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そこへ店員が来る。敏速にテーブルへと注文したものを置くと、会釈して離れた。
すごいな。本格的って感じ。
花柄の小さなティーポットに、受け皿にカップが伏せて置かれている。
「さ、味わいましょうよ」
「あ、う、うん。あの一恵ちゃん」
「なあに?」
「うん。あのイベントのことだけど。中止になった理由は……」
熱ッ!
カップの取っ手を持つと、めちゃくちゃ熱かった。
わたしは慌てて手を離し、耳たぶを触った。
「か、一恵ちゃん?! ……やけどしたのっ」
「う、うん」
「あーびっくりした。大丈夫?」
平気よ、そう言って、わたしは彼女の手元を見た。
「……イベント中止の理由、可奈、知ってるの?」
「うん。わたし、応募してたから。中止の連絡ハガキ届いたの」
「可奈、応募してくれてたんだ。でも、あのイベント……お花見をして、写真撮ってさよなら、でしょう」
「魅力的だよっ。公共の場に貼られるけど、撮ってくれた写真を特大ポスターにしてくれるもん」
「貴重な休日に、イベント会場に来て、わたしと写真撮るなんてめんどいと思う」
「そんなことないよ。だったら、イベントが中止にならなかったわ」
「え? どういうこと?」
「抽選に外れた人がね、一週間も前から会場周辺に集まり出したの。写真撮れないなら、一目見ようって」
「……。……う、そ」
一瞬、言葉が出てこなかった。
「人が溜まりすぎて? ……信じられないわ」
「テレビでもニュースになったんだよ」
「そう。……わたし、あまりテレビとか見ないから」
「そっか。わたしもそうだけど、応募した人は一恵ちゃんの写真欲しいからだと思うの」
「え? わたしは表向き本家じゃないから、写真撮っても問題ないのに」
本家の場合、当主の許可なく、勝手に写真を撮ったり、金銭の有無なく、撮ったものを配ったりする行為は法律上禁止されている。
「うん。でもねー、前に通達があったんだ。特例が出て、一恵ちゃんの写真を撮るには、本家の……俊成様の許可が必要って」
「……そう、だったの」
お祖父様から聞かされたのかもしれないけど、覚えてない。
「たしか、高校入る前の春休みくらいに決まったかも。一恵ちゃんだけじゃなくて、高藤と土岐島本家からもあったよ」
「あまり、高藤との交流なかったからなぁ。でも、土岐島本家は、麗子さんでしょ。すでに、公表されているんだから、写真禁止は当たり前だと思うけど」
「それが、名前忘れちゃったけど男の人だったわ」
「男の人? ……ふーん」
土岐島本家は、麗子さんしか知らない。考えてもわからないので、追求するのをやめた。
「あっ、話それちゃったね。……えっと、一恵ちゃんの人気がすごくて……」
「いいよ、可奈。中止の理由わかったから」




