表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
16/34

16

 夕日のオレンジ色が、可奈ちゃんの制服を茶色に染めた。春の暖かい風が、わたしたちを通りすぎていく。

 可奈ちゃんは、少し考えると、カバンをブンブンと振って拗ねた。


「だってさー、手をつないで帰れないんだもん。ふたりだと手をつなげるでしょ。わたし、手をつないで歩くの好きなんだ」

「へ?」


 可奈ちゃんの言葉を聞くと、わたしは軽いめまいを起こしてしまった。


 ふーん。可奈ちゃんって、甘えんぼさんなんだぁ。かわいいけど、手をつないで……はちょっとなぁ。


「可奈ちゃん。何歳?」

「うんとねー、十二だよ」

「わたしもそうだけどね」

「うん」

「じゃあね、手をつないで帰るのが好きなんて、言わないほうがいいよ」

「どーして?」

「んー彼氏とかさ、小さな子同士ならいいと思うんだけど。ほら、もうわたしたち十二でしょ。幼いかなって」


 可奈ちゃんはびっくりした眼差しでわたしを見てから、ニコッと笑った。


「どうしたの? 可奈ちゃん」

「驚いちゃったの」

「なにが?」


 可奈ちゃんに視線を合わせる。


「だってね、一恵ちゃんってすごいなぁって思ったの」

「だから、なんで?」

「一恵ちゃん、大人なんだねー。やっぱ本家のお姫様だねっ」


 お、大人って。しかし、なんで本家ってのが出てくるんだろ?


 心地よい風に吹かれて、可奈ちゃんの前髪が揺れ、隠れていたおでこが顔を出す。

 風が、わたしの疲れを少しだけ取り去ってくれた。


「あまり、ひとりにはなりたくないの。泣きたくなると、手をつなげないもん。手をつなぐとね、ひとりじゃないからすごく安心するの。わたし、甘えん坊だから」


 また、可奈ちゃんは話を続けた。うれしそうに笑っている。


「一恵ちゃんはすごいよねー。実を言うとね、お母さんとデパートに行くでしょ。みんな、お母さんと離れても平気なのに、わたし、泣きたくなっちゃうんだよ。妹はもう大丈夫なのに」


 え? 妹……?


 ハッとして、わたしは可奈ちゃんを見る。まさか、と思ったけど思いきって尋ねた。


「……可奈ちゃん、長女?」


 きょとんとした目で、わたしを見たが、可奈ちゃんはそのまま頷いた。


「わたし、末っ子だと思っていた」


「よく言われるよ。わたし、そう見られるみたいだもん」

「でも、妹がいていいなぁ。わたしね、ひとりっ子なの」


 笑顔を崩さないまま、可奈ちゃんはカバンを抱きしめた。


「えーっ。一恵ちゃん、ひとりっ子なんだー。淋しくない?」

「そんなことないけど」

「すっごーい! わたしも一恵ちゃんみたいに、大人になろーっと。がんばるぞーぉ、さん」


 可奈ちゃんはガッツポーズをした。


「可奈ちゃん。いまの『ぞー、さん』っていうの、シャレ?」


 キャッキャッ笑いながら、可奈ちゃんはくるくると体を回した。


「もっちろーん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ