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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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            ◆ ◆ ◆


「まもなく……駅に到着します。お降りの方は、お忘れ物のないようにお願いします」


 ……え? あ……そうか。わたし、電車に乗っていたんだよね……。


 車内放送で、わたしは我に返る。

 バックの取っ手を左腕にかけ直し、電車が止まるのを待った。


 いまさら、思い出してもしかたないのにな。

 どうして、いつもこうなんだろう。

 ……わたしの悪い癖なのかもしれない。


 ゆっくりと、電車はホームに横づけされる。車内から出ると、冷え込んだ駅で、ブルッと震えた。

 腕時計に目を落とし、まだ時間が早いことに気づいた。


 ……九時四十分か。しかたないな、ベンチにでも座ろう。


 自動販売機の前にあるイスは、運良くだれも座っていなかった。

 腰を下ろすと、ベンチとくっついている太ももが、温かさを吸い取られていくのがわかった。


 うわっ、冷たい。……そう言えば、変わったよね、可奈って。

 わたしは、可奈の姿を頭の中で思い浮かべた。


 まさか、あのが……。


 わたしはくすくすと笑った。昔の可奈は、同い年のわたしから見ても、幼いと感じる。

 中学のころの可奈を、思い出さずにはいられなかった。と同時に、入学したてのときの出来事も脳裏に浮かびあがった。



「岩本さんって、中級分家なのに、なんで公立中学なの?」

「分家の方って、私立に行くものだと思っていたわ」


 小学校のときはあまり言われなかったけど、南灘全域からここの中学に集められるためか、何度か質問された。


 小学校入学して間もないころ、分家での両親から一通り中級分家の生活などについて学んだ。

 それによれば、分家のほとんどは公立ではなく私立に通うのが一般的だけど、それは中級分家の子息や子女に当てはまらない。親がなんとかして待遇のよい、次頭分家や筆頭分家の子供と婚姻させ階級をあげたいために、上位分家に侍女として奉公にあがらせているから。だから、中級分家の子供は、授業料が安い、私立中学通信科に身を置く者がほとんど。わたしのように、公立に通う者はごく稀らしい。


 通う中学の質問から解放されたころ、また新たな疑問がクラスメートから口にされる。


「おはよ、岩本さん」

「あ、おはよう」

「ねぇ、岩本さんて……本家の方と交流があるの?」


 朝、学校に行くと、隣の席の女の子が聞いてきた。


「え?」

「この前ね、本家の近くを通ったら、岩本さんが御殿いえの中に入って行くのを見たのよね」


 本家の娘だし、そこに住んでいるところだから当たり前なんだけどな。

 と思いつつ、わたしはどうしようかと迷った。

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