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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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 そこへ店員が来る。敏速にテーブルへと注文したものを置くと、会釈して離れた。


 すごいな。本格的って感じ。


 花柄の小さなティーポットに、受け皿にカップが伏せて置かれている。


「さ、味わいましょうよ」

「あ、う、うん。あの一恵ちゃん」

「なあに?」

「うん。あのイベントのことだけど。中止になった理由は……」


 熱ッ!


 カップの取っ手を持つと、めちゃくちゃ熱かった。

 わたしは慌てて手を離し、耳たぶを触った。


「か、一恵ちゃん?! ……やけどしたのっ」

「う、うん」

「あーびっくりした。大丈夫?」


 平気よ、そう言って、わたしは彼女の手元を見た。


「……イベント中止の理由、可奈、知ってるの?」

「うん。わたし、応募してたから。中止の連絡ハガキ届いたの」

「可奈、応募してくれてたんだ。でも、あのイベント……お花見をして、写真撮ってさよなら、でしょう」

「魅力的だよっ。公共の場に貼られるけど、撮ってくれた写真を特大ポスターにしてくれるもん」

「貴重な休日に、イベント会場に来て、わたしと写真撮るなんてめんどいと思う」

「そんなことないよ。だったら、イベントが中止にならなかったわ」

「え? どういうこと?」

「抽選に外れた人がね、一週間も前から会場周辺に集まり出したの。写真撮れないなら、一目見ようって」

「……。……う、そ」


 一瞬、言葉が出てこなかった。


「人が溜まりすぎて? ……信じられないわ」

「テレビでもニュースになったんだよ」

「そう。……わたし、あまりテレビとか見ないから」

「そっか。わたしもそうだけど、応募した人は一恵ちゃんの写真欲しいからだと思うの」

「え? わたしは表向き本家じゃないから、写真撮っても問題ないのに」


 本家の場合、当主の許可なく、勝手に写真を撮ったり、金銭の有無なく、撮ったものを配ったりする行為は法律上禁止されている。


「うん。でもねー、前に通達があったんだ。特例が出て、一恵ちゃんの写真を撮るには、本家の……俊成様の許可が必要って」


「……そう、だったの」


 お祖父様から聞かされたのかもしれないけど、覚えてない。


「たしか、高校入る前の春休みくらいに決まったかも。一恵ちゃんだけじゃなくて、高藤と土岐島本家からもあったよ」

「あまり、高藤との交流なかったからなぁ。でも、土岐島本家は、麗子さんでしょ。すでに、公表されているんだから、写真禁止は当たり前だと思うけど」

「それが、名前忘れちゃったけど男の人だったわ」

「男の人? ……ふーん」


 土岐島本家は、麗子さんしか知らない。考えてもわからないので、追求するのをやめた。


「あっ、話それちゃったね。……えっと、一恵ちゃんの人気がすごくて……」

「いいよ、可奈。中止の理由わかったから」

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