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「公式発表されてないけど、わたし、岩本の本家なの。岩本勇の娘」
「うそつかないでよ! 勇様に姫王女様がいるなんて発表されていないわ」
「だから、発表されてないって、最初に言ったわ」
「千世子様、本当なんですよ。わたし……」
言いかけたところで、可奈の後ろに座っていた男性客が立ち上がる。
その人を見て、わたしは息をのんだ。
み、宮置?!
彼は、お祖父様がわたしに付けた護衛のうちの一人。
なんで?
宮置は表に出てきたためしがない。それなのに、こんなに近くにいて、しかも、人前にでてくるなんて。
「山丘様。あとはわたくしがご説明しますので」
「! は、はい」
「突然、失礼しました。当主様のご命令により、一恵様の護衛についている、宮置と申します」
「え……っ。それではこの方は、本当に……」
「はい」
麗子さんの言葉にも、そして、わたしの言葉にも偽りがあるという態度してしてしまった彼女は、もういなかった。
呆然と立ち尽くす彼女を、麗子さんがやさしく諭す。
「千世子、一恵さんに詫びなさい」
「数々のご、ご無礼……お、お許し下さい。し、失礼します!」
最後は涙目になっていた。
まあ、そうだろうけど。格下だと思って偉そうな態度していたら、本当は最上級の位だったわけだし。
「ごめんなさい、一恵さん。彼女の家、今年、筆頭分家に認定されたの。同時に、高藤の本家子息の花嫁候補になったものだから」
本当にごめんなさいね、と申し訳なさそうに麗子さんはあやまってから、自分が座っていた席に戻った。
「お嬢様、少しの間、お傍を離れます。俊成様に葉山千世子のことをご報告致しますので」
「そう。……そのまま帰っても平気よ?」
「そうはいきません。では」
そういうと、宮置は一礼して店から出て行った。
たぶん、宮置からお祖父様にこのことが伝えられ、土岐島本家の耳にもはいるだろう。
まあ、今回は注意だけで済むだろうし、彼女だって、わたしが本家だと知らなかったから、ああいった態度を取ったわけだし。
「一恵ちゃん」
静観していた可奈が、遠慮がちにわたしを呼んだ。
「どうしたの?」
「彼女ね、普段はとても面倒見がいいお姉さんみたいな子なの。ただ、けっこう自慢したがりな面もあって。……千世子さん、筆頭分家から降ろされちゃうのかな?」
「それはないと思うけど、たぶん」
「そっか。よかった」
不安な瞳から、可奈は安心した表情に変えた。
「あ、そうそう、一恵ちゃんに聞きたいことあったの」
「なにを?」
「会社はどうかなって思って。わたし、慣れるまでに一年はかかったんだ」
彼女の前に置いてある受け皿が、カップと合わさって短い音を立てる。
「それがまだ……」
どうしてか、頭の中に高ノ居さんの顔が浮かびあがってくる。




