16
夕日のオレンジ色が、可奈ちゃんの制服を茶色に染めた。春の暖かい風が、わたしたちを通りすぎていく。
可奈ちゃんは、少し考えると、カバンをブンブンと振って拗ねた。
「だってさー、手をつないで帰れないんだもん。ふたりだと手をつなげるでしょ。わたし、手をつないで歩くの好きなんだ」
「へ?」
可奈ちゃんの言葉を聞くと、わたしは軽いめまいを起こしてしまった。
ふーん。可奈ちゃんって、甘えんぼさんなんだぁ。かわいいけど、手をつないで……はちょっとなぁ。
「可奈ちゃん。何歳?」
「うんとねー、十二だよ」
「わたしもそうだけどね」
「うん」
「じゃあね、手をつないで帰るのが好きなんて、言わないほうがいいよ」
「どーして?」
「んー彼氏とかさ、小さな子同士ならいいと思うんだけど。ほら、もうわたしたち十二でしょ。幼いかなって」
可奈ちゃんはびっくりした眼差しでわたしを見てから、ニコッと笑った。
「どうしたの? 可奈ちゃん」
「驚いちゃったの」
「なにが?」
可奈ちゃんに視線を合わせる。
「だってね、一恵ちゃんってすごいなぁって思ったの」
「だから、なんで?」
「一恵ちゃん、大人なんだねー。やっぱ本家のお姫様だねっ」
お、大人って。しかし、なんで本家ってのが出てくるんだろ?
心地よい風に吹かれて、可奈ちゃんの前髪が揺れ、隠れていたおでこが顔を出す。
風が、わたしの疲れを少しだけ取り去ってくれた。
「あまり、ひとりにはなりたくないの。泣きたくなると、手をつなげないもん。手をつなぐとね、ひとりじゃないからすごく安心するの。わたし、甘えん坊だから」
また、可奈ちゃんは話を続けた。うれしそうに笑っている。
「一恵ちゃんはすごいよねー。実を言うとね、お母さんとデパートに行くでしょ。みんな、お母さんと離れても平気なのに、わたし、泣きたくなっちゃうんだよ。妹はもう大丈夫なのに」
え? 妹……?
ハッとして、わたしは可奈ちゃんを見る。まさか、と思ったけど思いきって尋ねた。
「……可奈ちゃん、長女?」
きょとんとした目で、わたしを見たが、可奈ちゃんはそのまま頷いた。
「わたし、末っ子だと思っていた」
「よく言われるよ。わたし、そう見られるみたいだもん」
「でも、妹がいていいなぁ。わたしね、ひとりっ子なの」
笑顔を崩さないまま、可奈ちゃんはカバンを抱きしめた。
「えーっ。一恵ちゃん、ひとりっ子なんだー。淋しくない?」
「そんなことないけど」
「すっごーい! わたしも一恵ちゃんみたいに、大人になろーっと。がんばるぞーぉ、さん」
可奈ちゃんはガッツポーズをした。
「可奈ちゃん。いまの『ぞー、さん』っていうの、シャレ?」
キャッキャッ笑いながら、可奈ちゃんはくるくると体を回した。
「もっちろーん」




