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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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 わたしの両親は、岩本勇と都子だ。父は、「岩本家」本家の次男。母は、今は本家当主不在だけど、名家のひとつ「高ノ居家」本家の長女。だから、紛れもなく、わたしはに本家生まれだ。だけど、物心ついたころ、岩本本家の当主であり、わたしの祖父から、中級分家と発表することを伝えられた。


 彼女は真相が知りたいみたいで、わたしの言葉を静かに待っている。


「ははと……うん、あのね、母と一緒に本家の方に呼ばれたのよ。ほら、もうすぐ、勇様のお誕生日でしょう。イベントを催すときに協力してほしいからと言われたの」

「そうだったんだぁ。わたし、毎年、勇様のお誕生日イベントを楽しみにしているのよ」


 ごめんね、本当はうそなの。

 このまま、また何回も何十回もうそをついてごまかせないといけないのかな。疲れそう……っていうか、もう無理……。


 うれしそうな表情のまま、彼女はわたしを解放した。

 こうして、わたしは何度か似たようなうそをついて、本家だとばれないようにした。だけど、もう限界だった。両親に相談すると、すぐに祖父に呼ばれた。


『一恵の担任に事情を話したから協力してもらいなさい』


 もし、気の許せる友達が出来たなら数人だけ本家と打ち明けてもよい、と付け加えられた。ホッとした。


 中学にも友達にもなれたころ、数人だけど心から気の許せる友達に巡り合えた。その子達に本家の人間だと伝えても、壁を作らず、自然に接してくれるやさしい人たちだった。


 そんなとき、わたしはもっと親しくなりたいな、と思える子がいた。

 わたしと可奈ちゃんと初めて同じクラスになったのは、中一。

 同じ小学校だったのに、一度も同じクラスにはならなかった。

 最初に見た可奈ちゃんは、未っ子の甘えん坊な女の子っぽく、すぐに泣くけれど、それがとてもかわいかった。

 比較的早く、彼女にわたしが本家だと伝えていた。そのとき可奈ちゃんは、本物のお姫様なんだぁ、とうれしそうにはしゃいだ。

 もっと可奈ちゃんと親しくなれるきっかけがあればいいのになぁ、とずっと思っていた。


 そう、あれはもうすぐ春が終わる頃。

 ちょうど、下校するのが可奈ちゃんと同じになったので、わたしは声をかけた。


「可奈ちゃん。ひとりで帰るの?」

「うん。だって、仁美ちゃんがね、急に委員会になっちゃったの。だからひとりだよ」


 プクーッとふくれた頬を見て、わたしは心の中でかわいいなぁ、と思った。


「じゃあ一緒に帰ろうよ」


 可奈ちゃんは屈託のない笑顔をすると、わたしの手を握った。


「ほんとー? よかったぁ。わたし、ひとりで帰るのいやなんだ」


 わたしたちは、校舎を出て歩き始めた。


「ねぇ、可奈ちゃん。どうして、ひとりで帰るのがいやなの?」

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