをふたつ頭につけている女の子と、ショートカットの子。


「それよりぃ、こっちの……あ、れ?」

「? どうかした?」


 ひとりの女の子が、わたしを見た気がした。


「あ、ううん。なんでもない」


 もう、ど真中に止まっていないでよ。通りにくいじゃない。


 肩にかけているバックをお腹に引き寄せ、ふたりの横を通った。

 チラリと、彼女たちを盗み見る。

 ショートカットの子が、おだんご頭の女の子の腕に、自分の手を絡めているのが目に入った。


 ……あの子、やめたほうがいいのに。……わたしには関係ない、か。


 その時だった。

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