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「岩本の分家って聞いたんだけど、あなた、筆頭分家?」
「……何が言いたいの?」
この場合、わたしも可奈と同様、彼女に対して敬称で対応しなければいけないけど、敬称を略してしまった。いけないんだろうけど。
「はぁ? あたし、葉山千世子。さっきの話、聞いてなかったとは言わせないわ。筆頭分家の娘が質問しているんだから、さっさと答えなさい」
案の定、彼女は眉を吊り上げて、戦闘態勢モードだ。
本来、公式の名か、敬称で呼ぶことが義務付けられているのは、本家、筆頭分家、次頭分家の3つ。ここまでが、上位階級となる。中級分家と発表されたわたしは、特級階級や平民と一緒なので、どんな人物であろうと敬称敬語で対応しなければならない。
「千世子様、そんないい方ないと思いますけど……」
「可奈は黙ってて。あたしは、岩本さんに聞いているの」
「筆頭分家じゃないわ」
あぁ、やばいわ。まずいわ。
警告音が鳴り響くけど、この千世子という女性には敬語で話したくない。
「言葉、改めてもらえないかしら? 筆頭でもないなら、あたしの方が上なのよ。もしかして、あなた……法律知らないの? 筆頭と言えば、本家の次の位よ。格下のあなたが対等に話せる立場じゃないことわかっているの?」
眉間にしわを寄せ、かなりのご立腹だ。
「お止めなさい、千世子。楽しそうにお話してらっしゃるのに、中に入るなんて、失礼よ」
「れ、麗子様……でもっ」
「ねぇ、……あ、違った。あのレイコサマ。コチラノカタ、ホントウニ筆頭分家ナンデスカ」
あ、なんか、棒読みになっちゃった。
目の前に座っている可奈が笑いを堪えている。
麗子さんが、ぷっと噴出す。
だけど、相変わらず、千世子という人は怒りを露わにしていた。
「一恵さん、いつものようにして。このままだとわたし、お腹痛くてたまらなくなりそうだから」
「そう? わかった。……じゃあ、改めて聞きたいんだけど、こちらの方は本当に筆頭分家なの?」
「ちょっ、ちょっと、岩本さん?! あなた、麗子様になんて口しているのよ」
「え?」
「知らないなんて言わせないわっ。麗子様は、土岐島本家の姫王女よ!!」
「千世子、一恵さんはいいのよ」
「え? で、ですがっ」
一呼吸おいて、麗子さんは可奈に話しかける。
「可奈さんはご存知なんですよね?」
「一恵ちゃんのことですよね。……はい」
「一恵さん、この場合、仕方ないと思うわ。それに、千世子にはあなたのことを教えたいのよ」
「わかったわ」
最後は、なんだかお願いっぽかったけど、わたしもこれ以上つっかかられるのも嫌だから、了解した。




