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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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「岩本の分家って聞いたんだけど、あなた、筆頭分家?」

「……何が言いたいの?」


 この場合、わたしも可奈と同様、彼女に対して敬称で対応しなければいけないけど、敬称を略してしまった。いけないんだろうけど。


「はぁ? あたし、葉山はやま千世子。さっきの話、聞いてなかったとは言わせないわ。筆頭分家の娘が質問しているんだから、さっさと答えなさい」


 案の定、彼女は眉を吊り上げて、戦闘態勢モードだ。

 本来、公式の名か、敬称で呼ぶことが義務付けられているのは、本家、筆頭分家、次頭分家の3つ。ここまでが、上位階級となる。中級分家と発表されたわたしは、特級階級や平民と一緒なので、どんな人物であろうと敬称敬語で対応しなければならない。


「千世子様、そんないい方ないと思いますけど……」

「可奈は黙ってて。あたしは、岩本さんに聞いているの」

「筆頭分家じゃないわ」


 あぁ、やばいわ。まずいわ。

 警告音が鳴り響くけど、この千世子という女性には敬語で話したくない。


「言葉、改めてもらえないかしら? 筆頭でもないなら、あたしの方が上なのよ。もしかして、あなた……法律知らないの? 筆頭と言えば、本家の次の位よ。格下のあなたが対等に話せる立場じゃないことわかっているの?」


 眉間にしわを寄せ、かなりのご立腹だ。


「お止めなさい、千世子。楽しそうにお話してらっしゃるのに、中に入るなんて、失礼よ」

「れ、麗子様……でもっ」

「ねぇ、……あ、違った。あのレイコサマ。コチラノカタ、ホントウニ筆頭分家ナンデスカ」


 あ、なんか、棒読みになっちゃった。


 目の前に座っている可奈が笑いを堪えている。

 麗子さんが、ぷっと噴出す。

 だけど、相変わらず、千世子という人は怒りを露わにしていた。

  

「一恵さん、いつものようにして。このままだとわたし、お腹痛くてたまらなくなりそうだから」

「そう? わかった。……じゃあ、改めて聞きたいんだけど、こちらの方は本当に筆頭分家なの?」

「ちょっ、ちょっと、岩本さん?! あなた、麗子様になんて口しているのよ」

「え?」

「知らないなんて言わせないわっ。麗子様は、土岐島本家の姫王女ひめさまよ!!」

「千世子、一恵さんはいいのよ」

「え? で、ですがっ」


 一呼吸おいて、麗子さんは可奈に話しかける。


「可奈さんはご存知なんですよね?」

「一恵ちゃんのことですよね。……はい」

「一恵さん、この場合、仕方ないと思うわ。それに、千世子にはあなたのことを教えたいのよ」

「わかったわ」


 最後は、なんだかお願いっぽかったけど、わたしもこれ以上つっかかられるのも嫌だから、了解した。

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