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「そんなに回ると、気持ち悪くなるよ」
「ほーい」
ぴたり、と止まると、可奈ちゃんは平衡感覚を失って、地面に手をぺタリとつけてしゃがんだ。
「平気?」
可奈ちゃんの顔を覗き込んだ。サラサラしている髪の毛が、夕日の光に照らされきれいな光沢を出している。
「うん」
頷いて、可奈ちゃんは話し始める。
「ほんとはね、わたしって幼いかなーって思っていたんだ。……一恵ちゃん」
「なあに?」
「……よいしょっと」
ゆっくりと、可奈ちゃんは立ち上がった。
「これから、少しずつ大人になるんだ。一恵ちゃん、がんばるからね。わたし」
返事をすると、可奈ちゃんはまたガッツポーズをしてみせた。
その姿がなんともかわいらしかったので、わたしはこのまま大人になればいいなあ、と本気で思った。
中学二年、三年とも可奈ちゃんとは一緒になれなかったけれど、クラブで顔を合わせていた。
卒業するまで、可奈ちゃんはあのまま変わらなかった。
◆ ◆ ◆
可奈の『がんばるぞーさん』のポーズを脳裏に浮かべ、ふふふと笑った。
そうだわ。可奈に会いに行かなくては。
思い出して、わたしは腕時計を見た。
九時五十八分……。可奈、もうそろそろ来るはず。
しかし、わたしは動きたくなかった。寒いからではなくて、行きたくないから……。
六番線まであるホームには、あちらこちらで、電車が止まっては人を下ろし、また乗せ去って行く。
待ってくれるって言ってたけど、ほんとに可奈、来てくれるのかな。
わたしをだましているのかもしれないし……。
ばかね、あの娘がそんなことするわけないじゃない。
だけど、もし……。どうしよう。
しばらくの間、わたしは肯定と否定を繰り返していた。
電車の近づいて来る音が、わたしの耳に届く。
座っている後ろの六番ホームに、霧吹きのような音を立てて来た。
駅員の放送が流れると同時に、一転して騒がしくなる。
うるさいなぁ。
ふと、腕時計に目を落とす。
……あっ、もう十時すぎている。いやだけど、待ってたら悪いし。行ってみようかな。
そうは思ってみたものの、まだホーム内は雑音に包まれている。
ここで行ったら、人込みに紛れながら行かなくてはいけない。
もう少し、待ってようかな。
ふぅー、とため息をつく。出た吐息は、雲みたいにも見えた。
階段の方を向くと、わたしくらいの歳だろうか、女性がふたり、こちらに歩いて来る。
彼女たちは、色違いのスーツを着ていた。
「結婚するなら、四十代がいいかな」
「四十代ぃ?! ちはる、いくら何でも……」
薄い黄緑色のスーツの人が呼ぶ名前に、わたしは息を呑んだ。
まさか、ちはるって……。
足早にわたしの前を通る彼女たちを見る。




