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……わかったけど、でも、なんでお祖父様はあんなうそを?
はぁ、考えても疲れるだけ。もうやめよう。
「……ねぇ、この話は、もう終わりにしない?」
「うん。そうだね。ねぇね、一恵ちゃん。ミルクティー、いい香りだよ」
カップを鼻の高さまで上げ、彼女は匂いに浸る。
見ていると、彼女と目が合いそうになり、わたしは急いで下を向いた。
そういえば、可奈と同じ会社だったんだよね。退社したあとだなんて……運なさすぎ。
そんなことを考えながら、わたしはカップに紅茶を入れ、ミルクと混ぜ合わせた。
「うわぁ、一恵ちゃん。す、すごいっ」
カップに口をつけていた可奈は、一瞬、硬直状態に陥っていた。
え? なんで……?
意味がわからず、ただわたしは彼女の口元を見続けた。
「えと……砂糖入れないで飲めるなんて、すごいって思って。わたし、砂糖なしじゃ、飲めないんだ」
え、砂糖? さっき入れたんだけどな。
入れてあるわ、そう言ってわたしは紅茶を一口飲む。
紅茶特有の渋味とミルクの甘さが程よく調和され、口の中に広がった。
し、シブいぃ……。
可奈が言うように、わたしは砂糖を入れ忘れたらしい。
「あはは。入れ忘れちゃった。わたしも、砂糖なしじゃ無理」
そう言って、わたしは砂糖を二杯、紅茶の中に沈めた。
「一恵ちゃんって、わたしと似てる部分あったんだぁ。大発見、かな。……あ、あれ?」
「どうしたの?」
「麗子様だよね? ほらあそこ」
可奈の目線を追うと、店内の奥に一人の女性が座っていた。
「ほんとだ。珍しい」
唯一、彼女は本家の娘と発表されている。
土岐島本家の人間は、あまりイベントを行わず、表に出て来ることが滅多にない。
外に出てくるとすれば、ほとんど岩本か高藤のサポートや合同イベントだけ。
「今日、イベントあったっけ?」
「高藤は知らないけど、岩本は半日デートイベントがあるわ」
「半日デートじゃ、岩本をサポートしないよね」
「そうね」
話しているうちに、彼女の周りが騒がしくなった。
「うわっ、一気に囲まれちゃったね。麗子様……あれ? 千世子さん」
突然、店の入口付近に座っていた女性が、わたしたちのテーブルに来て戸惑う。
「あれじゃないでしょ、可奈。用があったから来たのよ。それに、あたし中級から筆頭に位が格上げになったのよ? ちゃんと言い直してほしいわ」
「あっ……すみません。千世子様」
可奈に言い直しを命じながら、わたしを見下した。そして、彼女はふふん、と笑った。
なんだか、感じの悪い女性だと思った。
最悪な第一印象。
「で、あなたが……岩本一恵さん、よね?」
「え? えぇ」




