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「まもなく……駅に到着します。お降りの方は、お忘れ物のないようにお願いします」
……え? あ……そうか。わたし、電車に乗っていたんだよね……。
車内放送で、わたしは我に返る。
バックの取っ手を左腕にかけ直し、電車が止まるのを待った。
いまさら、思い出してもしかたないのにな。
どうして、いつもこうなんだろう。
……わたしの悪い癖なのかもしれない。
ゆっくりと、電車はホームに横づけされる。車内から出ると、冷え込んだ駅で、ブルッと震えた。
腕時計に目を落とし、まだ時間が早いことに気づいた。
……九時四十分か。しかたないな、ベンチにでも座ろう。
自動販売機の前にあるイスは、運良くだれも座っていなかった。
腰を下ろすと、ベンチとくっついている太ももが、温かさを吸い取られていくのがわかった。
うわっ、冷たい。……そう言えば、変わったよね、可奈って。
わたしは、可奈の姿を頭の中で思い浮かべた。
まさか、あの娘が……。
わたしはくすくすと笑った。昔の可奈は、同い年のわたしから見ても、幼いと感じる。
中学のころの可奈を、思い出さずにはいられなかった。と同時に、入学したてのときの出来事も脳裏に浮かびあがった。
「岩本さんって、中級分家なのに、なんで公立中学なの?」
「分家の方って、私立に行くものだと思っていたわ」
小学校のときはあまり言われなかったけど、南灘全域からここの中学に集められるためか、何度か質問された。
小学校入学して間もないころ、分家での両親から一通り中級分家の生活などについて学んだ。
それによれば、分家のほとんどは公立ではなく私立に通うのが一般的だけど、それは中級分家の子息や子女に当てはまらない。親がなんとかして待遇のよい、次頭分家や筆頭分家の子供と婚姻させ階級をあげたいために、上位分家に侍女として奉公にあがらせているから。だから、中級分家の子供は、授業料が安い、私立中学通信科に身を置く者がほとんど。わたしのように、公立に通う者はごく稀らしい。
通う中学の質問から解放されたころ、また新たな疑問がクラスメートから口にされる。
「おはよ、岩本さん」
「あ、おはよう」
「ねぇ、岩本さんて……本家の方と交流があるの?」
朝、学校に行くと、隣の席の女の子が聞いてきた。
「え?」
「この前ね、本家の近くを通ったら、岩本さんが御殿の中に入って行くのを見たのよね」
本家の娘だし、そこに住んでいるところだから当たり前なんだけどな。
と思いつつ、わたしはどうしようかと迷った。




